石じじいの話・三十円の呪い
石じじいの話です。
じじいが子供の頃に聞いた話だそうです。
むかし、農家の家族が、友人から金を借りました。
三十円。
農家の主人が病気で伏せってしまい、野良仕事ができなくなったからです。
彼の病状は回復せず、彼らの収入が途絶えてしまったのです。
当時、いろいろと物入りだったのですが、どうしようもない。
その窮状を知っているはずの友人は、農夫に金の返済を執拗に迫りました。
その友人の目的は、農夫の農地にあったのでしょう。
しかし、返済できる見込みはない。
そのうち、その農夫は死んでしまいました。
満足な治療を受ける金もなかったのです。
友人は、農夫の妻に対して訴訟を起こして、土地を手に入れました。
彼の計画は完遂されたわけです。
この手の話の定石通り、農夫の妻は、赤ん坊を連れて自殺しました。
その友人は、富裕な一族の長男であり、たくさんの子どもたちに囲まれ、「幸福な」生活をおくっていたのですが、これまた、この手の話の定石通り、不幸にみまわれます。
彼の長男が、五厘銅貨を飲み込み、それを喉につめて死にました。
さらに、長女も硬貨を喉につめて死ぬ。
他の子どもたちは、顔一面に一銭、二銭銅貨のかたちをした瘡ができて、死にました。
これは、農夫の呪いではないか?と恐れて、彼は、神仏の加護にすがりました。
しかし、それ以後も、不幸は続きました。
彼の正妻や妾に子どもができても、必ず硬貨を誤飲して死んだそうです。
これに恐怖した正妻は、精神に異常をきたして狂死しました。
彼女の着物の懐には大量の硬貨が入っていたそうです。
彼は「銭」を恐れました。
硬貨を身辺に近づけないようになったので、経済生活が難しくなりました。
こうして、彼も徐々に常軌を逸した行動をとるようになったのです。
ある朝、彼は、たくさんの硬貨を飲み込んで、死んでいたそうです。
前日に、銀行から金を引き出し、それをすべて硬貨に換えて持ち帰っていたのです。
あれだけ硬貨を嫌っていたのにと、銀行の人は首をかしげていました。
彼と彼の家族の命を奪った硬貨の合計が三十円であれば、話としては良い落ちです。




