石じじいの話・山の靴屋
石じじいの話です。
じじいが石探しのために山を歩いていると、新しいズック靴を見つけました。
しかも、左足のものだけ。
だれかが落としたのだろうか?
まさか、脱ぎ捨てわけではないだろう。
こんな新しいものを。
どうして、こんなところに?
少し行くと、また靴を見つけました。これも左足のものです。
今度は、新しい革靴で、山に履いてくるようなものではありません。
まるで、おろしたてのような状態です。
雨風に晒されていたとは思われないほどきれいなのです。
だれかが落としたのだろうか?
まさか、脱ぎ捨てわけではないだろう。
こんな新しいものを。
どうして、こんなところに?
革靴のサイズを見てみると、自分の足にピッタリです。
履いてみようかと思ったのですが、今履いている靴を脱ぐのがめんどくさいので、やめたそうです。
右足のものもないか、とあたりを探したのですが見つかりませんでした。
誰かが落としたのかもしれないと思って、それをビニール袋でくるんで近くの樹木の根元に立てかけておいたそうです。
少し行くと、また靴が片方落ちていました。
これも新しい、真っ赤な女ものの靴です。
だれかが落としたのだろうか?
まさか、脱ぎ捨てわけではないだろう。
こんな新しいものを。
どうして、こんなところに?
まわりを見渡しても、もう片方は見つかりませんでした。
ビニール袋をつかうのももったいないので、雨が入らないようにひっくりかえして、木の根元に置いておいたそうです。
そこから尾根に出た時、とても小さな祠がありました。
いや、祠と言うより、小さな木の箱のようなものでした。
そこに、また、履物が落ちていました。
それは、真新しい下駄、白い鼻緒が眩しい。
もちろん片方だけです。
まさか、下駄を履いて、ここまで登っては来れまいし、ここで履く意味もないだろう。
だれかが落としたのだろうか?
まさか、脱ぎ捨てわけではないだろう。
こんな新しいものを。
どうして、こんなところに?
そこは、標高のかなり高い場所だったので、そう気楽に人は来ないと思われました。
まして、靴屋が来ることはないだろう。
「あれはなんやったんかのう。あの靴のどれかを、あそこで履いとったら、なんかおかしなことが起こったかもしれんかったね。落ちとる靴がどれも左足のもんやったのも不思議やったわいね。」




