石じじいの話・見上げる女
石じじいの話です。
これは、よくある話です。
じじいが、他の怪談話を自分の経験のように話したのかもしれません。
じじいが子どものころの話です。
じじいが小学校に通っている時、学校のある町で、いつも前を通る二階だての家がありました。
その家は、大きく古く、遊郭か商家のように見えたそうです。
その家の二階の窓から、いつも女性が空を眺めていました。
若い女性でした。
朝、登校する子どもじじいが通ると、いつも空を見上げているのです*。
学校がある時は必ず。
例外はありませんでした。
日曜日、学校が休みの時、親につられて町に行った時に、たまたまそこを通ると、やはり女性は空を見上げているのです。
それでも、彼女を、町中で見かけることはなかったのです。
いつも、空を見上げているので、彼女と目が合うことはありませんでしたし、顔もよく見えなかったそうです。
ただ、服や全体の感じから、若い女性と思ったのです。
子どもじじいも、彼女が見上げている方向を見上げてみましたが、何もありませんでした。
その女性を見かけると、必ず彼女が向いている先を見ました。
そこには、空が広がっています。
花曇、梅雨時の雨雲、夏の白い入道雲、秋のうろこ雲、冬のどす黒い雪雲。
彼女は一日中、窓から空を見上げているのだろうか?
夜はどうなのか?**
まさか、24時間空を見ているわけではないだろう。
なぜ、空を見ているのだろう?
天気を観測しているのだろうか?
何かが迎えにくるのを待っているのだろうか?
孤独で寂しいのだろうか?
まさか、囚われの身ではないだろう。
などと、子どもじじいは想像を膨らませました。
ある日、その家で葬式が行われました。
そして、その日から、女性は窓に姿を現さなくなったのです。
彼女が亡くなったのでしょう。
その前日まで、空を見上げていたのに。
その葬式は、高齢の女性のものでした。
亡くなったのは、その女性ではなかったのです。
そう親から聞いて、子どもじじいは混乱したそうです。
しかも、その家には、そのような若い女性は住んでいないということでした。
それからも、その女性が窓に姿を現すことはありませんでした。
町なかで見かけることもありませんでした。
彼女は、亡くなった人を看病していた人で、役目を終えたので、その家から去ったのだろう、と子どもじじいは自分なりに納得したそうです。
*窓際にいつも立っている女性を見かけるが、彼女は、実は窓際で首を吊って死んでいた、という怪談話がよくあります。
**子どものじじいは、夜に、そこへ行くことはなかったので、夜間の様子はわかりませんでした。




