石じじいの話・結晶の中の顔
石じじいの話です。
じじいは、岩石や鉱物を集めていたので、それらについての知識が豊富でした。図書館や自分で買った本で勉強していたようです。
実際に、生活のために野山を歩いて収集しているので、実践経験も豊富だったのです。
それで、私にも、岩石や鉱物、化石、地層などについて、いろいろと教えてくれました。
これらについての私の知識は、じじいの講義によることが多いのです。
鉱物の結晶の中に、人間の顔が保存されていることがあったそうです。
結晶の内部は単純で一様ではなく、いろいろな不純物が含まれているのだそうです。
水泡や別の鉱物の結晶などが入っているのです。
これらを、包含物と呼ぶのだとか。
石英などの透明度の高い結晶では、外側から容易に包含物を見ることができるそうです。
ある人が、たくさんの包含物を持つ鉱物結晶をもっていました。
その鉱物の種類は、メモには明確には記録されていないのですが、おそらく石英でしょう。
その包含物は、「人の顔」でした。
頭部がまるまる入っているのではなく、顔だけが含まれていたのです。
つまり、後頭部や首から下は無い。
ただし、指の付いた手のようなものが、数個見られたようです。
女性や男性の顔がたくさん含まれていました。
老人や子どもの顔もあったそうです。
小さいものは、肉眼ではよくわからないので、ルーペ(拡大鏡)や実体顕微鏡を使って観察したということです。
顕微鏡など、当時も(現在も)高価だったと思うのですが、その鉱物の所有者は裕福な人だったのでしょう。
人は、3つの点があると、それを人の顔だと認識することがあるそうなので*、それではないかとよく調べたそうですが、どう見ても、それらは人の顔でした。
しかも、その包含物としての顔が「動く」のです。
顔の位置は変わらないのですが、表情が変わるのです。
無表情のように見える顔が、別の日に見ると笑っている、怒っている、苦しんでいる。
表情が変化するところを見ようと、同じ顔を頻繁に時をおいて観察したのですが、けっきょくその過程を見ることはできなかったそうです。
さらに、その結晶を温めると、たくさんの顔の表情が一斉に変化したように見えたのです。
あまり高い温度で加熱すると、結晶の中の「顔たち」が死んでしまうのではないか?と所有者は心配していていました。
じじいは、それはありますまい!と思ったそうです。
顕微鏡で顔写真を撮影しようとしたそうですが、当時は、そのような専用のカメラは入手できず、普通のカメラでっ挑戦しました。
かなり難しい作業でしたが、いちおう成功はしたようです**。
その鉱物が、その後どうなったかはメモにはありません。
別のメモには、結晶を割って包含物を取り出そうとしたがうまく行かなかった、という記述もありますが、それが、その顔であったかどうかは不明です。
石の中に、生きた生物(人間の女性なども含む、しかも美人)が入っていて動くという話は、昔からあるようです。
*シミュラクラ現象
**顕微鏡の接眼レンズの部分にカメラのレンズを近づけて(覗くようにして)撮影したそうです。
しらべてみると、コリメート法というのがそれです。




