石じじいの話・いくつかの短い話 2:土の信仰;娘に鏡を;蛇の鱗;カエルは住まない;花菖蒲の沼
石じじいの話です。
短い話をいくつか書きましょう。
(1) 土の信仰があったそうです。どのようなものかというと、ある場所には「土の神」がおり、その場所の土をもらって帰って家の周辺に撒くと健康になるということでした。その神は、たんに「土の神様」と呼ばれていて、その場所は神社とは無関係のものだったそうです。
(2) 13歳になると鏡を娘に与える風習がある地方があったそうです。その娘は、白絹か白い綿で袋を縫い、それに鏡を入れて保管します。23歳になると神様から知恵を授かるのだそうです。
(3) 背中や脇の下に蛇の鱗がある家系があったそうです。彼らは、その身体的特徴を他人に知られるのを非常に嫌がっていました。
まあ、当然でしょう。
以前の石じじいの話に、「蛇を生んだ家がある」*というのがありましたが、それと関係するのでしょうか?
(4) カエルの住まない池があったそうです。ある池には、カエルが一匹もいませんでした。まわりの田んぼや近くの池にはたくさんのカエルがいて、季節になるとゲロゲロとうるさいくらい鳴いていたのに、その池にだけ、まったくカエルがいないのです。
子どもたちが、カエルを放しても定着しない。オタマジャクシを放しても成体まで育だたず姿を消す。
カエルを食べる動物がいるわけでもない。そのような魚や鳥も見かけない。
たとえ、そのような動物がいたとしても、カエルをとり尽くすことはないでしょう。
(5) 池といえば、よく人が溺れ死ぬ沼があったそうです。そこは、岸辺に花菖蒲が咲く美しい沼でした。波ひとつない水面には、空の真っ白な雲が映り込んでいて、そのまわりに菖蒲の花が咲いている。
それを見ていると、その菖蒲の花を飛び越して水面の上に映っている雲に飛び乗ることができるような気がして、沼に飛び込んでしまう。
すると、泥に足を取られて抜け出せなくなり、ズブズブと沈んでしまう。
知り合いと一緒に山菜採りに来て溺れた女性は、なんとか助かりましたが、飛び込んだ理由を、このように説明したそうです。
この、水死体が浮かぶ沼に生えている菖蒲を食べると長生きする、という言い伝えもあったそうです。
ズブズブと沈むか、長生きするか?**
*「蛇を生んだ家がある」というのは:
「亥の子」という、子どもたちだけが参加する行事があるのですが、ある地方では、その時に唱える歌は「亥の子の餅つかん者は、鬼を生め、蛇生め、角のはえた子生め」だったそうです。
こう話してくれた最後に、
「ある年にな、その『蛇』を生んだ家があったんで。」
と、じじいが付け加えた、という話です。
**菖蒲を食べると長生きするといううわさは、人を引き寄せて溺れさせるための「囮」だったのかもしれません。




