石じじいの話・ハエ男の恐怖
大量の昆虫が出てきます。
ご注意ください。
石じじいの話です。
じじいが山を歩いていると、山道の先に黒い人が立っていました。
いや、最初は、枯れ木かと思ったそうです。
じじいが近づいていくと、いきなり、その黒いものが四方に飛び散りました。
それは、大量のハエでした。
のこったのは、白い人間で、表面がうごめいている。
それは、ウジでした。
ウジが体を覆い、まわりを大量のハエが飛び回っているのです。
じじいは、悲鳴をあげそうになりましたが、なんとかこらえて、恐る恐る近寄りました。
声をかけたが動かない。
当然でしょう。
しかし、声をかけたとき、口がモゴモゴと動いたように見えたそうです。
すると、口の中に大量のウジがうごめいていて、それが口から吹き出て、その死体の足元にぼろぼろと落ちました。
こんなに腐敗しているのに、立ったままでいるのが不思議でした。
どこにも、つっかえ棒などは無いし、樹木にもたれかかったりぶら下がっているわけでもないのです。
そこで、じじいは気づきました。
この死体からは、まったく腐敗臭がしないのです。
これほどハエがたかっている死体は、臭うものですが、それがない。
まったく臭わない。
あたりは、森のさわやかな風が吹いている。
とにかく、これを里の人に知らせないといけないのですが、山深い場所であり、じじいも先を急いでいたので、山を越したところの人家に知らせようと思い、さきを歩き始めました。
道を、山裾のほうに下り始めると、じじいの反対側から、人がのぼってきます。
その人は、あの腐乱男性でした。
もちろん、別人のはずですが、顔がそっくりだし、着ている服や靴が同じです。
背負っているバッグも同じ。
死体は腐敗していたとはいえ、服の柄や顔つきは確認できましたし、じじいは人の顔を記憶するのは得意でした。
やってくる人は、別に恐ろしい顔をしているわけでもなく、また挙動不審でもない。
淡々と、散歩するように歩いてきます。
じじいが声をかけるのをためらっていると、彼は、じじいを無視して行き違いました。
彼と行き違った時、彼から強烈な腐敗臭がしたそうです。
さて、みなさんなら、このあと、この男性を呼び止めますか?




