石じじいの話・雁の怨み
石じじいの話です。
じじいが石探しのため海岸を歩いていたときに、漁村で聞いた話だそうです。
弓を射ることが大好きな百姓がいました。
彼の弓の技は、非常に優れていました。
好きこそものの上手なれ、です。
また、彼の子どもも弓が上手でした。
その子は、親の留守の間に、弓を持ち出して遊んでいましたが、射た矢が、遠くに飛び去ってしまいました。
その子は、あたりを探し回りました。
矢は、遠くの田んぼの畦まで飛んでいて、偶然、雁を射抜いていたのです。
子どもは喜んで、射られた雁を持ち帰り、父親が帰ってきたとき、事の顛末を伝えました。
父親は、その手柄に喜んで、子どもを叱ることはありませんでした。
そして、その雁を鍋にして夕食に食べたそうです。
しかし、その夜から、つがいのメスの雁がやって来て、その子に恨みごとを言いはじめました。
「オス雁の死を弔ってくれ」と。
毎日それが続くのです。
子どもは、雁を射たことを深く後悔して出家したのです。
寺で修行をし、その後、浜辺に庵をむすんで住んでいました。
出家から10年ほどたった9月に、彼は急死したそうです。
彼が、死んだ日は、子どもの彼が雁を射た日だったのです。
「い殺した雁は、その坊さんの、極楽への道しるべやったかのう」とじじい。




