石じじいの話・イタコランプ
「石じじいの話」は、私が子供の頃(昭和40年代)に、石ひろいビジネスをしていた男性から聞いた話です。
彼は、山野を歩き、珍しい岩石や鉱物、化石、ときには動植物などを収集して、それを売って生活をしていました。
当時、すでに高齢でしたが、山を歩いているのでカクシャクとしていました。
小学生の私が、石じじいが話してくれた経験談や言い伝えなどを家に帰ってからノートに書き残したものが大量に手元に残っています。親に言われて、綴り方の練習も兼ねていたのでしょう。これらの聞き書きの中から、話としてまとめることのできるものを書き出してみようと思いました。
それが、「石じじいの話」です。
石じじいの話です。
みなさんは、石油ランプ(灯油ランプ)をご存知ですか?
昔は生活必需品として家庭に常備されていて、燃料には灯油や鯨油、植物油が使われていました。
死んだ母親と話ができる石油ランプがあったそうです。
それは真鍮製の古いもので、じじいの知り合いが持っていました。
そのランプで明かりを灯すと、燃える芯の部分から音がする。
チリチリと音がしているが、少し時間がたつと、それが人の声になるのだそうです。
よく聴いていると、それは、そのランプに火をつけた人の母親の声なのです。
やさしく語りかけてくる声。
しかも、こちらがランプに話しかけると、反応してくれたそうです。
「今、どこにいる?極楽か?地獄か?」というような世俗的な問いには答えてくれないが、昔話はしてくれるし、残された家族の現在の様子をたずねてきもしたそうです。
ランプを灯していると、当然、油は減ってきます。
油を、注ぎ足すとランプとの会話をつづけることができたそうです。
しかし、その油は普通のものではなく特別な油なのだということで、なかなか手に入らないものだということでした。
知人は、その油の詳細については語らなかったそうです。
その知人は、「あなたも幼いときに母親を亡くしている。どうだ?自分の母親と話をしてみないか?」と、じじいに言ってくれました。
じじいは、母を思慕していたのですが、躊躇しました。
「わしがやってしもうて、大事な油が減るのはこまるんやないか。」と、じじい。
「いや、私は十分に母親と話をしたから、いいんだ。遠慮せずに使うといい。」と知人。
じじいは、喜んで、そのランプを使わせてもらうことにしました。
知人は、他の人がいると気を使うだろうから一人で使うと良い、といって部屋から出ていきました。
寒い冬の夜、ふすまをしめきった部屋の机の上でランプの芯に火をつけようと、マッチをすりました。
芯にマッチを近づけたとき、ふっと風が吹き、マッチの炎が消えてしまいました。
おどろいてまわりを見わたしても、部屋はしめきってあります。
そのマッチが消えた時、じじいには、母親が生前に使っていた鬢付け油の匂いがしたそうです。
マッチの硫黄の臭いではなく。
じじいは、ランプをつけませんでした。
母親への思慕の念は強かったのですが、なにか未練のように感じたし、このような大事なものは持ち主である知人だけが使うべきものだろう;と考えたのです。
この話には2つのバージョンがあります。
同じ話は、聞き取りノートの異なるページに書き残されていました。
じじいが、同じ話を何回かしてくれたのだと思いますが、それぞれの設定が微妙に異なっています。
A) 1つは、この話は、朝鮮に居たときに知り合いのロシア人から聞いたということになっていて、じじいの体験ではなく、話してくれたそのロシア人の体験だということです。
B) もう1つは、戦後に朝鮮に帰ってきてすぐの時の、じじい本人の体験談だというものです。このBバージョンが上述の話です。
A) では、ランプに使われている油は、バクーでとれる石油であるということ;その時に残っている油を使い切ると、同じ油を給油してもふたたび交信能力を発揮するかどうかわからない;と語られています。
なんだか恐山のイタコのようです。イタコ・ランプ。
「石じじいの話」は, 2015年の10月から、2chに投稿を開始しました。
以下の書き込みが初出です。
39 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2015/10/25(日) 23:50:40.78 ID:Svn2zcED0.net
書き込んだ話は、いくつかの「怖い話まとめサイト」で読むことができます。また、そこから採られたと思われる朗読がYoutubeに動画として存在します。興味のある方は、ご参照ください。