第九十五話 この国最強の一人と、この国最年長の男
「結局なんだったんだあの人……」
「嵐みたいな人だったね……でも先生がラビリスさんと親しげだったのはビックリしたよ」
「……先生も結局よく分かんない人だしな、、騎士団長さんとも交流あったし」
病室に突然やって来たラビリスは、医者の検査が始まると同時にミケーレに引っ張られて出て行った。
本当は目が覚めて直ぐ検査は行いたかったそうだがオリハルコン級に委縮してしまったのか、声を掛けられなかったらしい。
担当の方が可哀そうに思えてくる……。
そして諸々の検査が終わり、暫くの安静を言い渡されてからは残っていたアイクと話をしていた。
「あー同級生だったんだっけ。
やっぱ強い人達にはそういう繋がりがあるのかなー……クロム君のお父さんとも何かあったりするのかな」
「?なんであいつの父親が。
確かに英雄とか呼ばれてるらしいけど真っ先に思いつくとこそこか?」
「……ミナトほんとに知らないの?」
ミナトは別に世情に疎い訳ではない。
だが所謂市民の噂、だったり流行の物だとかについては興味が薄いため知らないだけで。ちゃんと世の流れについては随時情報は仕入れ続けている。
「至極ラビリスさん、砦ガブリエルさん、皇帝ミケーレ先生。そして英雄、アンジェロ・ドンナーさん。
四天王だとか四大戦士とか色々言われてるけど……この国最高戦力の四人なのは間違いないよ」
「は、はへー……全然知らんかったな」
突然出てきた称号や呼び名に驚きを隠せない。
「まぁ正直僕がこういう話好き、っていうのはあるけど四人が並んで言われてるのは共通認識だと思う」
若干照れながらも説明する様子を見るに、本当にこの手の話が好きらしい。
(そんな事言われてたとはな。
勿論その四人の事は知ってたけど世間じゃそういう認識なのか……)
世の中には知らない事も沢山ある。
それが今回の様な事ならいい。
ただ知らなければならないものというのも存在していて。
ミナトには現在選択の時が迫手って来ていた。
「……」
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王都の周辺警備の強化や、戦闘で崩れた建物の修繕などと世間は騒がしく。
結局一学期終了間近だった学校で授業が行われることはなく、終業式が行われるのみで。
留学生達も直ぐ帰る事となってしまった。
生徒の一名は重傷、元から誘拐事件等もあって反対意見も多かった事もあり仕方がないだろう。
終業式が終わった後、それぞれはこの長期休みの過ごし方を話し合った。
故郷に帰る者が多く殆どの生徒は寮から出ていくそう。
アイクはミナトとの特訓の事を考えて残ろうと考えていたが、この長期休みは忙しい事と会えるうちに家族とは会った方が良いとミナト本人から言われたことで結局は返る事にしたらしい。
「じゃあ言った事は出来るだけ毎日やっとくように。
それ以外は休んどきな」
「うん、じゃあね。今度の時までに基礎は完璧にしとくから!」
最後に弟子を見送った後、向かう先はいつもの場所。
登校初日からなんやかんやで通い続けた空き教室。
教室と言っても授業で使う場所ではなく、面談室のような部屋であるが。
それからいつも通りにノックして入り席に着く。
「それで、、話とはなんだ。
お前から声が掛かる事は少ないからな、何か重要な事なのは分かってる」
「話が速くて助かります。では早速本題なのですが……一つお願いしておきます」
互いにストレスの少ない会話をする二人、相手の様子を察して話がどんなものかを考えているのが理由だろう。
「今から言う事は他言無用でお願いします。申し訳ありませんがこれは絶対です」
念を押すようにそう言うミナト。
「ここでの会話を漏らさないのは元々約束だが……そこまで言うって事は、それ程の話か」
「はい。これは自分の事は勿論、この国どころかこの世界にまで大きく関わってくる話です。
もし対応を誤れば先の王都の戦とは比べ物にならない程の被害が出ます」
(正直、、この話はしたくなかった。
今までこれ関係の話はろくな事にならなかったからな。
でもそうも言ってられないかもしれない、俺は最悪どうとでも出来るが流石に規模が違い過ぎる)
話す内容だけでなく、様相から普通ではない彼を見てミケーレもこれから話される事について相応の心構えをする。
今までとは明らかに違うという事は一目瞭然だ。
「先生は以前、俺の事を魔族だと疑ってきた事がありましたよね」
冒頭に出したのは始めて二人で話した時の出来事。
「そんな事もあったな、、、もしかして今更はいそうですとでも言う訳じゃないんだよな?」
「正真正銘人間です、それに間違いはありません。
ただ……普通の十五歳の少年でもありません」
これからの話をする上で、これからやって来るであろう問題を解決する為に彼女の協力は必須事項となる。
その彼女を説得し協力してもらうためにはこちらの事も話さなければならなかった。
「……そうか、まぁ只物じゃないとは思っていたがまさかそう来たのは驚きだな」
「思ったよりも驚かないんですね。正直もっとビックリすると思ってました」
「私を誰だと思ってる。事情までは分からないがただの子供じゃない事位は分かっていたさ。
そしてお前がここに居ても問題の無い人間だと判断したから放っておいたんだ」
とは言っているが、監視役として近くに居させることで完全に放っている訳でもない。
だが普通の生徒では無いと分かっていながらそこに触れず生活させていた事に変わりはなく。
「聞かないんですか?なんでここに来たのかとか、正体はなんだとか」
そう疑問に思ってもなんら不思議ではない。
どころか当然の反応だろう。
「聞かないさ、ここまで話しておいて自分から言わないって事は言いたくないか言えない事情でもあるんだろ。
それについて今は触れないでやる。
本題を話せ、ここまで話す理由が……話さなければならなくなった理由があるんだろ?」
(本当に話が速い人で助かる。
今は、って言葉を気にするのは辞めておこう……)
「ありがとうございます、では端的に言いますね……魔王軍が復活しています。このままでは大きな被害が出るでしょう」
「!」
ただの少年ではないと聞いた時は大して驚かなったが、今は驚いているという事が直ぐに分かる。
ミナトが見てきた中で最も動揺している瞬間だった。
「それは本当か?新たな魔王が誕生したとでもいうのか」
「いえ、そこまでは分かりません。
ですが俺が先日倒したフラッドという魔族は魔王軍が現在再始動していると話していました、自分がその幹部だとも」
「なるほど……確かにこれ程の話など早々無いどころか、これと並ぶ話など無いと言ってもいい。
だが何故それを騎士団に言わず私にだけ言った。お前の事は隠して魔王軍の事のみを知らせる事なんて難しくもなんともないぞ」
流石に規模がデカすぎれば幾ら個人で強い彼女とは言え一人で手に負える案件ではなくなる。
それに魔王軍の事を先に知らせるまではまだ分かっても、何故自身の秘密を話したのかもよく分からない。
「まだこの事は世間に発表したくないんです、と言うよりは秘密裏に処理するのが理想だと思うんです。
その為に俺に協力してください」
(もしこれが知れ渡ってしまったら、魔王軍との全面対決が始まってしまう。
そしたら戦いに挑んで亡くなる人も出てくるだろう、だがそれはまだいい。無力な人達が戦いに巻き込まれてしまうような事があってはならない。
なら秘密裏に少人数で、犠牲をゼロに近づける為に出来る事は全てやる)
自分の事情よりも優先したのは他者の命。
かつての仲間達から教わったその心は、今のミナトに大きく影響していて。
何よりも曲げない信念となっていた。
第四魔法学園にも学期間での長期休みがあります。
多くの生徒は故郷に帰り家族と過ごしますが、一部の生徒は学園に残って研究に没頭したり。
冒険者としての活動に専念して遠征に行ったりなどもします。
ですがあのルチアも実家に帰る程なので、そうしない生徒は本当にごく少数です。




