第九十三話 薫風
時間稼ぎではなく討伐に目的を変更したのはいいものの、当然簡単な話ではない。
そもそも多少リスクを払えば倒せる程度の相手ならばそうしている。
命を懸けて挑んだとしても勝つ確率があまりにも低いから出来なかったのだから。
{あの鱗を破れる可能性があるとすればゼノ君だけど……流石にもうその威力を出すのは厳しそうだな。
そうなれば後取れる手は全員での総攻撃、タイミングと箇所を揃えて攻撃出来れば倒しきる事も出来るはず。
だからそれをする為の準備……動きを止める何かが必要だ}
僅かな時間でもいい。相手の動きを止められたならその瞬間に全ての攻撃を繰り出す。
それ以外の方法は現在ない。
しかし動きを止める何か、が見つかるかどうか。
交戦を始めて以降常に相手を観察し続けていたアイクが弱点か隙でも見つけられれば。
思考を止めず、勝機を探し続け逆境から打ち勝つ。
「お前ら根性だけは負けんじゃねぇぞ!先輩冒険者の意地見せてやれ!」
「「「おぉ!」」」
助っ人として来てくれた彼らもよく戦っている。
フレア達のように特化した能力があったり絶対的な実力がある訳でもないが、安定した戦いぶりで指示を出すゼノからしても充分に任せられる存在となっていた。
{って言うけど……さっきから俺の弓全く効いてないんだよな。
顔面部分ならまだいけると思ったのにそれも駄目だし}
後衛として弓を打ち続けているもいまいち成果は出ず。
硬い鱗に弾かれているのみだった。
弓使いという難しい役割の中めげずに頑張っているほうだが今現在貢献は出来ていない。
「……」
注意深く相手を観察し続けているアイクが、ここで僅かな違和感に気が付く。
{あの矢……特に毒とか魔法みたいな付与効果は無さそうだけど。嫌がってる?}
顔付近に打ち続けられた、弾かれ続けた矢。
向こうからすれば気にも留める必要はない物のはずなのに。妙に嫌っている様に見える。
もしかして、と思い顔面への斬撃を試みに突撃するアイク。
しかし攻撃が効く事はなく、ただ最も危険な口付近に近付いただけとなってしまう。
毒攻撃、噛みつき。
どちらも即死だ。
絶体絶命のアイクを助けべく動いたのは冒険者の男達。
魔法使いが風を使ってリーダの男を飛ばせて、その勢いを使って押し出すように離脱。
そこを斧を持った男と弓使いがギフトシュランゲの気を引く事で援護し。
なんとか離脱に成功。
「今度は助けられるか分かんねぇ、無茶すんな少年」
流石の経験と言うべき咄嗟の判断で助けられた。
「すいません……顔付近が弱点だったりするんじゃないかと思って」
「あぁ?んな訳ねぇよ、見ろあの全身にびっしり並んでやがる鱗を。
授業でやんなかったか?」
とにかく焦って無茶すんなよ、と釘を刺してから再び男は前線へ駆け出した。
{全身の鱗……弱点……}
もう少しで何かを掴めそうな感覚を覚えつつも、悠長に考えている時間など無い。
「アイク、また出てもらうぞ!フレアと替われ!」
常に前衛に居ては体力が持たないしリスクが高すぎるという理由から、前衛組は交代制。
アイクとフレアはペアとなって懐に飛び込んでいく役回りだ。
{ミナトなら今みたいなヘマはしなかったはずだ、、、弟子なんだろ?やってみせろアイク!}
入れ替わるように前に出て得意のスピードを使って掻き回す。
一瞬反応が遅れるだけで致命的となるこの場面で他の事を考えている余裕などない。
徐々に体力的にも精神的にも余裕がなくなっていくこの状況でも、思考を止めてはいけない。
{出来る事、出来る事を探せ!こいつの動きのパターン、授業で習った事。ミナトから教わった事……っ!}
過去の記憶まで辿り、突破口を探していた時。
頭に過ぎる何気ない日常の中の会話。
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「厄介な魔物?」
「うん、ミナトって魔物との戦闘も結構経験あるんでしょ?どういうのが厄介だったのかなって」
ふと疑問に思い聞いた事だった。
少しでも彼の事を知る事が出来ればと思った事もあるが、純粋に経験者の話が聞きたかったのもある。
「厄介っていうとドラゴンとかは違うよなぁ、単純に強いだけだし。
それ以外なら俺は剣士だから飛ぶやつも嫌だが一番は……毒を使うやつだな」
「毒?」
「そ。特に強力な毒とかだと優秀な回復魔法使いが居なきゃ即お陀仏の可能性が高い。
これは忠告だが、一人の時は手強い毒を使うやつとは絶対戦うな。仮にその場では勝ててもその後毒で死んだりしたら意味ないからな」
「でも戦わなきゃいけない場面だってあるでしょ?そういう時はどうしてきたの」
「まぁそいつの種類にもよるが、弱点を突いて一気に仕留めきるのが鉄則だな。パーティーでも同じだけど一人の時なら絶対だ。
長引けば不利になると思っていい」
「弱点か……色んな種類の覚えなきゃいけなのは大変だな」
「これは長い時間かけて覚えていくもんだよ。でも一個だけ覚えといたらどこかで得する事を教えておこう」
「一個だけ?」
「そう、それはな……」
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{どんな魔物でも弱点となる部位!}
それは至極当然で、言われたら誰もが「そりゃそうだろ」と言うだろう。
だが忘れてはならない。
誰もが信じて疑わない物を手に取って試した者がいつだって革命を起こしてきた事を。
「ゼノ君!一瞬だけ動きを止める事出来る?」
「……出来なくもないが、それで残りの魔力は空になる。それでもいいなら」
「なら大丈夫だ。
皆!僕が飛び込むからそこに合わせて攻撃してほしい!」
先程の暴走に近い行動。
だがそこから学ばない人物でもないとフレアは信じ。
冒険者達は彼の呼びかけた時の声で感じた漢気を信じた。
「フレアは注意を引き付けてくれ!後はアイクを信じるだけだ!」
{正直どんな策かも聞かずに乗るのはリスクも高いが話し合ってる暇もない、こうなったら賭けるしかねぇ!}
先ずは先頭でフレアが囮となる。
そこを冒険者達がカバーしながらゼノが魔法を撃ちやすいよう動き、アイクは時を待つ。
{今だ!}
フレアへの攻撃が外れたところで、今ある全ての魔力を込めでギフトシュランゲを挟むように岩を作り出す。
一瞬相手の動きが止まった瞬間。
その瞬間にアイクが行ったのは接近ではなく、武器の投擲。
右手のナイフを投げそれから自身も追うように接近していく。
投げられた物が刺さった箇所は目。
ナイフが左目に完璧に突き刺さった。
硬い鱗が全身を覆っていようとも目までは覆えない。
あれ程攻撃を弾き続け無傷だったギフトシュランゲに始めてのダメージ。
正直外れる事も覚悟していたが、当たったのは運が良かった。多少の賭けに出なければ無理だと悟ってからこその行動。
しかしその賭けに勝ったアイクはそのまま目元まで移動し、刺さったナイフを抜いて今度は手に持っていたナイフを突き刺す。
痛みで猛烈に暴れ始める頭部から吹き飛ばされないようにメッタ刺しにし続ける。
「うおおおおおおああああああ!」
普段の彼からは想像も出来ない鬼気迫る表情と、滅多にあげる事のない叫び声をあげながら手を止めず。
今度は左目から右目へと移り次はこっちをメッタ刺し。
タイミングは今だとばかりに他も一斉に飛び込み攻撃を仕掛けに向かう。
{まだ、、もう一発……!}
ゼノが最後の気力を振り絞り岩の形状を変化させ、顔を地面に着かせる。
ここで全員が頭部への一斉攻撃を開始。
{今ここでやらなきゃ漢じゃねぇ!}
幾ら硬い鱗でもここまで叩きやすい状況なら攻撃も通る。
アイクが完全に両目を潰しきった頃、ギフトシュランゲの動きが完全に止まり。
体の一部が塵となり消え始め。
皆の勝利を告げた。




