第九十二話 今
ギフトシュランゲとの戦いは熾烈を極めていた。
フレア、ゼノ、アイク。そこに中級程であろう冒険者パーティーが加わり。
数だけで言えば先程よりも楽そうに思えるが、実際には疲労もダメージも蓄積されているので余裕は一切ない。
少しでも気を抜けば誰が死んでもおかしくない場面。
{倒さなくていい、今は耐えろ。何が何でも全員で生き残る為に思考を止めるな!}
この緊急戦線で指示を出しているゼノは、言わば脳であり。魔法での援護も含めて全体のバランスを保っているのは間違いなく彼だ。
耐えて、耐えて。
生き残って次に繋げる。
本来この戦場で目の前のこいつを処理するのは教師や騎士団の役目となる。
だが彼らが来ない以上誰かが戦わなければ、ひたすら暴れ続け被害がどんどんと広がっていくだけ。
例え救援にやって来たベル達が勝てなくとも。今度は彼らが繋ぐ番だ。
いつかこいつを倒せる誰かが来るまで。
そう、場を繋ぐ為に耐える。
確かに堅実な手であり今この場でとれる最善手のうちの一つだろう。
{ここは突っ切る!}
一瞬判断が遅れるだけで死に繋がりかねないこの状況でアイクは駆け続ける。
もうトップスピードを出せる体力と体の状態ではないが。それでも彼は走り続けなければならない。
スピードが持ち味のやつが足を止めたら何も残らないから。
{耐えるんだ、ベル君達が来るまで!それまで絶対倒れちゃ……駄目、だけど}
相手の攻撃に常に気を配り続け、僅かな気の緩みすら許されないこの状況でふと頭に過ぎる。
これでいいのか。と。
目の前の相手が倒せないのなら倒せる誰かが来るまで耐える。それは分かる。
合理的だと思うし、情けなくともみっともなくもない。寧ろ格上相手に戦い続ける事は賞賛すべきことだと思う。
そう思うのに引っかかってしまった。
{ミナトならこの状況どうするかな。
もし聞けば命第一だから耐え続けろ、って言うだろうけど。でも多分、自分がその状況ならそうはしない。
自分以外全員を逃がしてから、打てる手を全て使って勝ちに行くはずだ。かなりの負けず嫌いだし}
ミナトの思考と行動を予測しているうちに自分がどうしたいか。どうしたいと思っているかが徐々に分かり始める。
{もし結果的に倒せなくて、助けが来たら。その人に感謝は伝えるだろうし助かったー、って後でも言ってると思う。
でも絶対悔しがる、倒せなかったって。実力が足りなかったって。
僕はそれでいい?実力が足りなくて、それが悔しくて弟子にしてもらって毎日特訓して。
出来る限りの事を毎日してきた自信はある、だったら今は?今も勿論出来る限りの事はしてる、でもまだやれる事が……打てる手はまだある}
考えもしなかった、いや正確には直ぐに無理だと諦めてしまった。
逃げられない人が居て、その人を助ける為に出来る事は三つ。
その人を連れて逃げるか、相手と戦って誰かの助けを待つか。
もう一つ、最も確実で危険度も高いもの。
「っ!」
急遽懐に飛び込んでいき、攻撃を仕掛けるアイク。
「なにしてる!無理に攻撃しなくていい、ただ気を引いて……」
その様子を見て止めようとするゼノだったが、今の彼はもう止まらない。
「もし!」
場に居た全員が意識せざるを得ない声色で。
彼は語り始める。
「ベル君達が来たとしても倒せる保証はない、、むしろ来てくれたら命の保証もなくなる。
けど!ここでこいつを倒したら被害者が増える事はない!絶対にだ!」
言っている事が正しい事ばかりじゃないのは分かっている。分かったうえで、訴えを止めない。
「僕達が今打てる最善の手は目の前の敵を倒す事だ!それ以上はない、そうでしょ!?
少なくとも、、、ミナトならそうする……!」
例え一人でもと言わんばかりに猛攻を仕掛けに突っ込む。
その様子は普段から彼を見ているフレアにとっては似ても似つかないものだった。
{悔しかった……弱いのが悔しかった。何もできなかったことが。
なら今どうする、、一つしかないだろアイク!証明してみせるんだ、今の僕の実力を!}
倒せなかったとしても、それが今の実力である。
挑戦。彼がこれから成長する上で確実にしなければならない事。
今以上の挑戦の場などそうそうないだろう。
それにアイクの言っている事は、全てが間違っているという訳ではない。
ベル達が来るのが一体いつになるのかは分からず。こちらは既に消耗が激しくいつまで戦況を持たせられるかは分からない。
ただ耐えて、限界が来て敗れるよりは。リスクを覚悟で一矢報いようとした方が良い可能性もある。
全てが合理的な訳ではないが、全てが精神論な訳でもない。
ゼノはこれに心当たりがあった。
{クソっ……どの道目的がバラバラじゃ連携なんてとれねぇ。だったらいっそ乗って……!}
痛いと思う程見せつけるように彼は戦う。
リスクも、死さえ覚悟して挑む姿を見て何も思わないような人物なら今この場には居ない。
戦いの道を選んだりなどはしない。
「……目標変更だ、全員でギフトシュランゲを仕留める!」
実際に口にされたら驚きはする。だが反対をする者も居ない。
ただひたすら真っすぐで眩しく映るあの姿が他の気持ちを湧かなくさせる。
「へへ、、やってやろうじゃねぇか。ここまで格上相手するのは久しぶりだなぁ……てめぇらも文句ねぇな!?」
「分かってますよリーダー!学生には負けてられないですからねぇ!」
フレアは何も言う事はなかったが、何故かミナトにも重ねて見えるような気のするアイクを。自分は出来る限りでサポートすると決意を固める。
{皆、、ごめん付き合わせちゃって。でも正直嬉しい、すっごく嬉しいよ!}
同じ目的を持ち着いて来てくれる者たちの存在に頼もしさを覚え、より一層攻撃を激しくさせ。
弱点を探り続ける。
それぞれが今、出来る事を全うし目の前の敵を倒す事のみを目的とし意志を一つに固めた。




