第九十話 繋がって、伝わって
{情けねぇな……全くよ}
ゼノとアイクの緊急共同戦線は、ギリギリもいいところだった。
前衛の方はまだまだ未熟な部分も多いとはいえ喰らいついていけているが、後衛のゼノはもう身動きをとる事すらままならない。
全身の負傷で、気を保つ事すら容易ではない程。
{意地だなんだと啖呵切ったはいいものの、結局一人じゃ今頃ぽっくり逝ってた訳で。
今もこいつのお陰で助けられてる。
……あの人は一人でも無傷で持ちこたえてたのに}
確かに先程からアイクがカバーしに行く場面はよくあるが、それは決して足を引っ張っている訳では無い。
前衛の彼が動き回れているのはゼノが後方から確実に援護を飛ばしているからだ。
互いに助け合っていて良い連携だと言えるが……引っかかっていたのはフレアの事。
彼女は例外として考えてもよいと思うが、事実として単身相手をしながら無傷でいるのはそう。
対して自分はぼろぼろで助けられてばかりだと考え情けない気持ちが心に湧き始めていた。
「ごめんそっち行った!」
{これ位自衛してみせる……!}
アイクを無視して突っ込んで来たギフトシュランゲを迎え撃つべく魔法の準備。
{負けてられねぇんだよ。
こんなとこで止まる暇ねーんだよ!}
その時彼が負けられないと思ったのは誰にだったのか。
単に目の前の敵に勝つという意味。もしくは先程気にしていたフレア、助けられている事を情けなく思っていたアイク。それ以外の人間。
彼の戦いは続く、続いていく。
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その頃、増援を呼びに駆け回っていたフレアはようやく戦力になりそうな冒険者パーティーを発見する事に成功。したのだが……。
{どうしよう、このままじゃ……ゼノ君が}
なんとその冒険者達も魔物と交戦中。
しかも状況があまり芳しくなさそうだったのでそこに参戦し、少しでも早く終わらせ共に来てもらう予定だった。
その旨を言い頼むと、少し申し訳なさそうにしながら男は言った。
「すまんな嬢ちゃん、助けて貰ったのはありがたいがこのままじゃそのお仲間が先に限界来ちまう。
ここを片付けたらなるべく急いで向かうから嬢ちゃんだけでも行きな」
目の前の相手を放っておく訳にもいかず、かといって直ぐに処理出来る相手でもない。
援護に行く前に助ける仲間がやられていては元も子もない。と実戦慣れした冒険者らしい発言。
だがそれも確実では無い。
言っちゃ悪いがこの人達がちゃんと魔物を倒してこちらに来てくれるかどうかは確実じゃないし、どの位で来てくれるかも分からない。
{だったら結局さっきと状況は変わらない、リスクを承知でここまで来たんだから……!}
少しでも早く目の前の魔物達を倒して……と感がるが現実として男の言っている事は正しいのも事実。
戦況を維持する事は長けている彼女だが戦況を変える事は不得手だ。
確かに居れば前線で敵のヘイトを買い他の味方が動きやすくなったりなどして貢献出来るが、短期的な攻撃にはあまり関与出来ない。
この行き詰った状況を変えるとしたらそれは……。
「遅れてしまってすまないね」
「俺達も……参戦するぜ!」
先程同様、助っ人の参上だ。
「な、なんで皆がここに……」
この場に現れたのは先頭二人にフラジオとオーズ、後ろには多くの一組生徒。
ここまで固まって動くのは本来想定されていないが状況次第では自由にしてよいとの指示なので問題は無い。
「魔物の数が増えて来てたからね、強力なやつに遭遇する前に固まった方が良いんじゃないかと思って動き回ってたらここ。って訳さ」
普段は自由人で何を考えているのかよく分からないフラジオだが、こういう時には頭が周る。
実際集団で動き始めてから魔物との遭遇も何度かあったが難なく撃退出来ており。判断が間違っていなかった事が証明されていた。
「さぁ、今回は相手も多いみたいだし俺の魔法が使いどころだな……」
と意気込むオーズだったが、フレアにとっては選択肢に迷う場面でもあった。
{ここで皆と協力して倒してから戻る?それとも皆を連れて冒険者の人達に託す……いやそれだと私が来る前と状況が変わらない、それだと今度はこっちがマズい状況になる。
それか私一人だけ先に戻ってここが終わり次第皆にも合流してもらう?}
状況は格段に良くなった。が、ならそれを使いこなさなくてはならない。
だがたらたらと悩んでいる時間もない、素早く的確な判断が求められる。
「……ごめん!ここ皆に任せてもいいかな」
これまでの人生で最も頭を回した瞬間だと言える程急速で考えた末、出した結論。
「……え?ごめん状況がいまいち掴めないんだけど……」
「今他でピンチな人がいて速く戻ってあげなきゃいけないの!私はあの人達とそこに行くからここは頼んでもいいかな」
その発言には冒険者の男達もビックリして、任せると頼まれたオーズも現状を呑み込めていない中答えを返したのは。
いざという時冴えている彼。
「いいよ、ここは僕達だけでもなんとかなる。
そっちに行ってあげて」
誰もよく分かっていない中フラジオ一人だけが迷いなく答えられていた。
「ちょっ……まぁいいや、二人が言ってるならそれでいいよ。
ようやこいつら倒せばいいんだもんな。シンプルじゃねぇか」
状況はよく分かってはいないが、二人が言うのなら。といった様子。
「ありがとう!じゃあこっち着いて来てもらっていいですか?」
「あぁ……構わないが……」
冒険者たちも困惑しながら彼女に着いて行き、場には一組と魔物のみが残る。
{任せられたんだ、なら思いっきりやらなきゃ駄目だよな}
「実は今日まだ撃ってなくてよぉ……そろそろ役に立ちたいと思ってたから丁度いいや」
使い勝手があまり良いとは言えない彼の魔法。
だが場面によってはあのルチアとも並ぶほどの戦果を挙げる事が出来る。
深く息を吸い込んだ後、咆哮が響いた。
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「良かったのかよ、、あの子らだけ残していって」
移動中。
フレアに尋ねたのはさっきの決断。
今回レイドには参加しなかったがそこそこ経験もあるこのパーティーですら苦戦した相手に。
幾ら十人近く数が居るからと言って学生が相手するなんて……と言いたいらしい。
「大丈夫だと思います。倒す事に関しては私よりも強い人もいますし、オーズ君もいるならまず負けないかと思って」
対集団戦闘に適しているオーズに、近距離ではその動きにしては安定感が定評であるフラジオ。
遠距離からの援護魔法が得意なものや、何でも卒なくこなせるバランスの良い人まで。
「うちのクラスは凄い人が多くて……なんとかしてくれます、きっと」
結局甘えてしまってるんですけどね、とその後謙遜に入ったフレアだったが。
クラスメイト達を信頼しているのは充分伝わり。
「そうか」
にやつきながら返す彼らも、もうその心配はしなくなった。




