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忘却の勇者  作者: くろむ
蠢く陰謀編
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第八十九話 原点回帰

クロムの戦いが終わった頃、ミナトの方はと言うと……苦しい状況だった。


余程の事がない限り死にはしないと分かったフラッドが自傷覚悟の攻撃を繰り出し続ける事で、上手く立ち回れず。

動きに支障の出るレベルの怪我は今のところないが、少しずつ攻撃が体を掠め始めていた。


元々能力スペックはあちらの方が格上。

敗北を一度感じた事で精神的な隙も少なくなったフラッドは厄介な相手だ。


(火力が足りなくても、何度でも攻撃し続ける事でいつかは倒す事も出来る。

ただ今のこいつ相手にそれはリスクが高い。こっちは的確に攻撃を当てなきゃならないのに向こうの攻撃は一発もろに入れば即アウト。

でも他に打てる手なんてない……リスク上等やってやろうじゃねぇかよ)


再び相手の魔法を潜り抜けながら接近し。

右肩に深い斬撃を繰り出すが、ここでまさかの展開。

人間相手なら間違いなく致命傷レベルの損傷だが、相手は魔族。刃が深く入った所で魔力を駆使し抜けないよう固定。肉を切らせて骨を断つという言葉があるが、もはやその次元ではない。


刀が取れなくなったタイミングで、そのままミナトの腕を掴みにかかってくる。

寸前で刀から手を話し空中で体を捻る事でそれを避け一度距離を取る。


(マズいな、まさかここまで覚悟出来てるとは……あれを取り返すのは結構難しいな)


流石に自傷覚悟とは言え胸の辺りまで斬らせるのは相当だ。


「どうしたぁ!これがなきゃ話になんねーんだろ!?取りに来いよ」


「るっせぇ、今行ってやるよ」


戦闘中あまり多用しない技だが、まだ見せていない手札はある。


飛び道具として持ち歩いていた手裏剣を数枚飛ばして少しでも気を散らし。

聖魔祭でゼノとの試合でも見せた縮地。

それを使いこれまでよりも格段に速い速度で急接近し、一気に懐に飛び込む。

体勢を落として足元で止まり、上に飛びあがる勢いを使って刀を捻じりながら抜き上げる。


死にはしないが痛みはあるので声は挙げる。しかしここで痛みに気を取られるフラッドでは既になく。

刀を抜いたはいいものの空中で上手く身動きの取れないミナトを魔法で撃ち落とそうと手を伸ばす。

だがそこは穴でなく、得意の早撃ちで先に牽制を入れる。


(この程度じゃもう止まらない!なら逆に斬る!)


自身が撃った炎が消える僅か前、相手からしたら炎から飛び出してきたように見えるタイミング。

意表を突き上から振り被っての一撃を加え即撤退。


先程の斬撃も深い所まで届いていたので流石にもう一発となれば自由には動けなくなる。


これでようやく刀を取り戻して体制を立て直せられた。


(まだ治癒が追い付かねぇはず、今のうちにこっちも息を整えないと)


しばし両者の休息が挟まる。

攻撃をもろに喰らい回復を待たなければならないフラッドと。

ここまでの戦闘での疲労に加え、消耗が激しい縮地を使った事で流石に息が荒いミナト。


(本当はこの隙に畳みかけたいが……俺も余裕がない。仕留めきれず息が切れたタイミングで向こうの回復が終わったら最悪だからな。

ここは安定を取っていい場面のはず)


今攻められたらマズく、今攻めるのは難しい。

この条件の合致が生み出した僅かな静寂の時だったが、こちらの戦いは口上戦も繰り広げられていた事を忘れてはいないだろうか。


「やっぱ弱くなっちまったなぁミナトさんよぉ……」


「今そのザマでよく言えたもんだ、そっちこそ厄災の六人も落ちたもんだな」


「何を仰いますか。俺は武闘派じゃないんですよ?どっちかと言えば支援型なんだから、そんな相手にこの戦いぶりでは今回は勝てるかもしれないねぇ」


魔王軍最高幹部、厄災の六人。

選考基準は強さ。

強さと言っても種類は様々で。対面戦闘能力、頭脳、戦場での凶悪度。

フラッドも確かに並の魔族とは一線を画す戦闘能力を持っているが、彼が選ばれた理由は魔物を従える力。

人類圏を進行する上では数も大事になる、そこで大群を従えかつ本人の能力もそこそこ高い彼だ。


「再び魔族の、魔王軍の時代が来るんだ。今度は心強い仲間はいないぞ?その上弱くなっちゃったミナトさんじゃあ人類は守れないかな」


確かに癇に障る煽りだが、これまでは流す事が出来た。

数百年も生きた彼は言ってしまえば丸くなっていた。元々はかなりの激情家で、直ぐにキレるし特別善性が強い人間でもない。

しかし人よりも遥かに長い年月を生きてきた今の彼はどちらかと言えば優しい人間となり、戦闘中は口が悪くなったりする事がある癖こそあれど、かつてよりは言葉遣いもマシになっていた。


だが、そんな彼にも触れてはいけない箇所がある。


「……何、、言ってやがる……」


「あ?」


かつて、魔王軍全盛の時代。

もはや世界のどこにも安全な場所などなく、どこにいても魔物や魔族に怯えなければならなかった。

それが許せないミナトは小さい時から冒険者になって戦いに身を投じる事を決めていたが、そんな彼を復讐の化身とまでしたのは家族が魔族に殺された事だ。


鬼人、冷酷無比に敵を容赦なく斬り裂いていく様を見て呼ばれ始めた。

つまり魔族が恐れたのだ。彼を、彼の怒りを。

本来見下しているはずの人間を見て、鬼だと思う程に。


{っ!様子が……雰囲気、いや空気が……辺り一帯の空気が変わっていく……!?}


その怒りが今、フラッドの何気ない。さっきまでと変わらないはずの煽りの一言で蘇る。


(あの時代が……もう一度だと?)


家族の、共に戦った仲間の死が。

大切な人の死に苦しみ、次は我が身だと怯える人々が。

命を懸けて道を切り開いていった同胞たちの記憶が一気に頭に過ぎる。


この瞬間。呪いを受けてからの四百年余りの時間で初めて。

彼の身を、その周辺までも焼き尽くさんとばかりの怒りが再び芽生える。

それが本来有り得ない出来事を引き起こした。

ずっと繋がれていた鎖が切れた様に、力が溢れ出す。


フラッドが最後に見た景色は、刀を鞘に納め居合の仕草をとるミナトの姿だった。


居合・村時雨。


ほんの一瞬、呪いの弱体化に打ち勝ったこの時。

師匠から受け継いだ技を扱う事が出来た。


圧倒的速さでフラッドが見切る事は出来ず。

ミナトが瞬間移動でもしたのかと疑ってしまう程の速度で斬りつける。

体は一瞬で八つ裂きにされ、塵が消えるのも速かった。


カチン、と刃を鞘に納めた瞬間。

突然体から力が抜け倒れ込むミナト。


(やべぇ……ネヴィス、ドラーゴの方……行かな、、きゃ……)


しかしその場で気絶してしまい。

この戦が終わるまでその目が覚める事は無かった。

この王都防衛戦も終わりが近付いてきました。

今回は自分も初めて大規模戦闘を描いたので、ついワクワクしちゃって多方面の視点を同時に動かしちゃったりしました。

そのせいでもしかしたらちょっと読みづらかったり、テンポが悪かったりしたかもしれません。

次大規模戦闘を描くときはもうちょっとその辺意識してみます。

さぁ後もう少しのこの戦い、是非最後まで楽しんでもらえたら嬉しいです!

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