第八十八話 過去からの学び
「……」
「……」
ミナト対フラッドの間では会話で動揺を誘ったりなどの口上戦もあったが、こっちにはそれが全くなかった。
無口同士の戦い。クロムは現在、優勢とは決して言えない状況。
確かに静かだがそれは口の話。こちらは派手な戦闘を繰り広げていた。
フラッドが言った、魔力も筋力も劣っているという発言は間違いや自惚れではなく事実だった。
どちらもパワータイプの二人が戦えば当然力の押し合いの流れになる。
流石のクロムも、自身より魔力も筋力も上の相手となるとキツイ。
現に今も相手の攻撃を防ぐ事は出来たが後方まで吹き飛ばされていた。
{……力押しでは勝てない、最大火力を出しても仕留めきるのは無理だろう}
例え最大の武器を上回られても動じず次の手を考える精神の強さは流石の一言。
鉄仮面の下はちゃんとクールなまま。
策を考えるが当然悠長にしている暇などない、直ぐに接近してきた相手の攻撃をまた防ぐ必要がある。
力で受け止め、体の回転でいなし、魔法を撃って無理やり下がらせ距離を取る。
的確に攻撃を対処しつつ逆転の一手を探し続け見逃さない。
「……」
クロムが相手にしている奴は本当に喋らない。
ここまで無口な魔族はかなり珍しく、異質とまで言える。
無口で無表情、それに優れた体格とパワー。
魔族に体格の良さはそこまで影響しないが、リーチ等で厄介になる場面もある。
ステータスだけ挙げればどこかの何ロムさんのようだが。実際能力値だけで言えば上位互換だ。
扱う武器が剣と斧という違いさえあれど、能力の傾向は同じ。
魔法は大きな差別化点となっているが。
基本的なスペックは相手の方が上だという事に違いはない。
力で勝つことが出来ない敵。
この間のトロフィムは結局力押しでの勝利となってしまったが、今回はそうはいかない。出来ない。
しかしこの時の為に彼は聖魔祭以降力以外の武器を磨いて来た。
力押しが通らないのなら倒す方法は二つ。
一つは罠や策略と言った頭、もしくは技で華麗に倒しきるか。
もう一つは至極単純。
{押し合いで勝てなければ一方的に押し付けてやればいい}
何も力を封じたい訳でも、誰かみたいに封じられている訳でもない。
ただ手札を増やしただけ。
その増やした手札で元々のカードも更に強力にしようという考えだったのだから。
現在自分が出来る事を整理して、作戦は決まった。
先ずした事はミナトとの対戦同様。剣に可能な限りの魔力を込め炎を纏わせる。
彼はクールそうな見た目と寡黙な性格からはイメージし辛いがかなりの脳筋的思考の持ち主だ。
最大火力で全てを吹き飛ばす。
まだこの戦闘中に出してはいなかったクロムの必殺技。作戦はそれを軸に組まれている。
肝心なのは相手がそれを警戒してくれる事。
向こうは先程の様子からクロムの事を少々下に見ている様子だった。
しかし彼らが見たのは聖魔祭時点での彼、以降の事は知らない。
その間で更に威力の上がったこの技を見てギャップを感じさせられれば、作戦はほぼ成功と言っていい。
「……」
{来るな……}
何も話したりはしないし、表情に出ている訳でもないが。
相手が警戒度を上げた事は相対していれば分かった。
こちらの最大火力に合わせて向こうもこれまで以上の力で対抗してくると察知したクロムは。
そのまま正面から突っ込んでいく。
だが剣と斧がぶつかり合う直前に分かってしまう。
勝てない、と。
このままぶつかれば敗れるのはこちらだと分かってしまう程の差があった。
相手がこちらの事を最大限警戒し打ち合ってきたからこそ、勝敗は別れた。
クロムの魔力と魔法の籠った剣は相手にぶつかるよりも先に宙に浮く。
斬撃の体勢でそのまま右に抜けた彼の手にもう剣は握られていなくて、先程までの魔力も魔法も全てブラフ。
今度は剣に込めてあったものを全て自身の左手に集め、前傾姿勢を活かしてそのまま拳を振りぬく。
渾身の左ストレートが炸裂した。
あの破壊力を拳に移したのだ、多少は威力も落ちるかもしれないが流石の一言を言わざるを得ない。
相手の巨体を吹き飛ばし胴体に穴まで開けている。
「……俺は勝利からも敗北からも学ぶ。
貴様らは勝負から何を学ぶ、過去の教訓をどう活かす」
一人呟くが、言っても意味がないと後から気付く。
魔族は死体が残らず、直ぐに塵となって消える。
最後までこの魔族は口を開かず、死を目前に何を思ったのかすら分からなかった。
{こちらは勝ったぞ……分かっているな}
正真正銘全身全霊の一撃。
それまでの戦いでの蓄積もあり、もうクロムにあちらの戦いに参戦する余力はない。
だが、ミナトが負けることが無いとも確信。
自分以外の奴に負ける事は許さないとばかりに、エールも籠った思いを浮かべる。
今回のクロムの左ストレート。
ベルとの戦いで敗れかけた蹴りと、ミナトが最後に自身の攻撃を躱した動き。
その二つを合わせて状況に合うよう調整した結果ああなりました。
因みにこの展開、実はラストバトルに使おうかとも悩みました。
最後の最後で序盤の聖魔祭を思い出す展開は熱いかとも思いましたが、今回の方が殴るって選択肢に合理性がある気がしたので。
最後は最後でまた考えておきます。




