第八話 呪い
「俺には≪呪い≫が掛けられています。掛けられたのもう随分と昔の話ですが、今でも鮮明に覚えています」
ミナトは淡々と語っていった。
「呪いの効果は恐らく三つ。一つ目は弱体化、二つ目は不老。そして三つ目は人類の記憶からの消去。この三つです。
一つずつ分かってる範囲ですが、説明していきますね」
占い師は黙って頷き、話の続きを聞いた。
「弱体化というのは力の制限、、みたいなもので、今の身体能力は当時の十分の一程度と言ったところです。身体能力と共に魔力量も減りました。
二つ目の不老というのは言葉の通りで、俺はあれから年を取らなくなりました。それどころか少し若くなった気さえします。
三つ目に関しても同じく言葉の通りです。共に旅をしてきた仲間達も、俺の事は覚えていませんでした。昨日の夜まで一緒にいた友人も、次の日の朝にはもう…」
話の内容にはとても驚いていた様子だったが、占い師の頭には疑問が幾つか浮かんでいた。
「なるほど…幾つか質問をしてもよろしいですか?」
「どうぞ」
「ありがとうございます。いったい何故これらの出来事が呪いのせいだと分かったのですか?」
「俺は仲間達から覚えていないと言われてから直ぐに旅に出ました。自分が今どうなっているのかを知る為に。
そうして世界中を巡りました。その旅の末に出た結論が呪いでした。
それ以外にあり得るものが…無かったから結論付けたのですけどね」
「なるほど。因みに不老と弱体化には何か関係しているという可能性は無いのでしょうか」
「弱体化に関しては、記憶の消去から一ヶ月後には始まっていたので通常の衰えとは無関係かと」
「ふむ…では最後の質問なのですが。記憶の消去、という言い方どうにも気になってしまいまして」
「三つ目の効果に関しては謎な部分が特に多いのですが、確定している事が一つあります。
それは人間以外の者達…例えば魔族らなどは俺の事を覚えていました。
つまり俺の事を忘れているのは人間種のみ、という事です」
「!?」
「俺も一時は自分がおかしいんじゃないか、と思ったこともありました。
ですがさっきの話や、世界の各地には俺が存在していた痕跡が存在していました。
それに…かつての仲間達もどこか俺に既視感を持っていたようですしね」
そう言うミナトの顔は悲しそうな表情を浮かべていた。
他の事に関してはともかく、仲間の話となると感じる事がある様子だった。
「…それで、その呪いを解くために黄玉眼が必要だと分かりました。
これだけが。俺が知ることが出来たものです」
「分かりました。もうこれ以上は聞きませんが最後に一つだけ」
「?」
「どうやって魔法学園に行かれるおつもりですか?」
「…それは今から考えるところですが、どうとでもしますよ。
不老のおかげで人脈はそこそこ広いんでね」
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あれから道が別れるまで一緒に下校した後、それぞれの家に帰った。
(まだたった数週間とはいえ、黄玉眼に関する事は何も掴めていない)
本人が思っている通りまだ数週間しか経っていない。
だが少しの焦りが、ミナトの心にはあった。
それは黄玉眼の特性によるものだ。
魔眼にはそれぞれ能力が宿っているが、黄玉眼の能力に関しては結局何も見つけられていなかったのだ。
現状ミナトには黄玉眼が誰に宿っているのかを知る術がない。
実際に解呪の儀式を行うまでに所持者かどうかを判別する方法が無いのだ。
当然だが片っ端から儀式を手伝ってもらうなんて事は出来ない。
そもそも本当にこの学園に黄玉眼があるのかどうかすらも分からないのだから。
分かっているのは、探し求めていた鍵があるということのみ。
小さな焦りがミナトの心に積み重なっていっていた。
「ふぅ、焦るんじゃねぇぞ」
一人、そう自分に言い聞かせる。
今日は黄玉眼についてだよ!
黄玉眼に関して分かっている事は本っっっっ当に少なく、アイクが読んだ本に関しても超レア物なのです。
殆どの人は存在すら知りませんし、知っていても精々「数百年に一度しか出現しない」という情報のみ。
見た目の特徴は勿論無く、ミナトが言っていた通り能力も不明です。
どうやら魔王軍の幹部連中は何か知っている様子でしたが、真相は闇の中。
まさに神のみぞ知る、というのが黄玉眼なんですね。
今日は以上!