第八十五話 名は
{なんだ……なんなんだこいつ……!}
「っぐあぁ!」
声を挙げながら魔法を放つが、それが当たる事は無く。
彼が先程まで見せていた余裕などもいとうに無くなっていた。
「どうした、ほら。俺を潰しとくんじゃなかったのかよ」
攻めに転じ始めたミナトは相手を徐々に追い詰めていく。
敵の攻撃をいなしていき隙を見て斬り込む。
相手からすればかなりストレスが溜まる状況だろう、怒号を発しながら必死に抵抗するように魔法を放つ。
(そのパターンはもう見た、芸がないなぁ!)
またしても魔法を躱して相手にまた一撃。
「ぐぅ……!クソ、、、クッソぉぉお!」
「お前の敗因を教えてやろうか、相手を見誤った事と自信を過大評価した事だ。
確かにお前の実力は高い、魔族内でもそれなりの地位に居るんだろうな。だがお前じゃ俺には勝てない」
絶対的なフィジカル面での強さやミナト以上の戦闘IQなど、何か圧倒出来る部分がない者は漏れなく相性が悪い。
その点こいつは、高い魔法技術と魔力量。更には人間の魔法使いでは不可能なレベルの速さで移動する事で弱点が少ない優秀な魔族であると言えるが……。
(魔法の範囲と威力ならルチアに僅かだが劣る、魔力量はそもそも魔族なら人間とは段違いだから長所にはならない。
魔法使いにしては速くてもアイクやライコウ程の速度が出せる訳じゃない)
全体的に優秀で隙が少ないだけの魔族相手に、ミナトが引けを取る事はない。
ただしそれは負けない、という事であって必ず勝てるという訳でもない。
(もう一発……!)
素早く踏み込んだ後一振り、その後敵の腕払いを飛んで躱し更にもう一発。
これ以上の連撃は無理だともう一度距離を取り、隙を見計らう。
「どうした、反撃はしてこなくて良いのか?」
ミナトは当然最初から分かっていた。自身の弱点など。
それが魔族との戦闘で致命的と言える程の弱点である事も承知で戦っている。
相手もようやくその弱点がどれ程自分にとっては好都合な事かを理解し始めていた。
だからここまで一方的に攻められた後でも……。
「くふふ……はぁーはっはーーー!!!」
高らかに笑い始めたのだ。
「……笑う程の余裕があるとは驚きだな、まだ何か秘策でも残してたか?」
「いやいや、、君も分かってるはずだ。もう現状がこちらにバレている事を」
「!」
これまで圧倒的な戦闘技術と実戦の経験によって呪いによる弱体化の後も戦い続け。
格上の相手とも渡り合ってみせたミナト。
その彼の最大の弱点、それは火力不足。
呪いの影響によって一般市民程度、下手したらその中でも弱い部類に入る程の筋力。
斬撃の瞬間のみに魔力をピンポイントで込める事で最低限の魔力消費で最大限の威力を。
剣技を極限まで極め、体そのものを熟知する森羅自天流の修業によって少ない筋力でも最大限の重さを。
努力と工夫によって必死に埋めてようとしてきたがそれにも限界というものがある。
魔族と人間、この二つの種族の大きな差。
人間相手なら格上にだって勝ちを狙える。ただし魔族は違う。
「お前は俺に止めをさせない。
俺を倒しきる程の攻撃力がないんだろ?
だってもし違うなら何で俺は生きてるんだ?優しか?鬼人とも呼ばれた男が情けを掛けたってのか?」
一度斬撃を喰らえば致命傷になる人間とは違い、魔族は頑丈で致命傷の基準が人間と大いに異なる。
どうしようもない種族の差がこの現状を表していた。
「ほら、やってみるか?まぁ流石に首を差し出せばやれるかもしれないが……そんな事する訳ないよなぁ」
「……」
確かに無防備の首を狙えるのなら仕留めきれるだろう。
しかし相手は死を望んでいる訳では無い。
自身が優位だと感じた途端にまた煽りだす。
傲慢で人間をどこまでも蔑み見下す、いつの時代も変わらない魔族の習性。
「そうだ自己紹介をしてなかったな!言うの忘れてたんだよいけねぇなぁ」
魔族にとって名を名乗る事は自分を誇示出来ることからか多くの魔族が戦闘中、または前に名乗る。
特に称号や、異名などがつく魔族が絶対と言っていい程。
「厄災の六人が一人、フラッドだ。
どうもよろしく勇者ミナトさん」
その発せられた言葉に、反応せざるを得なかった。
するなと言う方が無理だろう。ミナト及び四百年前の人間にとってそれは、そいつらは……。
「厄災の六人……だと?」
「そうだ!あんたらが全員倒してくれちゃったさぁ。
で、今は俺もその一員って訳だ」
「……」
災厄の六人、魔王軍最高幹部六人の名称。
四百年前にミナト達が戦っていた主な敵戦力もこの六人のいずれかである事が多かった。
つまりは因縁深き名。
そしてそれを名乗る、という事は必然的に魔王軍が再始動している事も意味している。
「今回はわざわざ災厄の六人であるこの俺が来てやったんだ」
{何回斬られようがこいつには負けねぇ、なら!}
命が保証されるな多少ダメージを喰らおうが関係がない。
と割り切り反撃を喰らう事を承知で攻撃を仕掛ける。
ミナトも攻撃の手を止める事はなかったが、状況の苦しさは分かっていた。
(こいつが災厄の六人ほどの高位な存在なら、確かに俺じゃあ止めはさせないかもしれない。
だがそれは言い訳で、甘えだ。ここで諦めるなら俺は最初から剣を握ってねぇしとっくに自分で命を絶ってる。
攻撃力が足りない?今更何だってんだ、、、そんな事がなんだってんだよ!)
「っ!」
カウンター上等で戦うフラッドと、何が何でも斬り殺すとばかりに闘志を燃やすミナト。
ここからが本当の戦い、だった。
互いに命を懸け。負けたら死に、勝てば生きる。
当たり前の事だが、さっきまでと決定的に違う部分はフラッドの心。
命を懸けた戦いというものをあまり経験した事がない魔族というのは意外にも多い。
生まれた時から高位な存在であれば、苦戦する事なく戦いを終わらせてきたりしたからだ。
そういった魔族は、精神性が特に弱点となるケースが多いが一つ厄介な点が存在する。
土壇場での成長、初めて体験する命懸けの戦いを経験する事で飛躍的にパフォーマンスを上げる輩が偶に現れるのだ。
そしてフラッドがその典型的な例であるだろう。
「ーっとそういや言ってなかったな」
またしても戦闘の最中、語り掛ける。
「何だよ、てめぇ程度の煽りなんざ効かねぇぞ」
「違う違うここ以外の戦場についてだよ、お前は知らないだろう?教えてあげるよ」
(確かに知っておきたい気持ちはある。
こいつの言う事が真実である保証はねぇが、この戦いの後で本当かどうかは確かめに行けばいい)
聞くだけなら特に損もないだろうと、その話を聞く。
「今ね、ここから反対……北側ではネヴィスドラーゴが暴れてくれてるよ。存分にね」
「は?とんでもねーやつ連れて来やがって……さぞかし苦労して手に入れた戦力だろ、ここで使っても良かったのかよ」
出てきた名前に驚きはしたが、一応まだミナトには余裕があった。
ネヴィスドラーゴに関しては冒険者連中や騎士団、ミケーレが戻ってきた時に叩けばいい。
被害は出てしまうかもしれないが正直ミナト一人でどうこう出来るような相手でもなければ、今は目の前に魔王軍の幹部と対峙している。
ここを空ける訳にもいかない。
「それに各地に配置した強力な魔物達もいい感じに暴れてくれてるねぇ。
王都の中でも戦闘が始まってるみたいだ」
(って事はあいつらが戦ってる可能性が……!クソ、どの道速くこいつを倒せるに越した事はねぇか。
方法は考えなくてもいい。相手が死ぬまで斬ればいいだけだ)
あくまでも冷静にいれていた。
多少闘争心の影響で口が悪くなったり荒々しい思考回路になる程度。
そこで踏みとどまれていたのに。
「てな感じで各地で被害は出まくってる、お前がもっと強ければこんな事にはならなかったろうになぁ」
「うるせぇよ。そっちこそお前がもっと強ければ速く部下の援護に行けたってのによ、クロムは負けねぇぞ?」
「本当に?魔力も筋力も劣っている彼が勝つとは到底思えないけど……まぁいい、後で死体を見せたらいいか」
「……やってみな。お前らは死体が残らないから同じ事は出来ねぇが、敗北ってやつを教えてやるよ」
現在自身が圧倒的に有利であると確信したフラッド。
彼は忘れていた。何故目の前に居る相手が人間でありながら魔族に鬼人と呼ばれていたか。
当時の世界人口を半分以下にまでした魔王軍が、勇者五人によって殆ど壊滅させられた事。
その所以と恐ろしさを知る事になるのは、もう直ぐ先の出来事だった。
リアルが忙しい+敵の幹部名+初めて出る幹部の敵の強さバランス。
の三つが重なった事でのこの投稿間隔。
リアルの事は置いといて、まず敵の幹部名に関して。
インディー語で終焉を意味する「アント」(終焉を厄災にしたのは厨二心的に良かったのでそうしました)、同じくインディー語の6を分かりやすい日本語にした「チェアー」でこうなりました。決してアリの椅子ではありません。
そして強さバランスに関して。
災厄の六人の初出人物なので、こいつの強さ描写を失敗すれば後々取り返しのつかない事になりかねません。だから実は戦闘シーンを何回か描き直したりしてます。
リアルが落ち着きそうなので、次回からはまたいつものペースで描けそうです。




