第八十四話 大きく動き始める中で
「大分数落ち着いてきたな」
「まぁかれこれ何時間レベルで戦ってるしね、寧ろ今でも魔物が尽きないのが恐ろしいよ」
ミナトが抜けた後、三人は上手くサポートし合いながら戦い抜いていた。
かなり数が減って来て多少なら会話をする暇も出来てきたが、これまでの疲労も相まって油断できない状況は続く。
{!魔力が……}
これだけ長い間戦い続けているから仕方のない事、流石のルチアも魔力が限界寸前だった。
咄嗟に迎撃でなく退く判断をした事で負傷はせずにアイクがカバー出来る範囲まで行く事には成功。
そしてそれを見たアイクが即座にフォローに入り魔物は討伐成功。
「……助かった」
「こういう時はお互い様だって、僕の方こそ何回助けられたかって話」
互いに礼を交わしたこの一瞬の会話の中でも彼女の面白い所は見つけられる。
現にアイクは今新たな発見を遂げていた。
{やっぱミナトが関係してなかったら案外話せるんだよなぁ……今もお礼まで言ってくれたし}
ミナトの時みたいに言わざるを得ないから仕方なく言う、のではなく思いの外素直に感謝を口にしていたり。
普段その彼といる事の多いアイクを嫌っている訳ではないが、近くに居る事が多いので結果的にご機嫌斜めのルチアとの会話が殆どなので少し新鮮な気分ですらある。
だが最近はフレアと仲が良くなった事が原因なのか少し雰囲気が和らいだ、というのも噂としてあるとかないとか。
「確か支給されてるポーションあったろ、まだ飲んでなかっただろうし今のうちに飲んどけよ」
それ抜きでも話しかけられる生徒も中には居るが。
{ちっ……分かってるよ}
魔力が限界だとバレていた事にイラついている訳では無いが、少し不満そうな顔で魔力補給用のポーションを飲む。
恐らく、この程度で魔力が切れる自分に腹を立てているのだろう。
一般的に言えばこの程度なんて言葉を使える次元ではないがそこはさておき……。
{ミナト大丈夫かな、、せめてどこに行くかだけでも……いや、きっと今の僕じゃどうにも出来ない。
もしそこまでピンチなんだったら先生でもルチアさんでも連れて行ってたはずだ、ミナトが大丈夫だと判断して一人で行った。そしてここを任せてくれた、僕は僕に出来る事をやるしかない!}
一人で行ってしまったミナトの事を気にはしつつも、今出来る事を精一杯やろうと気持ちを締めなおすアイク。
今はただこのやって来る魔物達を倒していく事に集中しようと。
そんな時。
「……アイク」
「?」
先程から何かを考えていた様子だったトロールが、ある事を伝える。
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「誰か……」
王都北側。
騎士団が防衛を務めている方角。
「今、、すぐ……伝えるんだ……!」
侵攻開始直後から流石の安定感で戦線を維持し続けていた騎士団だったが。
一匹の魔物の登場によって。
現在、壊滅状態にあった。
「ネヴィスドラーゴ……が……」
その男の言葉が誰かに届くことは無かった。
周囲にはもう無事な人間などいなかったから。
ネヴィスドラーゴ。ロヴェンテドラーゴと対を成す存在とされ、討伐難易度も同等。
今の防衛線の中にこの化け物と戦える人物は居ない。
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その頃、フレア達はと言うと……。
「さっき凄いごねてたね、エティノス君」
「まぁわざわざ預けて貰った大事な留学生を戦わせる訳にはいかないだろうしな……」
住民の避難が粗方終わったところで、エティノスとアンテレの留学生組は避難所として開放されている学園に万が一の警備役、として向かう事となったのだ。
オーズが言った様にこの二人は第一学園から預かっている大事な生徒。
そもそも交換留学自体中止にすべきという声も多かった中行われた事もあり、万が一があってはならない。
先の誘拐事件で侵入を許した学園に生徒を向かわせるなど、といった意見が多かった中生徒達の強い要望とベルの父、第一魔法学園の長が推した事でなんとか決行に漕ぎ着けたのだ。
「アンテレ氏があそこまで感情を露わにしたのは始めて見たよ」
「うん、、すっごい怒ってたね」
「新しい顔を見れたのは嬉しいっちゃ嬉しいんだけどなー」
万が一の警備役、なんてものは口実に過ぎなく避難しろと言われている事なんて分かりきっている。
その事に納得がいかず駄々をこねていたエティノスにアンテレがまさかの怒りの説教。
普段の物腰柔らかい好青年の彼からは考えられない形相で説得(?)をしていた。
状況が状況なんだ我儘言ってるんじゃねぇ!という言葉は全く持って正しいのだが。
「あ、私もう一回避難遅れてる人いないか見てくるよ」
「ほんと?俺もついて行こうか?魔物が潜んでる可能性は充分あるし……」
「大丈夫!二人はここら辺をお願いね」
再び市民が逃げ遅れていないかを確認して来る、と一人で走り出すフレア。
「あーあーそんな急がなくても、あれだけ隈なく探したんだからもう居ないと思うけど。熱心だなぁ」
「それが彼女の良い所さ。
僕達もただ突っ立っていてはなんだし、辺りを見回ってこようか」
「そうするか」
市民はいなくとも魔物が居る可能性はある。
そう思い二人も周囲の警戒に動いた。
{やっぱりもう逃げ遅れる人は居ないかな。後は……}
動き出してから数分。
元居た位置よりそこそこ離れた位置。
彼女はあまり魔法を得意としていない。
だから探知魔法の射程は精々数メートル。
この様な市街地などでは、視界に入る直前に敵の存在を知れる程度だ。
だから高速で迫って来ていた魔物に気が付いたのは、曲がり角を曲がり始めたところだった。
「……あ」
街の民家や建物よりもデカいそれの攻撃が彼女を襲う。
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「はぁ……っ!」
「ほらほら!息をつく時間なんてありませんよ!?」
ミナトと魔族の戦いが始まってまだ数分。
互いに相手の実力へそれぞれ思う所が出始める。
{大した事はないな……やはりかなり弱ってしまった様で。
残念だ、どうせなら全盛期のあなたと戦いたかった。弱い者いじめは楽しめない主義なんですけどねぇ}
一方的に魔法を撃ち続け、それに対してミナトが防戦一方なのを実力差だと考えているらしい。
しかし先程から避けに徹している本人が考えている事は真逆であった。
(こいつとは相性良さそうだな、、、力と防御でゴリ押しみたいなタイプだったらヤバかったけどこういうやつならどうとでもなる。
正直クロムが戦ってる奴の方が俺は相性悪そうだったしあいつには感謝だな)
相手の戦闘スタイルは王道魔法使いタイプ。
ミナトが苦手とするフィジカルで全てを破壊!ではないのでこの対面は決して不利ではないと考える。
「どうしました?逃げてばかりでは俺には勝てませんよ?」
(さっきから煽る様に微妙な敬語使いやがって……)
ずっと見下されているのも癪だ、と遂に攻めに転じだす。
「こっからは俺のターンだ。精々ここに来た事を後悔するんだな」
「随分と偉そうな事を……今の自分に何が出来ると思ってる」
「少なくともお前を斬る事くらいはな、もう大体動きは分かった。
遺言を言う時間位は後でやるから最後の言葉でも考えてな」
ここまで煽られれば当然かもしれないが相手の顔が見る見るうちに怒りに染まり。
挑発は完璧に決まったようだ。
各地で不穏な事が起こり始めている頃、彼も剣を振るう。
どこかで抗っている誰かと同じ様に。
ネヴィスドラーゴ、ロヴェンテドラーゴと対を成す存在。
灼熱と暴君のロヴェンテに氷結と絶望のネヴィス。という異名もあり。
異名の通りそれぞれ炎と氷を扱う。
単独で一国を落としかねない、とされる双方の竜がかつて人界を揺るがす衝突を起こした事があった。
通常なら揃う事の無いはずの二匹が邂逅し、世界で一番迷惑な喧嘩が繰り広げられられたのだ。
その時一人の冒険者がその戦いを沈めた、という有名な逸話がある。
人物の名はミスラ(後にミスラ・ステラと呼ばれる)、その一件が決め手となり彼の為に作られた冒険者ランク、オリハルコン級への昇級が決まったのだ。
歴史上二人しかいないランクの一人目である彼の最も有名かつその実力を表した逸話である。




