第八十二話 思いを持ってそれぞれが
今回の魔物の大群による王都襲撃。
ようやく黒幕と思われる人物の位置を特定出来たミナトは、人数不利を承知で向かっていたのだが……。
「なんでここに居んだよ……クロム」
特定出来た場所に向かう途中、同じ方向に向かっている人を見つけたと思ったらその人物はクロム。
「それはこちらのセリフだな。
俺の配置は近くだ、お前はもっと南の方だろう」
驚きしかないミナトは何故居るのかと聞くがそれは向こうからしても同じだ。
「俺は探知ずっと続けてたら偶々引っかかったから見つけたんだよ。
そっちは?」
サラッと言っているが普通この情況で出来る芸当ではない。
教師陣がまだ気付いていないのが彼の異常性を表している。
{こやつ本当に……}
呆れすら感じそうになるが、自分が唯一負けた相手だと考えれば寧ろそれ位はやってもらわねばと開き直り。
今度は自信の話をする。
「……偶然奴らが近くに居た時探知出来てな、、、それから見失わない様に注意し続けていた。
機を見て元居た場は任せこちらに向かって来たのだ」
クロムが居た方は教師が少なかった分二年生が配置されており。
数で言えばミナト達がいた所よりも多い。
だから抜けても大丈夫だろうと思うのも。残される側も、クロムなら何か考えがあるのだろう。
と思うのに違和感はない。
(まぁ兎に角、これはありがたい助っ人だ。
今考え得る限り最高の戦力、少なくとも人数差はこれで問題ない)
実力に関してはもう疑うどころか信頼しかない彼が来てくれるのは安心感しかないレベル。
人数差という絶対的な不利を取り払えたのはかなり大きく、これで最大の不安は解消された。
「急ぐぞ、逃がす訳にはいかねぇからな」
その呼びかけに黙って頷き更に加速していく。
黙ってスピードを上げたクロムに、(一言くらい言っても良くない?)と思いつつ並んで速度を上げる。
___________________________________________
{皆は大丈夫かな}
王都に残り、抜けてきた魔物の対処や避難を補助する役割のフレア。
避難事態は滞りなく進んでいるが徐々に抜けてくる魔物の数が増えてきている事に不安を覚え始めていた。
「大丈夫だよフレアさん、あの四人ならへましないだろうし。最悪上手く逃げるなりなんなりで切り抜けられるって」
不安が感情に出ていた彼女に声を掛けたオーズは、存外平気といった様子。
「俺も全く心配してないって訳じゃなけどさ、、この数ヶ月同じ教室に通って思ったんだよ」
これまでの日々を思い出しながら語り始める。
「アイクはさ、すっげー努力家で毎日放課後も残って頑張ってるし授業も誰より真面目に受けてる。
トロールとはまだあんまり話した事はないけど、毎日自分なりに色々試してみたりして努力してるみたいだし。
ルチアさんの事は俺よりも知ってるんだろ?なら言わなくても分かるはずだ。
後はミナトだけど……」
言いかけたところで言葉は止めてしまった。
「?」
突然話を止めた事に不思議がっていると、少し笑いながら続きを言う。
「……言わなくても分かってそうだな、これも」
その言葉に若干照れている様な表情を浮かべながら答える。
「うん、、、そうだね」
この学年、取り分け一組の中での共通認識として。
ミナトは他とは違うと誰もが思っている。
それは単なる強さだけでなく、知識や立ち振る舞い。精神性までも込みで。
普段は頼み事や多少の面倒事も手伝ってくれるが、学校に入る前の事は基本喋ろうとしない。
昔から各地を転々としながら暮らしていた事は言ってくれても何故そうしているのかは言わない。
あらゆる面で特殊、、というか異質な彼をクラスメイト達はある種特別扱いをしているが。
それも含めて彼なのだとは割り切って共に教室に通っている。
「不思議だよね、彼」
二人のしばしの無言の間に入って来たのはフラジオ。
彼も近い位置での配置で、一組の中ではこの三名を中心として魔物の対処に当たる方針である。
先程魔物の対処に当たっていた所から戻って来たようだ。
「……だな。
っつーか聞いてたのかよ」
一瞬感慨深い様な空気になっていたがよくよく考えれば違和感に気付く。
「そこまでデカい声で話してた訳じゃないし、、ずっと聞いてたのか?」
「失礼ながらね。会話に入るタイミングを見失ってしまったのさ」
「て事は、かなり速く魔物は倒せたんですね」
フレアの言葉に、「いや」と訂正を入れ少し真面目な顔つきになりながら話す。
「実は冒険者パーティーが偶々近くに来ていてね、一緒に対処してきたんだ」
「あれ、、ほんとの駆け出しを除けば冒険者は全員外の配置じゃなかったっけ」
人手不足の今でも、最低限の人選は必要。
まだ魔物の討伐依頼をこなした事のない冒険者は今回避難補助の方に回されている。
なのでそこまでの初心者パーティーと協力しても魔物の討伐速度は大して速くないはず、と疑問に思う。
「いや、僕が会ったのはそんな素人の感じではなかったら外から入って来た人達だよ。多分ね」
「おいおいそれはどうなんだ、もしかして怪我でもしてたとか?」
「それも違ったね、全員動きに支障が出るレベルの怪我はしてなかった。
後多分だけど何人かは同じように来ると思う」
いつにもなく真面目な口調で話すフラジオを見て、驚きはあったがそれ以上に言っている事が分からなかった。
「どういう事?そういう人達がまだ来る、っていうのは……」
疑問に思い聞いてみれば、あまり間を空けることなく答えは返って来た。
「これは推測だけど、前線の戦場は最初に比べて魔物の数が減りつつあるんじゃないかと思う。
だから戦況は楽になっていく、そうなれば他の場所の事を気にし始める人たちも出てくる。
そしてその人たちはこう考えた。少なからず魔物が抜けて王都に入って来るだろう、と。
更にその魔物達は高確率で強い者の場合が多い、だから戦力的に余裕のある自分達が処理に動いた方が良いんじゃないか、ってね」
{確かに魔物が突破したイコール、戦ってた奴が負けた。か追い付けない程の速度で抜けられたかのどっちかだろうし、言ってること自体は分かる。でも……}
理屈は分かる。
確かにそうなのだろうと思うがどうしても一つ気になる事があった。
「お前……なんかいつもとキャラ違うな」
「ちょっとオーズ君?あんまりそんな事言っちゃ……」
堪え切れず行ってしまった彼に直ぐさま注意するが、さっきの言葉を聞いたフラジオの甲高い笑い声でそれは掻き消される。
「ふっ、これも僕なんだよ。決めるときは決めないと、、ね」
何故だか体の周囲にキラキラが見える気がする、と呆れられる所で彼の顔が再び真剣なものになった。
「でもね」
突然の変化にビックリする二人に語り掛ける。
「この前僕は皆に迷惑を掛けてしまった。それは決して謝って済むようなものじゃない、もしかしたら命を落としていたかもしれないんだから……。だからこそ!」
暗く下を向いていた顔を上げ、いつものキラキラとした顔になりながら言う。
「皆の役に立ちたいんだ、せめてもの償いをしたいんだ」
誘拐事件の事を未だに自分のせいだと罪悪感を感じているフラジオを見て、二人は一度顔を見合わせてから告げる。
「クラスの誰もお前のせいだなんて思ってねーよ。
あと、役に立ちたいと思ってるのは俺も同じだ。
皆より頑張らなくちゃと思ってるのも、きっと同じだ」
退学しない為に特訓に付き合ってくれた二人、それにアドバイスをくれた先輩や話を聞いて現状への打開策をちゃんと教えてくれたルチア。
恩があると思っている人達の為に、その人たちの役に立ち帰る場所を守るために。
その思いを持ってこの場に居るオーズ。
「うん、私も同じ意見かな。
フラジオ君一人が背負い込まなくても、皆それぞれちゃんと思いを持ってる。
だから思いつめなくても大丈夫だよ」
今クラスでは最も近くに居るルチアはあの存在感。
少しずつ事情を察し始め、あれから気にし続けているが一向に進展のないミナト。
何かしなければと常々考え行動に移してみるが、中々成果は出ず。今回は聖魔祭選抜組の中で唯一前線から外され。
内心では悔しさでいっぱいだがそれを抑えて役割を全うしようとするフレア。
心情を全て理解した訳でも感じた訳でもないが、何故だか不思議と二人を見ると安心出来たフラジオは。
「……ありがとう、僕はクラスメイトに恵まれたね。
頑張ろうではないか!共に!」
感謝を口にし、共に奮起する事を高らかに言う。
今はこうでもいつかは並び、一緒に戦えるように。
三人はここからの成長と今この場で全力を尽くす事を誓い合った。




