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忘却の勇者  作者: くろむ
蠢く陰謀編
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第八十話 魔物の大群

遂に魔物との戦闘に入った時。

先陣を切っていたため少しだけ早く戦い始めたミナトを見たアイクが思い出していたのは、彼との修業の日々ではなくある授業での出来事。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


その時ペアは指定で組む時間だったので、普段はやらない相手と打ち合いをしていると。

アドバイスに入って来たミケーレが言っていた。


「固いなぁ、、固いよアイク」


普段はあまり授業中話しかけてくる事がない彼女の突然の言葉に驚きながらも意味を聞く。


「えっと……それはどういう?」


「真面目過ぎるんだよお前は。もっと肩の力を抜いていい、相手を過剰に強く見るな」


言いたい事は分かる。

だが真意とでも言うのか、この言葉にはもっと別の意味がある気がしてならなかった。

含みを感じる言い方と表情だったから。


その疑念が伝わったのだろう、少し考えてからミケーレは笑みを浮かべながら言う。


「あいつはあんまりこういう事言わないだろうし、私が言った事を知ったら良く思わないかもしれないけどさ」


あいつ、というのが視線の先に居るミナトだと直ぐに分かる。


「自分ならこいつ位どうとでも出来るぜ!くらい気軽に考えてもいいんじゃないか?

勿論いつもそんな思考してちゃマズい時もあるがお前の場合、必要以上に相手を過大評価しがちだし自分を下げ過ぎだ」


「……」


如何にも先生らしい事を言われ、アイクはただ彼女を見ている事しか出来なかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


何故突然そんな事を思い出したのかは分からない。


ただお陰で少し。

息を整えて肩の力を抜く。


{大丈夫、相手の動きは見える}


最初にぶつかった魔物を即座に切り裂き、次の標的を探す。


聖魔祭の時満足に実力を出し切れない事もあったが、そんな彼とはもう似ても似つかない。

非常に落ち着いた様子で戦いに臨めている。


(やっぱ問題無かったな、来る途中一応言っとかなきゃならねぇ事は言っといたから後は大丈夫そうか……)


ミナトが言っておいたことは二つ。

一つは森羅自天流の事は気にしなくていい、というもの。

そもそも意識しようにも出来ないが完全に忘れていつも通り戦え、の意味。


二つ目は、無理は絶対にするなと強く言っていた。

戦いは基本的に助け合いであるし、怪我でもしたら逆に足手まといになるぞと念を押してまで言う程。



(他の皆も大丈夫そうだし、俺も戦いに集中しなくちゃな)


言っていた事はちゃんと覚えているようだし、他の二人も問題無さそうだと判断。

自身も戦闘にフルで意識を向け始める。




ミナトが徐々にスイッチに入っていく中、トロールも非常に冷静に戦況を見る事が出来ていた。


{あいつは問題無いとして、、ルチアも流石に大丈夫そうだな。いつも通り魔法ぶっ放してやがる。

なら俺がすべき事は……!}


問題の無さそうな二人を見た後、動き始め向かった先はアイクの近く。


丁度その時ある魔物と交戦していたが……。


{こいつ硬い!僕じゃちょっと分が悪いかも}


そう思っていたところに魔物の側面から振り下ろされる剣が目に入る。

振り下ろされた剣はそのまま胴を両断し、魔物は消滅。


「トロール君!ありがとう助かったよ」


カバーに入った彼に礼を告げると、直ぐにある提案がされる。


「あの二人は少し動きが違うが……俺達は協力しよう。

アイクの足りない火力は俺が、逆に俺に足りない機動力と手数はお前が補ってくれ」


互いに足りない要素を補いあえるこの提案。

断る理由などなく。


「オッケー!じゃあ、やっていこうか!」


小さな剣を両手に持つ双剣のアイクと、大きな剣を片手で扱える剛腕のトロール。

この二人のコンビは中々に強烈だった。


次々と魔物を切り倒していき、とても学生とは思えないような戦いを繰り広げている中。


彼女は一人黙々と魔法を撃ちまくっていた。


「……」


一人で戦っている以上当たり前かもしれないが無言。

しかし表情はいつもよりかなり楽しそうに見える。


笑いながら魔物達を焼き払っていく姿は少々ホラーにも見えるが、実に頼もしい。


得意の広範囲魔法を連発しているが周囲を気にしていない訳ではなく。

一応範囲の調整と撃つ位置は気を付けている辺り器用だ。


これが初の実戦とは思えないような戦いっぷりだったがこれは彼女が魔法使いであるからこその試練か。

トロールやアイクと違い一人でも大丈夫だと踏んでしまった結果とも言えるが、決定的な隙が生まれてしまう。


{しま……!}


魔法を撃つまでの時間、それが魔法使いが抱える最大の弱点の一つ。

一人でも戦えてしまう彼女だからこそこの隙がどうしても出来た時、魔物の牙が襲い掛かる。


逃げる事が出来る速度でもなく、魔法を撃つまでの時間も無い。


寸前まで迫っていた魔物に打つ手がない彼女を助けたのは、彼女が最も嫌っている人物だった。


目の前の魔物を両断し、そのまま振り返って一言。


「大丈夫か」


悔しい。

悔しい程完璧に助けられ、もはやいつもの悪態をつく隙すら無い。


「っ……ああ、助かったよ」


いつもなら一言、俺に礼を言ってくれるなんて、とか。

今の状況なら、一人で動くのは危険だから誰かの近くに居とけよ、位は言いそうな場面ではあるが。


「そうか」


の一言だけ言ってさっきまで自身が居た場所まで戻ってしまった。


警告はしなくても分かってるという顔をしていたから。

もう二度と同じミスはしないと誓った様な表情だったから。


情況が状況の為、言わなくても良い事は言わない。


{クソっ……!}


完全に向こうが上手である事に腹が立ちつつも、また近くにいた魔物を一体焼き払う。

そのままさっきよりも少しアイク達に近い位置に移動して再び魔法を撃っていく。


{いつか絶対、、、私が……!}


悔しさをぶつけるようにまた一人、魔物を倒す。






戦闘が始まって数十分が経ち始めた頃。


三人は再び思い知る。


{あれが……}


戦っている途中によそ見など厳禁なのは分かるが、視線を吸い寄せられる。


{ミナトの本気……!}


恐ろしい速度で魔物を斬り伏せていく。


いや、倒す速度自体はそこまで速くないのかもしれない。

ただ全ての動作と、その動作をつなぐ間がとてつもなく速い。

結果的に彼は一騎当千の如く戦っていた。


標的を見つけ、動きに合わせて的確に弱点を斬り込む。足りない場合は数度弱点に追い打ちをかけ各自に仕留める。

そして次の標的を見つける。恐ろしい速度で。


得意の探知魔法と首の振りの速さ、意識の切り替えの速さ。


彼のこれまでの戦の経験が凝縮された動きは圧巻の言葉しか出ず。


「っ……ちぃ」


ルチアも舌打ちをしていたがあれに加わる事は出来なかった。

その必要もないが。



{もしかしてだけど、、、ミナトさっきから魔物を選別してる?}


そうアイクが気付いたのもこの頃。


{僕たちが倒せるラインを見極めて自身の標的を?……ああ}


確信ではない。

正解かどうかは分からないが、そう思えば合点がいった。


先陣を切ってわざわざ一人だけ少し前の位置で戦っている事。

無理はするな、という発言と。普段の厳しいけどなんとか乗り越えられる鍛錬。


一度思い始めれば自分の考えが間違いだとは言えなかったが。

出来る事は何一つ変わらない。


ただ目の前の魔物を切る。

それだけだ。



(次。こいつは手が掛かるな、ルチアに任せた方が速い。

あそこの二匹は俺が仕留められるがその手前に居る奴はアイクとトロールに処理してもらおう。

先生たちは少ない人数でも相手の数をかなり減らしてくれてる。多少は余裕もあるし、後ろに送る数も増やしていいかもな。

だから俺は……)


自らが対処する数を少し減らして標的を絞る。


その相手はミナトが度々警戒している黒幕の次に厄介なもの。


(今回の襲撃の魔物は比較的弱い部類の奴が多い。質より数を取ったみたいだ。

だが中にぽつぽつ強力な奴が混じってる……俺一人で処理出来る奴は可能な限り捌きたい)


討伐難易度の低い魔物が多い軍勢の中に紛れている強力な魔物。

今のアイク達では手に負えないレベルも探知出来ている事からミナトは警戒を強めていた。


(さぁ、、ようやくスイッチが入ってきたところだ。どんと来やがれ)


戦いはまだ始まったばかり。

強力な魔物や黒幕の存在、数えきれないほどの軍勢。

敵は中々に強大だ。

ミケーレは授業中、そこそこ生徒にアドバイスに入っています。(教師だから当たり前かもだけど)

しかしアイクが驚いたのは無理もなく、理由はシンプルにいつも組んでいる相手がミナトだから。

ミナトが居るなら自分が指導に行く必要はない、とミケーレは彼がいるところには口を挟みません。

だからよく一緒に居るアイクもあまりアドバイスなどをされることは少ない。

というお話でした。


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