第七十九話 王都防衛戦
「……本当に俺がここに居て良いのだろうか」
「なーに言ってんだよ、実際認められたからここに居るんだろ?目の前の事に集中してりゃいいさ」
王都を包囲するようにして現れた大量の魔物達。
当然放置する選択肢などなく、緊急の防衛戦線が貼られていた。
(腕の良い冒険者たちは今朝のレイドに行ってるから居らず、本来国を守るための戦力である騎士団は現在団長を筆頭とした優秀な人材は国王と共に出張っている。
肝心な時にあの先生は居ないし、正直今が一番脆い時だからな……そこを狙ってきた可能性は高そうだ)
ロヴェンテドラーゴ討伐のため上級冒険者パーティーは強制招集、騎士団は団長らが不在。
一連の全てとは言わずとも何かしら裏で動いている連中が居るのはもう確実だ。
その連中の事も気にはなるが、今はこれから相手にする大量の魔物達の事を気にしなければならない。
(王都の上半分、北側は騎士団が。
南側には残っていた低級冒険者と魔法学園の教師、それから一部戦闘に特化した生徒。
つっても生徒ですら三年生は全員課外授業で居ないから俺達一年まで駆り出されてるんだが……)
これもタイミングが悪く、魔法科の三年生も今は出ており当然彼らを見る教師も着いて行っているので居ない。
ミナトとルチアが敬愛しているウォーデンも担任なので不在。
今はとことんタイミングが悪く人手が圧倒的に足りていない。
だから一年生まで駆り出されている。
しかし最前線という訳ではなく、基本的には撃ち漏らしが無いよう少し後方での配置で。
近くには教員がおり万が一がないよう助けられる位置関係だ。
それに一年生は一部の生徒のみが出てきており、多くの生徒は市民の避難誘導の手伝いと万が一の時の護衛役である。
選抜されたのはミナト、アイク、ルチア。そしてさっき不安を零していたトロール。
二組の方からはクロムと、一応聖魔祭でも個人戦に出ていたオスカルが選ばれている。
「俺は実際お前らと比べたら力不足だ、フレアさんと違って明確な長所もない」
堂々と立っている割に言っている事は弱気。
不思議にも見える光景だが言葉を続ける。
「だがやらなければならないなら、全力ですべき事に専念する。
迷惑を掛ける事もあるかもしれないが共に頑張ろう」
どうやら弱音を吐いていたわけではなく、彼なりの励ましも込めていたらしい。
力不足も承知の上でこの場に立つ姿を立派だと思うのは皆同じで、続くように各々話していく。
「僕も正直ちょっと不安だけど、、、皆も居てくれるし精一杯頑張るよ!トロール君もそんな事言わなくたって大丈夫!」
「そうだ。ここには俺もアイクもルチアも居る。
近くには先生たちだって居るしここはかなり安全な部類だ。思いっきりやってやればいい」
相変わらずルチアは何も言わないが、悪態をついたりしない所を見るに大丈夫だとは思っているようだ。
それは本人もしっかりと伝わっていたから寧ろ励ましにも近い。
(そう、ここはかなり安全な場所だ。何かあっても俺が助けられるだろうしな。
今心配しなきゃいけないのはこの騒動を引き起こした黒幕と、抜けた魔物が後ろの奴らと戦闘になる事)
手が届く範囲ならいい、目に見える範囲なら。
だがそうではない。今回は戦いの規模がデカすぎる。
住人たちの避難を誘導するクラスメイト達の方に魔物が行ってしまったとしても、ミナトはどうする事も出来ない。
魔物が来ている範囲は一人の人間がカバー出来るような範囲ではないからだ。
(さっきトロールが言ってたフレアさんは避難誘導、及び補助護衛役。
後ろに居る奴らの戦力で言えばまず間違いなく戦闘に参加しなければいけない。
別れる直前に様子を見た時は大丈夫そうだったけど、、、心配なのはその戦闘が酷なものになる事がほぼ確定している事)
魔物が抜ける時、多くの場合は戦っていた者が敗れたから突破されたのだと考えられる。
つまり向こうに行く魔物は強力である確率が高い。
(聖魔祭の時選ばれた中でフレアさんは今回一人だけ外れた。
判断基準は色々あるだろうけど、万が一魔物が抜けた時の為に戦力を多少は残しておく必要もあるからってのはあるだろう。
オーズは確かに集団への火力は期待できるけど流石にここまでの乱戦で使うにはリスクが大きすぎる。
トロールと同等の成績のフラジオが選ばれなかったのは純粋なパワーの差。
その点でフレアさんは元々攻撃面を課題としている。人間よりも深い斬撃が必要な魔物相手には相性もあまり良くない)
思考を巡らせるのは後ろの皆が心配、というのもあるが。
黒幕の対処を考えた時に気にしなければならないポイントでもあるからだ。
ミナトが考えている黒幕の正体は魔族、それもかなりの実力。
そんな敵と戦う事を考えた時の動きとして最善手を探す。
必要となるであろう戦力として。
先ず自分、そしてクロム。可能であるならルチアか教員を数名。
(俺だけじゃ火力不足になる可能性がある。
それを補ってくれる奴が欲しいが……そいつらは全員重要な戦力だ。もし今の配置を抜けたら魔物の侵攻を許してしまうかもしれない、そうなっては元も子もない。
……結局状況次第か、出来るなら今挙げた奴を呼んで行こう。無理なら俺一人でもなんとかしてやろうじゃねぇか)
思考も纏まり始めた頃、遂にその時はやって来る。
「!全員構えろ、そろそろ始まるぞ」
探知魔法で魔物が前線とぶつかり始めると周囲に知らせ、自身も刀に手を伸ばす。
初めての実戦がこんな事になってしまったアイクも覚悟は決めている様子。
不安や緊張といった感情はあまり見えてこない。
トロールもただ真っすぐ正面を見つめ、いつでも来いとばかりに構える。
普段は授業でもあまり集中しきっていないルチアも今回ばかりは真剣の表情で。
一応初の実戦はアイクと同じはずだが心の余裕が違う事が見てとれる。
(……よし、この様子なら精神面は大丈夫だな。
あとはどこまで戦えるか、、、俺の弟子になったんだ。多少は暴れてくれよアイク)
流石に踏んできた場数が違うミナトは周囲の様子を気にする余裕まであるが。
気は引き締められている。
「今だ!俺達も行くぞ、続けー!」
先陣を切って進むミナトに続いて三人も走り始める。
魔物の大群との戦いが今、始まった。




