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忘却の勇者  作者: くろむ
蠢く陰謀編
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第七十六話 よくある光景に見えて少し違ったり、かなり違ってたり

「はい一本。実戦だったら死んでるぞー」


「っ……もう一回!」


「その意気だ!ほら集中集中ー!」



「……な、なんだあれ……」


この光景を端から見ていた生徒からすればよく分からないだろう。

いつもやる気に満ち溢れている二人だったが、今日はいつもよりも更にヒートアップしている。


剣術の授業では現在自由にペアを組んで各々頑張って取り組んではいるが流石にあそこまでではなく。

もはや若干引き気味な位の目で見ていた。


「いいか、アイクの良くない所は攻めと守りのバランスだ。

攻めるときはとことん攻めるくせに一度守りに入ったらそこから攻勢に出るまでが遅い。

スピードを活かすなら常に攻め続ける位の意識で打っていくんだ」


{そうは言っても……その攻めに転じるタイミングを全部潰してるのは貴方じゃないですか……}


とクラスメイト達からは呆れ気味に思われていたが、言われている本人はしっかりと受け止め逆に燃えていた。


「常に攻める、、、攻め続ける!」


そう言いながら踏み込んでいくが、初撃を防がれた後カウンターでまたしても撃沈。


(今の段階じゃ足を止めての打ち合いで勝てる程の剣捌きは出来ない。

そっちも同時並行で鍛えていくけど、まずは得意の形で勝ちを掴めるようにするのが先かな)


「一歩目は許してやってるんだ、単調に攻め続けても流れ変わんねぇぞー!」


ちょくちょくアドバイスを出したりしながらひたすらボコボコにする。

勿論本人の為とは言えその容赦の無さは中々のものだ。


倍以上キツイ、という言葉は嘘でなく。

実際昨日弟子入りの話をした直後も今と同じ位叩きのめされていた。




ミナトは共に修業をした人物が二人しかいない。


一人は親友であり、同時に剣を握り始め高め合い続けたアレウス。

もう一人が師匠で、こっちには一方的にやられ続けた。


全力でやらないと負ける相手と、何をしても負ける相手。

この二人と戦い続けたミナトの感覚は世間一般と比べると狂っている部類だ。


アイクの兄弟子に当たるミスラも同様にボコボコにされながら成長していった。

だからこそ強くなる為の手段としてこれが一番良いのだと思っている。

まぁ受けている本人は燃えているので良いだろう……。




「……」


その二人の異様な様子を見ていたのは彼女も同じで。

いつもよりは若干不機嫌そうじゃない顔でじーっとあちらを見つめる。


「おい、、やんねぇーのか?」


見つめている彼女とペアを組んでいるトロールは困り顔だが、しょうがないとも同時に思っていた。


「まぁ確かにあいつらに目が行く気持ちは分かるけど……意外だな。ミナトの事はかなり嫌ってるもんだと思ってたが」


「あ?」


このクラスの中で数少ないルチアに物怖じせず話しかけられる彼だが。

そんな相手への対応も他とは変わらない。


一言と表情だけでその認識で合ってるぞ何言ってんだてめぇ、という本音がひしひしと伝わってくる。


「んな事はよくて、そっちがやんねぇとこっちが困るんだよ」


そりゃ相手がいなと成立しない授業だからトロールの意見は至極真っ当なものだが、彼女は何かを未だ気にしている様子。


はぁ、とため息をついて最後の忠告を言おうとしたところでルチアの方が口を開いた。


「あいつさ……剣がなんか凄いんだろ。お前はどう思うんだよ」


「はぁ?なんだよいきなり」


突然の質問の意図はよく分からないが、彼も律儀な男なので真剣に考え答えを出す。


「……そりゃ俺も凄いと思う、剣技だけならあの先生よりも上だとすら思ってるぜ。

相当な鍛錬を積んだのが一発で分かる。あれ程の奴は中々居ない、正直化け物と言いたい位だ」


素直に思った事を言い褒めてはいるが同時に悔しそうな顔もしながら言う。

実力を認めているけど自身との差にどうしても悔しさが溢れ出てしまうのだろう。


「ふーん……」


対する彼女はいきなり聞き、更にはここまでちゃんと返してくれたのにこの返事だ。

これにはトロールが多少キレても無理はない。

「なんなんだよ」と若干のイラつきを感じさせる一言を言っていた。


{あの術式への理解度の時点でかなりだったけど……剣の方も同じ位って事か。

相当な鍛錬ね。大層なこって}


その後何かを考え付いたらしいが、結局どうでもいいと思ったのか直ぐにその思考を放棄。


ようやく視線をトロールの方に移して、遂にやる気になったか?と思った彼の予想を裏切り今度は目の前にいる人物に直接質問する。


「つーかあんたなんでそんな物持ってんだよ、似合わなすぎでしょ」


かなり大柄な彼が握っていたのは小さなナイフ。


「う、、いーだろ別に!ほらやるぞ」


痛いところを突かれたような表情をしてから色々誤魔化そうとしていたが隠しきれる訳がない。


元々彼が持っていたのは通常よりもサイズのあるタイプの剣。

体格の良さを活かすには良い武器選択のはずだが何故か今はナイフ。


同じナイフを扱う者同士という事で今ルチアと組んでいるのだが、情報だけで言えば強盗をしている場面にも見える。


ルチアも身長が低い訳では無いが学年で一番の長身を誇る彼と並べば随分と小さく見え、普段持っているのが杖だという事もありなんだか面白い光景だ。


「……」

___________________________________________


昼休み


「あー疲れた……」


「随分お疲れのようですねアイクさん」


机に突っ伏して疲れを露わにしているところにアンテレがやって来る。


「うーん、、、」


「ミナトさんに結構、、その、、、やられてましたもんね」


「そうなんだよ、昨日の放課後もめっちゃキツかったから……」


弱音を吐いているところにミナトが口を挟む。


「こうでもしねぇと、クロムも強くなっていってるんだ。一生追い付けなくなるぞ」


分かってるよー、と力の抜けた声で答えているが本当に疲れている様で。


「お二人は放課後一緒に特訓されてるんですよね、具体的にはどんな事を?」


そこまで言う特訓の内容が気になったので聞いてみれば……。


「ひたすら打ち込み稽古だ。

やる時はとにかくやらないと、克服すべきポイントが多過ぎるからな」


打ち込み稽古と聞けば内容が今日見た光景と同じものだと直ぐに分かり。アンテレも流石に「うわぁ……」と呟く。


「そんな疲れたなら今日は体あんまり動かさないやつにするか?」


「お願いします!」


提案に即答。

少しは楽な放課後になるかも、と思った瞬間恐ろしい事を言われる。


「しょうがねぇ、俺はあれが一番キツかったからな。ボコされてでも体動かしてた方がマシだったし。

でも体が動かねぇならしょうがない、予定よりちょっと早いけどやるか」


「!?」


(あん時は地獄だった……本当にストレスヤバかったしな)


ミナトが当時ブチギレそうになったという修業が例のあれ、であるが。

その言い草から更なる恐怖を感じるアイク。


「そ、そんなキツイやつなの?」


「人それぞれだろうが……あれがキツくない奴は人間じゃねぇと俺は思う」


「ーーー!」


またしても声にならない悲鳴を出したが、覚悟を決める他なく。

隣で見ていたアンテレはもう苦笑いを浮かべるしかなかった。

今回なんか考えてそうだったトロール君だけど、メインとなる見せ場はもうちょっと先になるよ!

彼の心境とかも考えつつ発言や行動を見てれば後に結構考え深い気持ちになれるかも……?

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