第七十四話 転換点
「出張?」
「ああ、数日だけだが出る事になった」
今は定例となった監視役としての報告の時間。
「確か来週には第一の生徒また来るんじゃ…?」
「そうなんだよ、、色々急に決まってな。
まぁ直ぐ戻ってくるが、一応頼んだぞ」
「頼んだぞ。って……俺も生徒なんですけど」
どうやら少しの間学校を空けるらしい彼女はその間の事について今から話すようだが。
代理として誰が担任の仕事をするー、だとか。
いつも以上に周りに気を使ってやってほしい、だとか。
色々と言っていたがどれも大した内容ではなく、当然生徒なので授業を担当する訳でもないし。
気を使うなどと言ってもそれもいつもやっている事。
要は居なくなるけど大して変わる事は無い、いつも通りしてくれ。
という事を言いたかったらしい。
(先生が居なくなった時俺達目線で一番変わるのは剣術授業の時か、、、まぁ俺に対して授業中なんか言ってくることは殆どないから特になんもないけどそれ以外の連中はそうでもないよな。
代わりの人に期待して俺はいつも通りやらせてもらうけど)
基本的に授業ごとに教師が変わる為日常生活にあまり大きな変化は無い。
しかも数日だけなら尚更。
ミナトからすれば精々なにか面倒な事を頼まれる事がない、って事位だ。
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数日後
ミケーレが出張に向かってからの最初の剣術授業は、二組との合同となった。
留学生が来ているという事もあり今回は特別に普段は上級生を担当している教師がやって来たが。
正直ミナトにとってはあまり興味が無い事だ。
(あの人だったらまだ俺になんか言ってくれるかもしれないけど、それ以外の人は俺になんも言ってこないしな)
これまでも数回だけ彼女以外が担当する事はあったが、誰も指摘するような人物は居らず。
魔法実技の時のルチアの様な状態なのだ。
「今日改めてみて分かったけど、クロム君めっちゃ意識してたね」
「だろ?上手くいってねーんだろうな、まぁ前よりも上達してるのも確かだけど」
「そう!技術まで身に付けられたら隙無くなっちゃうよ~」
授業中の出来事を思い出す二人。
現在はこちらも恒例となっている放課後特訓の時間。
休憩時間中の軽い雑談。
「流派とかには入ってないのかな?そんな雰囲気はしてなかったけど」
「多分入ってないと思う、剣術自体の基礎はどの流派も変わらないからな。
基本を兎に角固めていってる感じっぽい」
色々良い所をつまんでいってる我流かな、と予想を述べる。
(でも流派には入ってない、ってのが分かったって事は実は流派とか探してみたのか?色々と試そうとする心意気は流石だな)
会話の中の小さな発言から彼の見えない努力が伝わってくることに関心を覚えていると、そう言えば……とアイクが何かを話し始めた。
「ミナトってさ、なんか流派とか入ってるの?」
「!……なんでそう思ったんだ」
まさか聞かれるとは思わなかったのだろう、少し驚いている。
「よく見てると型……?みたいなのが一応ある気がして。なんとなくが多いけど」
(中々鋭いな、これも成長か)
別に秘密にする必要もない、と考え素直に事実を説明する事に。
「森羅自天流、ってとこだよ」
「し、しんらじて…?」
「森羅自天流。ややこしいし意味もよく分かんねぇよな。俺もなんでこんな名前にしたんだって何回も思ったよ」
本人も愚痴を漏らしていたが、アイクは名前以前に存在が疑問だった。
「でも本当に聞いたことが無い名前だったよ、どこで教わったの?」
「ん?山」
「山?」
「山」
どこか遠い国とか、昔偶々出会った旅人とかかと思えば帰ってきた言葉は山。
「山で教わったんだ」
「山って……どこの?」
そう言われてどこだったかと思い返してみるが……。
「…やべぇ分からん」
「噓でしょ!?結構思いで深い場所だと思うんだけど」
「大事なのはそこじゃねぇんだよ、大事なのは心だから!」
最早思い出す事も出来ないが、そこで過ごした日々は辛うじて思い出す事が出来る。
(近くにヤマト族の集落あったよなぁ、、、ほんで……どこの国だったかな。
あの辺国境が曖昧だったんだよ当時。だから今の基準が染みついちゃうとマジで分かんねぇ)
一応事情もあるらしいがセーフ……なのか?
「それってさ、どんな流派なの?」
必死に場所を思い出そうとするミナトに、わくわくした様な顔で聞く。
余程気になるのだろう、見た事がない程目を輝かせている。
「あーえっとなぁ……確か……」
こちらも曖昧なのか必死に思い出しながら少しずつ説明を始める。
「森羅万象、そして自分自身を理解し、、、その存在を感じ意識を深める事で人間としての格を上げて……みたいな」
「?」
先程よりも頭が?で埋まる。
何故なら説明してる本人も分かって無さそうな様子で語っているからだ。
「えぇい要はな!」
流れを切る為少し大きな声を出して纏める。
「心、あと体及び頭を鍛える事で人間として成長する、ってのが肝なんだよ」
「ほう?」
まだ良く分かっていないが、なんとなくでさっきよりも説得力がある気がする。
だがまだ聞きたい事は山ほどあり……。
「その森羅自天流?って今どれ位の人が受け継いでるの?」
流派によっては千を越えるものもあるが、全く聞いた事の無い流派は何人ほどが継承しているのか。
「さぁ、知らん」
「!?」
軽い。
あまりにも軽く無知を告白する。
「知らん、って……」
「元々各地で良い感じに教わりたい奴とかが居れば各々で教えていく、ってのが伝統らしいし。
俺も師匠以外で同じ流派の人に会ったの一回しかない」
なんだか随分適当だなぁ、とアイクは思ったが。
それ以上に一つの言葉に興味を持った。
「師匠か……ミナトの師匠ってどんな人なんだろう」
{これだけ強いミナトの師匠……もしかして仙人みたいな人だったりするのかな}
と妄想を広げるが、苦い顔をしながら返答が来る。
「厳しい人だったよ、我慢できなくて当時何回ブチギレたか」
{ミナトってそんなにキレたりするんだ……}
中々想像できない場面ではあるが、別に憎んだりしている様子ではなく。
「厳しかったけど……悪い人じゃなかったよ。
人には鬼みたいに厳しかったけど自分にもめっちゃ厳しい人だったし」
(懐かしいなぁ……墓参り行けるよう今度本気で探してみるか)
そう考えていると、暫く考え込んでいたアイクがとある事を頼み込む。
「ミナト」
「……なんだ」
声色とその表情で、軽い話じゃないと察し。
こちらも相応の心持で話を聞く。
「今でも充分ミナトには手を貸してもらってる。でもまだ足りない……追いつくためにはもっと強くならなきゃいけない」
{このままじゃ届かない、だからどんな手段を使っても。
恥やプライドなんて元から無いんだ、なんだって言ってやる!}
前々から考えていた事を、ここで口にする。
「僕を、正式に弟子にしてください」
「!」
飛んできた答えには流石に驚いたが、妙に納得する部分もあった。
(さっき流派について聞いて来たのももしかしてこれに関係してんのか?
にしても弟子か……)
提案自体に驚きはしたが、嫌な気など全くしていない。
寧ろアイクなら自身の技や受け継いできた森羅自天流を教える相手に最も相応しいとすら思う。
そんなミナトが即答出来ないのは、いつまでもここに居続ける訳ではないから。
本当に解呪に成功するかどうか関係なく、いつかは皆の前を去る。
(アイクの性格上、一度俺に師事を受けたなら他の人からは教わらない。とか言っても不思議じゃないからな)
こういう時、どうしても同級生ではなく。
現代を生きる少年として見てしまう。
本来ここに居るべきではない自分が、万が一にも彼らに悪影響を与えぬよう。
ミナトは細心の注意を払ってきた。
だからこそこの選択は難しいものだった。
本心で言うならこの提案を受け、未完の大器である彼を導いていきたい。
だが、これ以上踏み込んでしまえば戻れなくなるとも分かっていた。
「……」
(弟子にまでしなくても、今の状態でもアイクは強くなれる。
教師にはあの人も居るしライバルならクロムが居る。最高の環境だ。
俺がいなくても確実に成長していける)
揺れるミナト。
その答えは……。
師匠と居た場所に着いて。
当時師匠が住んでいた地域は魔王軍の侵攻も激しく、山が連なって居た場所の更に奥の方に居たため。
人類の活動域がどんどん狭まっていた事もあり、最早その場所がどこの国で誰が管理しているかなんて分かりませんでした。
ミナトが師匠と出会ったのは仲間と旅をしていた最中でしたが、それも迷い込んで困り果てていた時に偶然出会っただけです。
なので行き道も帰り道も良く分からないまま当時行き来していたりしました。
元から分からない場所に居たので、分からないままでもしょうがないよね!




