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忘却の勇者  作者: くろむ
特異点の謎編
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第七十三話 特異点という存在

「……」


授業中、休み時間関係なく。

ミナトはずっと視界の端に彼を捉え続けていた。


(もしかしたらこいつが鍵の可能性?万が一にもあるなら徹底的に潰しておきたい)


僅かでも可能性があるなら実証する。

実証する方法は無いし、そもそも鍵がなんなのかすら分かっていないが。

解呪において重要な役割を担っているかもしれないのなら調査をするまで。




「?ミナトー、次の魔法実技だから外出るよ」


見る事を意識しすぎて移動すら忘れていたところで声を掛けられる。


「ん、ああ直ぐ行く」


気にしすぎて怪しまれたりしなければいいが……。





「今日は一組と二組の合同授業だ、他クラス相手でも意見出し合うんだぞー」


(この風習は俺にとっては好都合な事が多い。

積極的に交流を持ちかけても怪しまれる事が少ない、まぁ逆に俺が詰められる時は大変なんだが)


今回の授業は担当が違うのでミケーレは居ないが、合同という事もあってか普段の担当だけでなくウォーデンまで来ていた。


ルチアはその事に内心喜びを感じていたがそうなのは彼女だけではなく、そこそこの人数が同じ感情らしい。

厳しい面もあるが、それ以上に親身に寄り添ってくれ的確なアドバイスをくれる。

そんな教師が嫌われる方が難しい位なのだが……悔しく思っている人物も居た。


普段この授業を担当している教員である。


{クソ!分かってるよあの人が本当に凄いって事くらい!

ルチアとか分かりやすくテンション上げやがって……俺がもっと立派な教師だったらなぁ……}


まだ教師歴二年目の若手の彼にこの学年の実技科目を担当させるのは苦であろう。

理由はシンプル、あの二人だ。


威力だけなら既に世界トップクラスの魔法を放てるルチアに、魔法だけでも一流の域に到達しているクロム。


両者とも並の教員よりも凄まじいい魔法を放つ。


実際に今も二人が魔法を撃てば周囲の反応も止まらず……。


「やっぱルチアさん凄いなぁー!」


「でもほらクロムさんも流石だぜ!」


今もやれどっちの魔法が凄いだのなんだのと話しているが、そうなっても仕方ない。

どちらも学生離れした魔法を扱う超優秀な人材なのだから。


「ちっ」


唯一自身に迫りうる魔法を放つクロムに彼女は一種の対抗心を燃やしていた。

燃やされている方が何を考えているかは相変わらず分からなかったが、今回は分かりやすく……。


(やっぱ威力は無理だな。定期的に術式見直したりしてるけどこれが限界だ)


見向きされたりする様な派手さは無いが、毎度撃つ度に彼女の凝視されるミナト。

そこに今回はクロムまでセットで着いてくる。


{あの野郎、、ほんとにどこで覚えたんだ?}


{やはり速いな……今度は早撃ちの対策もしておくか}


見られることに慣れていないからか、視線を感じ取ると端の方に避難。

その避難していく彼を後ろから見つめていたのはあの二人以外にもう一人……。



「オーズ、あれから調子はどんな感じだ?」


「お陰様で順調だよ。新学期になればパーティー組んで戦えるようになるぜ」


制御の術を覚えたとはいえ未だ不安が残るオーズは、授業の際端の方で練習するよう命じられている。

これは本人が希望した事でもあるので良いが、一人だけポツンと佇んでいる姿は少し悲しくも見えた


「そりゃあ楽しみだ。どれ、一発見せてくれよ」


おう、良いぜ!と気持ちよく答え成果を見せてやろうとオーズが意気込んで直ぐの事……。


ミナトがとんでもない魔力を察知する。


ばっ!とそちらを振り返れば丁度バルドルが魔法を放つところを目撃し。

その光景を見た他の生徒同様、驚愕する事になる。


その場に居る全員の目を釘付けにする火球を飛ばし、直後には先程のクロムの時よりもデカい爆発音が聞こえ。

辺りは騒然となり……。


「なに今の魔法、ルチアさんじゃなかったよね?良く見えなかったんだけど」

「あれだよ例の教頭の息子。七光りだけじゃないのはこれで確定だな」

「凄すぎるでしょ、、、聖魔祭で居てくれたら絶対活躍できたのに……」


等々話が飛び交っていたが、注目されている本人は{あの御三方に合わせましたが風の方を使えば良かったですかね}と火属性にした事を少々悔いていた。


(間違いない、あいつはうちの学年最後の化け物だ。

魔力量や威力面は流石にルチアの方が上だが魔力コントロールは逆だな。

術式もかなり改造してるし、経験さえ積ませれば歴史に残る魔法使いになれる)


一度魔法を見ただけでそう断言出来るほどの逸材。


ミナトだけでなく、ルチアやクロム。偶々来ていたウォーデンも自身の幸運に感謝していた。


{彼に会えたのは収穫だったな……どれ、ここは一つ}


この機会に話しておくか、とバルドルの元に向かっていき話をしていたが。

何を話していたのかは誰も聞こえなかった。



{まだこんな奴が居るのか……面白い。全員上から捻じ伏せてやる!}


新たなライバルの登場に苛立つことは無く、純粋に対抗心を燃やし更に高威力の魔法を撃ち込んでいくルチア。

これが学生の授業とは信じ難い光景だが、三属性混合魔法まで放った彼女だと知れば誰もが信じるだろう。


(おーおー張り切っていらっしゃって)


一層張り切っている彼女を少し見た後は、さっき見そびれたオーズの魔法を見ようと再び視線を戻す。


「悪かったな見せてほしいとか言っときながらよそ見しちまって」


「いやいや、、あれはしょうがないっつーか。俺も見入っちまったよ。

流石の威力だったなありゃあ。でも、いつかは比べられる位のやつを俺も撃ってみせるぜ」


ハッキリ言えば自身よりも格上の同年代を見ても、意気消沈どころか更に闘志を燃やすのは彼の心の強さ故。


最近やたらと何かを頑張っている弟の影響もあって更に鍛錬を積み重ねているらしいが……。


「おっしゃ今度こそ見といてくれよ……!」


___________________________________________


授業も終盤に差し掛かってきた頃。


(あいつ凄ーな、、やっぱ射程長ぇ。大人数で組むときなんかに居たら面白い動き出来そうだし……。

オーズもまた腕を上げてたな、あの感じなら今度実戦で試す機会を作っても良さそうだ)


伸びしろのある生徒達を見ながら思考を膨らませる。


(バルドルも体調さえ良ければ本当にルチアのライバルとしてより成長に期待できるかも……お、丁度あいつの番か)


その思い浮かべていた彼が魔法を撃つ場面を丁度目撃する。


今度も良い魔法を見られるかと周囲の生徒も期待し、視線が集まっていく。


{おや、もしかして期待してもらっているのかな。じゃあそれに応えて……}


魔法を繰り出そうと構え、魔力を込め始めた時だった。


「ぐっ!」


突然口元を抑え咳き込み、立っている事も出来ないのか膝をつく。


抑えた掌から血が滴ってきたところで生徒達も状況を理解し始める。


「治療室の教員を呼んで来い!至急だ!」


即座にマズいと判断し指示を飛ばした教員が傍まで駆け寄る。


「はぁ……はぁ……」


「大丈夫か、なにか持ち歩いている薬などは」


吐血は止んだが未だ息が荒く症状が芳しくなさそうなバルドルに 薬の有無を聞くが。


「いえ……薬は特に……安静にしていれば……っ!」


などと言っているが以前苦しそうな様子は変わらない。





その後は駆け付けた回復魔法使いや、親である教頭なども来て授業どころではなく。

各自教室に戻るようとだけ言われたので彼の安否は分からないままその場を後にする。


(もしかしてこれがこの前言ってた特異点が体に悪影響を及ぼした結果。ってやつなのか)


教室に戻る最中、先日見たトロフィムの記述を思い出す。


(ルチアも本来なら学生にしては異常な魔力量だ。それは偶々適合出来ただけで本来ならああなってしまう可能性も……まぁ元々体が弱かったって線もあるけど)


特異点。

もしバルドルの体質が特異点によってもたらされたとしても、それを確かめる術はない。

それは例え彼の体を解剖したとしても不可能だ。

だから当然、治療法も分からない。


回復魔法も万能ではなく、物理的な損傷には強いが病的なものには効果が薄い。


(惜しいな。もし体質さえ……いや、どっちにしろ特異点が無ければあの魔力量は無理か。

それでも世界指折りの魔法使いになる素質はあったはずだ)


才能や素質と言った要素が大きい魔力量などは兎も角、あれ程優れた魔力コントロールと術式への理解は後天的に身に付けたもの。


(はぁ……どの時代でもああいう奴はいるもんだな)


昔を思い出しながら、また一歩進んで行く。

己の足で。一歩一歩。


___________________________________________


「発作は治まりましたが、暫くは安静にするようにしてください」


そう注意事を言われ、窓の外を眺めるバルドル。

横になりながら、直ぐそこの校舎を見つめて。


{私の責任だ。

席など置いておいたから、行かなければというプレッシャーを掛けていたのかもしれん。

学校に行ける状態にしていたから、期待をさせてしまって無理をさせたのかもしれん。

行くにしても専属の者を傍に付き添わせたり。一日とは言わず授業一回だけでもいい、少しずつ通わせたりなど他に方法はあったはずだ}


寂しそうな顔をする彼に責任感を覚え、謝罪の言葉を口にしようとした時だった。


「父さん」


先に言葉を発せられて、こちらが謝らねばとまた言おうとしたところに彼は続ける。


「今日、初めてあそこに行けてとても楽しかったです。

ずっと話に聞くだけだった彼らと短い時間でも過ごせて本当に」


途中まではまだ明るい顔をしていたのに、徐々にその顔は曇っていく。


「でも……結局僕が今居る場所はいつものベッドで、授業を最後まで受けきる事さえ出来なかった」


声が震え始め、その声を聞いた父の目には既に涙が浮かび始めていた。

上半身を起こして目を合わせながら、言葉の続きを伝える。


「僕は今、、悔しいです……これまで感じた事がない程。

もっと……もっとあそこで皆と授業を受けて、長い時間を共に過ごしたかった」


彼も大粒の涙を流していて、子供の頃から病弱で本音を中々言わなかったバルドルが今ありのままの本音を伝えてくれている事に父は更に涙した。


「実はな……今度最新の医療技術を持った人物が呼ばれるパーティに行く事になったんだ。

その時父さんが、、絶対その人を連れ帰って来るから……そして治してもらって……絶対行こう。あそこへ」


親子は抱擁を交わしながら、共に感謝と謝罪を口にして。

絶対にあの場所へ再び行く事を約束した。


このベッドの上で。

この章もあと数話の予定です。

正直聖魔祭以降の章は割と曖昧なものなので結構長くなりがちですが。

でも、章分けしたところで別に内容は変わらないのでそこまで気にしないでくれると嬉しいです。

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