第七十一話 目指すものが高ければ高いほど
「これは推測なんだが、、でも殆ど当たってると思う」
ミナトがそう前置きを置いてから説明を始める。
「さっきアイクが言った攻めに転じれるタイミング、ってのは確かにあった。もし俺がクロムならそこで勝負を終わらせてただろうさ。
勝負に勝つためにはそうするのが一番だ、じゃあ何故そうしなかったのか。…分かるか?」
そこまで言われれば、とアイクが答えの続きを言う。
「クロム君が今優先してるのは勝敗以外の事……で合ってる?」
「正解。あいつにとってここで勝つのは最早決まってる事で、多分負けるなんて万に一つも思ってない」
勝つのを前提として動いている、なんて本来傲慢もいいところ。足元を掬われるとでも考えるだろう。
だがこの場でそんな事を考える人間は居ない。
これまで散々彼の桁違いの実力を見せつけられてきたから。
今気にしているのは勝敗以外で重要視しているという何かだ。
「今回の試合はかなり長引いているな。
確かにあのエティノスって奴も出来る方だが、この前戦ってトロフィムとは流石に比べられない。
しかしあいつは今戦っている相手より格上の人物には一瞬で決着を付けた」
確かに今もまだ長々と打ち合っている二人に対して、あの時は一撃で相手を沈めている。
それに特に禁止されている訳でもないのに魔法も撃たない。撃つそぶりすらない。
「つまり、、勝ち方にこだわりたいって事ですか?」
「僕もそれだと思うかな。
あ、でも結局そのこだわってるものが何なのか分かってないや」
やはりまだ遠い答えに頭を悩ませる。
(やっぱ真面目だなぁ……でもそろそろ試合も終わりそうだし、答え言うか)
ようやく答えを言う気になり、今度はちゃんと一発で分かるように説明する気らしい。
その証拠として……。
「あいつは、、、ああ見えて割と脳筋なんだよ」
冷静沈着、頭脳明晰、寡黙であの風貌。
そんな彼に最も似合わない言葉があるのならきっとそれは脳筋だ。
現にそれを聞いた二人もまさかー、という反応をしている。
「聖魔祭でも基本的に大技で相手を瞬殺してきた、そしてこの間も同じだった。
が、それだけじゃ駄目だとでも思ったんだろ」
(だからあの時、誰の目から見ても完勝だったはずなのにお前は悔しそうにしてたんだろ?)
力だけでは乗り越えられない壁もある。
今のままでは至れない領域があるとクロムはあの時感じた。
尊敬している父や、人生で負けた初めての同年代の男。
特にミナトはクロムと正反対。
もし数百年の鍛錬によって身に付けたその技術の極みと言える剣技で戦うミナトを技とするなら。
弱冠十五歳にして既に身に付けている圧倒的な力で敵を圧倒して戦うクロムは力だと言えるだろう。
その正反対の人物を見た時、クロムは驚愕にも近い感情を感じていた。
自らも血反吐を吐くような鍛錬を積み重ね今の実力を手に入れ、それを欠かす事は無い。
他の誰よりも努力をしていると思っていた。
しかし彼の剣はどうだろう。
見るだけでなく、実際に剣を交える事で更に分かる重み。
今や一人の武人として、クロムは一種の尊敬の念を抱いている。
そして同時にその相手を超えたいと強く思った。
勿論ミナトはこんな事なんて知らない。
クロムが一々どんな事を思ったかもさほど興味がない。
ただ分かるのだ。
どれだけ相手が負けず嫌いなのかを。
(俺とお前は結構似てる。
性格とか諸々あんまり似てないけど、一番大事にしているものが一緒だ)
負けたくない。
天性の負けず嫌い。
この感情が誰よりも強い二人だから今の関係になった。
「……だから、一番の長所である力で敵わない敵が出てきた時に勝てるよう、それ以外を磨く事に今は集中してるんだと思う」
アンテレは素直に「そうだったんですねー」と聞いていたが、アイクは気付いていた。
今のミナトが、とても楽しそうしながら語っている事を。
外野でそんな事をしているうちに、遂にエティノスの隙を見つけたクロムが勝負を決めていた。
「……ずっと俺の動きを見てた訳ね」
首元に突き付けられた剣によって負けを突き付けられ、そう漏らす。
「完敗です、生意気なこと言ってすいませんでした」
試合が終われば素直に謝り、頭まで下げている。
根は良い奴だということはやはり本当の事の様だ。
「……お前も良い剣を振るっていた、来年あの場で戦う事を期待しておこう」
剣を納めたクロムも素直に相手の事を褒めていて、二人の戦いを見に来ていた生徒達も拍手を惜しまなかった。
(この間は流石に事態が事態だったから試すなんて出来なかったけど、それも悔しかったんだよな。
もっと自分が鍛錬してればあの場でも技術で倒せたんじゃないかって思って。
その感じだと授業とかでも上手くいかなかったんだろ?大方中々上手くいかなかった自分に腹が立ってたからそれを落ち着かせるために深呼吸をした。
…ってのが俺の考察かな。でもそんなことはどうでもいい、、あいつがもっと強くなるならそれだけで)
心情を事細かに想像してからどうでもいいと結論付ける辺り、最後の一言だけが重要なのだろう。
どこかで強者との戦いをずっと心待ちにしているミナトらしい考えと言えるが、それが伝わったのかはたまた向こうも同じ考えだったのか。
勝負を終えたクロムはこちらを見ていた。
何を話すでも近付くでもなく、ただ見ていた。
「……」
(分かってるよ、いつかリベンジするんだろ?やってみな、今度はもっと誰が見ても明らかな勝利で返り討ちしてやるよ)
バチバチの二人に気付いていたのはこの場でアイクだけだったが、その彼も闘志を燃やしていた。
{今はまだ追い付けない。でもこれから、、いつか絶対二人と競える位に!}
その後はアンテレからエティノスへ再びの説教が始まったり、説教を抜け出してクロムに質問をしに行ったりで。
ぐちゃぐちゃだったが、形はどうあれこれが交換留学をする意味だったので良しという流れに。
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一方その頃
「無茶はしない方が、、、また体が良くなってからじゃ……」
ベッドの隣でそう心配する父親に、彼は小さな笑みを浮かべながら言った。
「大丈夫ですよ父さん。
無茶してる訳じゃないですし、せっかく席を置いてもらえてるなら僕も行きたいです。学校」
一年一組幻の二十三人目の生徒が、登校しようとしていた。




