第七十話 違和感……に気付いて
留学生であろう人物がクロムに決闘を申し込んだことで、辺りは騒然としていた。
誰も何も言える空気ではなかったがこの空気に最初に割って入ったのは一組に来た留学生。
アンテレだった。
「エティ君何言ってるの!?」
「あ、聞いてた?クロム君戦ってくれるって!いやー言ってみるもんだよな!」
教室の中に入っていきエティと呼んでいる人物に起こっている様子。
「すいませんクロムさん!失礼な事を……ほら謝って」
即座に謝罪を入れそれを隣に居る彼にも促すが……。
「でも聖魔祭で見た時よりも凄くねーな、って今日見て思ったんだもん」
「な……!ほんとにねぇ」
この間ずっと黙っていたクロムがようやく口を開いたのは、このタイミングだった。
「構わん。勝負には受けて立つ、その後で同じ事が言えるかは知らんがな」
完全に嚙み砕く気満々の様子だが、もうアンテレはあわあわが止まらなず。
端から見ていたアイクとミナトも中々に面白い展開に興奮していた。
「あの人も多分結構強いとは思うけど……流石にクロム君が負けるところはイメージ付きづらいかなぁ。
ミナトもそうでしょ?」
「ん、まぁな。この前あいつが戦ってるとこ見たけど弱くなってるどころか余計力付けてたし。ただ……」
二人の意見ではクロム優勢。
当然だ、聖魔祭では個人二位。この間のトロフィムとの戦いでもミナトが苦戦していた相手を一撃で倒している。
それに相手は見た事のない生徒。
つまりは個人戦にも出ていなかった生徒だ。
流石にそんな彼が勝つとは思っていなかった。
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「はぁ……どうしたいいんだろ……」
食堂にて、アンテレを加えて三人で昼食を取っていたがその彼はさっきの件を相当気にしているらしい。
「大丈夫だよ!クロム君何考えてるか分かり辛いけど、普段あんまり怒ったりしないって二組の人達も言ってたしさ!」
アイクが必死に気を使っているが、不安が止まらないらしい。
「実は自分、あいつのストッパー役でもあるんです。
先生とかベル君にも頼んだぞって言われたのに初日からこんな事になるなんてぇ……」
「エティ、って言ってたっけ。
そんな問題児なんだったらなんでこっちに寄越してきたんだ?大体人当たりが良い感じの奴が選ばれるんじゃないのか?」
それこそ君みたいなさ、とミナトが言うが。
ちゃんと選ばれたのには理由がある様で。
「あはは、ありがとうございます。
エティも悪い奴じゃないんですよ?ただ、、、思った事を包み隠さず言っちゃうタイプで…。
好奇心が強くて覚えも良いし、根が良い人だから普段は面白いし良い奴なんですけどね」
彼、エティこと本名エティノスは非常に純粋な少年だった。
だが純粋すぎるが故に相手にとってあまり言われて心地いい言葉じゃないものでも、それが必要なら口にしてしまう。
今回留学生として選ばれた理由はその好奇心が強い性格と成長性、後は単純に彼自身の能力が高いから。
「本当だったら聖魔祭も出るはずだったんですけど……直前に怪我しちゃって。それで出れなくなっちゃったんです」
話を聞けば、アンテレが本当に彼の事を悪く思っていない事が伝わって来た。
なんでも聞ける行動力は逆にトラブルの原因にもなる。
それがさっきのらしい。
「そのエティノス君って、実際どれ位強いの?」
こちらも好奇心で聞いてみる。
「身内贔屓無しにしても強いと思います。
個人戦に出ていたら良いとこまで行けたとも思いますが……」
「クロム君に勝てるかと言ったら、って感じか」
「はい……」
実力を知っている彼ですら結果は同じ予想。
決闘は放課後らしいが果たして……。
「……」
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放課後
エティノスとクロムの決闘を見届けるべく多くの人が集まっていた。
中には一年生だけではなく上級生も見に来ており、注目度の高さが伺える。
「ルールはさっき言ったとおりだ、もう一度言うが寸止めで勝利となる。くれぐれも気を付けてくれ」
決闘の審判として生徒会の役員が説明する。
(まぁ今回は真剣使ったやつだし、先生も今は居ない訳だからこれだけ注意しても不思議じゃないな)
開始の合図がなる直前、それに気付いた生徒は少なかったが。
少なくとも気付いた生徒は全員が目を疑った。
「!」
試合前にクロムが深呼吸をしていたのだ。
別にその行為自体はおかしくはない、ただ問題はそれをした人物。
聖魔祭でも全くの緊張や動揺なく戦い抜いた彼がする深呼吸というのは、周囲の人間にとってそれだけで大きな衝撃でしかない。
それはミナトからしても同様だった。
「始め!」
審判の男が合図を出した途端、先に攻撃を仕掛けたのはエティノスの方。
{さっきはああ言ったけど、俺はあんたに強くいてほしいんだ!頼むぜ}
まずは様子見、などではなく初撃から全力で打っていく。
それに対しクロムは受けの姿勢。
的確に攻撃を防いでいく。
「……」
ただ試合の行く末を見守るミナトだったが、そこに声を掛けたのはアイク。
「そういえばミナトさ、昼休みの時なんか言いかけてなかった?ただ、とか」
本当に細かいところまで覚えてんな、と思いながらその質問に答える。
「…実はな。
あいつがトロフィムの野郎倒した時に、、、なんか悔しがっててさ」
「悔しがる?」
悔しがる理由が分からないアイクは疑問に思ったが、当時の状況と今の状況を見てミナトはその理由を分かっていた。
「なんか小さい声で呟いてたからその内容は分かんなかったけど、顔がちょっといつもより違う気がしてさ」
「?」
アンテレを含めまだ分からない様子でいる二人に、試合をよく見るよう促しながら説明を始める。
「いいか、クロムの動きに注目するんだ。聖魔祭の時と比べながら見てみてくれ」
そう言われて試合を見てみるが、状況は初動と同様。
エティノスが攻めクロムがそれを受ける形。
怒涛の攻めに対しよく防いでいる、、、がその程度なら聖魔祭でも似たような場面はあった。
一体何が違うんだと二人は注意深く動きを観察しながら試合を見る。
二人が注意深く試合を見始めて数分経ってからアイクが先ず先に気付く。
「なんか、、遅くない?」
ミナトはその発言にお、と良く気付いた的な顔をしていたがアンテレは未だ分かっていない様子。
「もっと一気に攻勢に転じれるタイミングもあったはずなのにずっと受けの姿勢だ。
クロム君の力なら強引にでも相手の流れを崩せるのに。ほら今だって」
とリアルタイムで違和感について述べる。
「確かにずっと防御に徹していますが、、それがその時悔しがる原因に繋がるんですか?」
「繋がってるぞ、それに単語はもう出てたな」
「「?」」
答えに近付いているらしいが分からない。
そもそももうちょっとヒントを出しても良いんじゃないかと思う。
再び試合を中止する二人を見てミナトは少し満悦そうな表情を浮かべる。
(いいぞ、もっと見ろ。もっと見てもっと学ぶんだ)
一方戦っていたエティノスも疑問に思っていた。
{なんだ、何をやってるんだ。もしかして遊んでいるのか?いやそんな事をする人には……ええい黙っていても仕方ない!}
「クロム君もしかして俺で遊んでます?だとしたら心外なんですけど…」
少し息を切らしながらそう言うと、クロムは試合開始時と全く変わっていない顔色で言う。
「断じてそんな事は無い」
「じゃあなんでずっと攻撃してこないんすか?手加減してたりして」
「誓って全力だと言っておく。それに安心しろ、望み通り今から攻撃してやる」
そう言って攻撃の構えをとると、一気に間合いまで入る。
入ったは良いがそこから暫くまた打ち合いが続く。
「……ねぇミナト、ヒントとかくれたりしない?」
「お?まぁいい、この際全部説明する。それを意識してから見ると面白いもんだしな」
ここでようやく答えを教えてくれるそうだがその答えとは……。
「まず言うのはこの試合で何故あいつが攻めに行かなかったかだが。
答えは単純だ、力を封じる為だろう」
「「???」」
全く予想もしていなかった答えに二人は最早頭が追い付かなかった。
剣の打ち合いをしているのに力を封じるとはどういう事か。
ミナトは語り始めた。




