第六十四話 決着がついたら、また別の戦いが始まる
{あぁ……二人は覚悟してただろうけど、、、やっぱ申し訳ないな}
期限を設けてから四日目。
練習を終え、自宅に帰える途中までにも考えるのは今日の出来事。
実際に人を配置する事で、意識をより強く持たせる事を目的として始めた新練習。
始めこそよかったが……正直以降はかなりの地獄だった。
一皮剥けたオーズでも、流石にいきなり百発百中はやはり不可能で。
撃った中で半分くらいは二人のどちらかに当たっていた。
保健室に行って治療はちゃんとして貰ったがかなりきつめの説教を喰らう。
{やっぱり代案を考えた方が良いかな、、俺の私物でも置くか?}
現在の音波魔法の破壊力は、ガラスや壺などと言った比較的脆い部類の物なら壊れる程度。
ミナトの刀は魔力によるガード抜きならかなり脆い。
一発で折れる、なんて事にはならないだろうが確実にダメージが蓄積していくだろう。
しかし幾ら言っても金属でできた武器なので、そこらの私物よりは硬い。
だから他の適当な物を障害物としてもよいか……とも考える。
「どうすっかな~」
ようやく一息付ける、と自室の椅子に座っても悩みは消えない。
{明日二人に相談してみるか?でもそれ実際どうなんだろ、けどこのまま二人に無理させるのはなぁ……。
取り敢えず今日中に一個でも案考えとくか}
そうこう考えていると、コンコンとノックの音が聞こえてくる。
「お食事の用意が出来ました」
使用人の一人が知らせに来ると少し驚く。
もうそんな時間?と時計を見れば確かにいつもの夕食の時間だった。
「直ぐ行くよー」
{最近は学校に結構残ってるし、それで感覚ずれてたか}
二人にもこんだけ時間使って貰ってるんだし、成果出さなきゃな。
と改めて思いながら部屋を出て夕食を食べに行く。
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カチャカチャと食事の音だけが聞こえる。
この家ではあまり食事中に話す事は無い。
父親は仕事で居ない時もあるが今日は着ており、家族三人が揃っての食事だった。
「ご馳走様でした」
食べ終わり、あまり居心地の良いとは言えないこの場から早く去ろうと席を立つオーズに父が話しかける。
「あと三日だぞ、分かってるんだろうな」
「……分かってますよ」
嫌気がさしている様子で答えると、向こうもそれに腹が立ったのか更に問いかけてきた。
「ふん。たかだか一週間程度で何が出来るんだか……最近随分と学校に残ってるそうだが、意味があるかどうか」
自分に対する発言だったらまだしも、今回の件にはアイクとミナトも関わっている。
勿論父はそんな事など知らないがオーズにとっては二人の事を悪く言われるのが我慢ならず……。
「今は俺だけじゃなくて……」
そう言いかけた時だった。
突然部屋の窓ガラスが割れ、数人がそこから入って来た。
{強盗!?警備は……いやそれよりマズい!}
「メディッチ家のボンボンさんよぉ、、沢山金貰ってくぜ~」
ナイフを持ちそう脅してく相手。
「まずは代表さんを人質に取ろうかぁ!」
「ひぃ!?」
襲い掛かってくる相手に、腰が抜けて動けない父親。
近くに居る使用人は警備兵ではないので今彼を守る者は居ない。
家の外にだけ警備を置いた弊害が出てしまっていた。
{どうする撃つか!?今なら強盗は一ヶ所に集まってるし向こうには使用人も居ない!でも父さんにどんどん近付いて行ってる、このままじゃもう撃てなくなる!でもこの位置だと練習の時よりも角度は狭い!今の俺じゃ……!}
一瞬の間に高速で頭が動く。
窮地に立った時、助かる為に脳が通常では有り得ない程の情報を処理する。
オーズはまさに今そうであった。
練習よりも厳しい条件で、実践と予期せぬ奇襲と言うトラブル。
この情況で魔法を撃つか撃たないか。
これまでの出来事を走馬灯の様に思い出した時、オーズは覚悟を決めた。
深く気を吸いながら限りなく引き伸ばされた時間の中で考える。
{二人は怪我を承知で練習に協力してくれた。ミナトは実戦でも使えるように危険な練習にしてくれたんだ、今みたいな時の為に。
そして、、、先輩は言っていた!}
強盗のナイフが父に届く寸前、彼の叫び声が轟く!
「うおおおおおおおおお!!」
目視できる強盗全員を巻き込んだ音波魔法は、確実に全員にダメージを与えていた。
「なんだ……これ……」
次々と男たちが倒れていく。
一人、一人と数が減っていく内にいつしか立っているものは居らず。
部屋には目の前を通った音波に驚き腰を抜かしてしりもちを着いている父親と、オーズの後姿をじいっと見つめる弟。
今の光景を見て驚きを隠せない使用人達。それと魔法に巻き込まれ割れた食器と、完全に粉々になった窓ガラス。
さっきまでと打って変わって静かになったこの時に、オーズは父に語り掛ける。
「父さん、これが俺が身に付けた力です。
俺一人では身に付けられなかった、あそこだから身に付ける事が出来た力です」
ゆっくりと傍に向かいながら、話していく。
「前に家業を継がないと言った事は身勝手だったと思っています。魔法学園を卒業したらちゃんと継ぐための勉強をします。
だからどうかこの三年間だけ、あそこに行く事を許してください」
目の前で膝をつき、目線を同じにしながら。
「魔法は不思議なもので、危険で簡単に何かを傷付けてしまうものです。でも同時に、とても魅力的だ。
あの学園は望む知識を与えてくれて、それが俺にはとても心地いい。
だからお願いします、どうか」
頭を下げ、自身の言いたい事は全て言いきった事を表す。
「……」
最初こそ上手く事態を呑み込めていなかった父だが、次第に冷静さを取り戻していく。
「好きにせえ、、、もう無理に継げとも言わん。こんな力があるなら必要な所で振るえ、助けを求めている人の為に使え」
「!」
幾らさっきの出来事があったとは言え、流石にこの意見の変わり様には驚く。
そこに父は更に続けて言う。
「……お前の目がローズと同じに見えた。母さんのな」
その言葉だけで、父の変わり様にも納得していた。
オーズの記憶の中にある母の記憶は少ないが、その数少ない記憶でも覚えているのが母の瞳だった。
優しくて、けれど強い何かを感じさせる目をしていた。
父は母にべた惚れだったが、だからこそ亡くなった時は相当堪えたようで。
そこから父は変わっていった気がしたと、この時思い出した。
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後日。
「随分無茶をしたそうだな」
オーズの退学の話は無しになった事を聞いた日の放課後。
今日はミケーレからの呼び出しがある日でもあった。
「ま、あれ位は別に。それに自分の身を犠牲にしても良いと思えるくらい本人が頑張っていたからですよ」
「……変わったものだね、君も」
「?」
「まぁいい、今回の本題は別だ」
何やら気になる事を言っていたが話題は移り変わる。
ミケーレが机に何枚かの紙を置く。
「これは?」
一応中身を聞いてから見るようにしているらしい、こういう所は律儀だ。
「あー最初に言っておくがこれは一部の人間しか見ていない物だ、だから当然私以外にこれの話はするな」
いつもそんな事よく言ってるじゃねぇか、とも思ったが今回はどうやら割とマジの内容らしく。
顔がかなり真剣なものだった。
「…分かりました、続けてください」
普通の事態ではない事を把握し、本題を聞く。
「これはトロフィムの研究室から回収したものだ。この資料には特異点について書かれている」
「!」
(ほんとに重要なもん見せてくれたな……信頼してくれてるって事なら嬉しいかな)
研究所から回収されたトロフィムの実験データ。
果たして、未だ殆ど実態を知らない特異点についてどれ程迫れるのか。
今回はメディッチの家庭事情について本編で触れなかったところを。
オーズの母親は病でなくなりました。
彼女は魔法尾を得意としており、よく小さな子供たちに綺麗な魔法を見せていました。
それは父も好きでしたが、母が亡くなった時から逆に魔法に対して苦手意識を持つようになります。
その事から魔法学園への入学を頑なに認めなかった父と、母との思い出に加えてかつて弟と憧れた童話の魔法使いの事を忘れられず、入学の意思を強く持ったオーズの関係は次第に悪くなっていってしまいました。




