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忘却の勇者  作者: くろむ
特異点の謎編
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第六十三話 覚悟

「何?一週間だと?」


「はい。一週間で成果を出してみせます。もしそれを見ても納得出来なかったら、言う通りにします」


初日の特訓を終え、帰宅してから父親に宣言する。

機嫌を設けて少しでも時間を稼ぐ事は、事前にアイクとミナトにも相談してある事。


「一週間程度で落ちこぼれのお前が?馬鹿馬鹿しい」


その発言を鼻で笑うが、そんな事にもう動揺したりはしない。


「……話はこれだけです。では」


部屋を出ようとすると、後ろから父の言葉が色々と聞こえてきたが全てを無視して廊下に出る。



すると出て直ぐの所で弟と出会う。


「あっ、、、えっとこれは……」


どうやら話を外から聞いていたらしい。


何となく事情を察したオーズは、笑いながら弟に言葉を掛ける。


「大丈夫、兄ちゃん絶対学校辞めたりなんてしないから」


{約束したからな……}


三つ下の弟でも、兄が少し無理を言っている事位は分かっていた。


しかしその無理を跳ね除けねばいけない段階まで来てしまっている。

時間はもうあと僅かだ。


___________________________________________


三日後。


「うおおおおおおおおお!」


今日も今日とて彼は叫び続ける。


「やっぱり安定しないねぇ、、、ぼちぼち当たりも増えて来てるんだけど……」


(当たりが増えて来てるのは良い、だがやはり百発百中が理想だ。

別に小さな相手を標的にしてる訳じゃないし、それに今は失敗すれば味方も巻き込む可能性がある。

それは実戦では絶対に避けたい事……停滞から抜け出すには新しい刺激もいるか)


確かに成功率が上がってきている。

だが今は時間がない、なら手は早めに打っておくべき。そう考えたミナトはある行動に出る。


「オーズ、一旦ストップだ」


「!どうした、悪い癖でも出てたか?」


「いや、一度練習内容を変えてみようかと思ってな」


そう言い結界の中に入っていく。


まだ外から見ているアイクも一体これから何をするのか分かっていない様子。


中に入っていくとオーズの元に向かう訳でもなく、そのまま通り過ぎて前方の壁まで行きとある物を立て掛ける。


「この壁は素材自体が魔法体制が高い、だから結界が無くとも魔法に耐えられる。当然だ、ここは魔法練習場だからな」


何か説明をしながら一度おいた物をもう一度手に取る。


さっき一度置いてから再び手に取った物は、ミナトの刀。

今度は少し刃を抜きその刀身を見せながら話す。


「こいつはな、腕の良い刀鍛冶と俺が協力して作った今の俺の相棒なんだ。

特徴は通常の刀よりも更に優れた切れ味。だが反面かなり脆い、少し力の入れ方を間違えたらそれだけで破損する可能性すらある」


「?それは、、凄いな。えっと……それで?」


行動の意味が分からないミナトに問う。


しかしその問いには答えず再び刀を壁に立て掛け、自身は壁沿いに歩いて行く。


「これは俺の持論だが……修業とは厳しいものであった方が良いと思うんだ」


暫く歩いていると、オーズの姿を見てからもう少しだけ進んだ所で止まる。


「よし!じゃあさっきと同じ向きで撃ってみろ!」


ここでようやく意味に気付く。


「何言ってるんだ!散々見ててくれたじゃねぇか!そんなとこに居たら当たっちまうぞ!」


現在の位置関係は、オーズを中心にミナトと刀が大体百二十度程の角度の位置に居る。


「大事なのはイメージ、って言ってたよな?要は心だ。

こうすれば範囲を狭める意識はより強くなるはずだ」


「にしたって……危険すぎる!」


「毎日ひたすら叫び続けるお前を見てるだけなんてのは、俺には出来ない。

それに大丈夫だ、魔力を耳に集めてガードすれば重傷にはならない」


「なっ……!?」


オーズの反応は至極真っ当だ。

爆発するかもしれない爆弾の近くにわざわざ居座るようなもの。


それに魔力でガードすれば良い、と言っているがミナトは魔力量が非常に少ない。

同じ剣士であるアイクにも劣る程。


なので実際これは自傷行為と大差ないレベルだ。


(実戦で使うには最低このレベルの制御はして貰わなければならない。

せめて隣に居る味方を巻き込まない程度にはなってもらおうか)


期限までもう半分を切っている。

ここまで来れば多少荒い手だろうが使う必要も出てきてしまう。


「万が一当たっても保健室にでも行けば解決だ、思いっきり撃ってこい!」


未だ覚悟を決めきれないオーズに対して、もう覚悟を決めているミナト。

その様子を見たアイクもたまらずここに参戦し……。


「じゃあ僕もやるよ!ここまで大して役に立ってないしね!」


折角作った刀を危険に晒すのも良くないんじゃない?とも言いながら結界の中に入っていく。


「おいおい……本気で言ってるのか!?そんな事しなくたって……!」


二人の身の安全を考える彼に向かって、アイクは平然と告げる。


「じゃあさ」


壁に立て掛けられた刀を取りながら、笑って。


「もし今度僕が困ったりしたら、その時助けてよ」


はいこれ、とミナトに刀を渡しながら位置に着く。


「てな訳だから、覚悟決めろよ」


刀を外に置いてから、全く怖気づく事無く二人とも位置に着き耳に魔力を集めていく。


正気すら疑い始めるオーズも、二人の顔を見ればこちらが逃げては駄目だと思い知らされる。

それは失礼な事だと。俺達はここに居る、だからお前も逃げるなよ。そう言われている様な顔をしていたから。


「っ……もういくぞ!どうなっても恨むなよ!」


遂に覚悟を決めて音波魔法を放つオーズ。


「うおおおおおおおおお!」




結果的に言えば、二人に魔法が当たる事はなかった。

音波魔法は二人の間だけを通っており、撃った本人はホッとした様子だった。


しかし次の瞬間、ミナトは声を荒げながら言う。


「何を……何をやってるんだ!」


普段あまり怒りを露わにしない彼が、今回は怒っている事が容易に分かる。


徐々にオーズの元に近づいていき、再び強い口調で言葉を使う。


「今のは何だ、ふざけるなよ。お前がした事は侮辱だ、覚悟を決めたアイクと、これまでのお前自身への侮辱だ!」


「!」


「いいか、もし次似たような事をすればもう二度とお前に手は貸さない。あいつにも二度と助けを求めるな。分かったか?」


ミナトがここまで言った原因は、さっきオーズが放った魔法の威力が問題だった。

弱すぎたのだ。


あれでは仮に当たったとしてもなんのダメージもなかっただろう。


確かに威力を弱めれば範囲の問題は解決できる。


しかしそれではこの魔法を使う意味がない。

高い威力を自在に相手にのみ向けて放つ、その練習をしてきたというのにこれでは全て無意味だ。


{俺は……なんて事を……!}


つまりさっきの行動とは、二人に対する最大限の侮辱行為に等しい。


この時、オーズの中で明確な変化が起こり始めた。


最初に出てきたのは罪悪感からくる言葉。

次に出てきたのは、悔しさからくる言葉。


一瞬の間で無数の言葉が思い浮かんで来たが、口にしたのはシンプルなものだった。


「……すまない、もうしない。だから余計な事は考えずに身を守ってくれ」


全てを呑み込んで出来た覚悟からくる言葉。


もう彼の目に、迷いや不安といった感情は一切感じ取れなくなっていて。

その目を見ればミナトも安心して元の位置に戻っていった。


{悪いな二人とも、、今度はタダじゃすまないかもしれない。

そしてありがとう。俺を助けてくれた全ての人}


「いくぞ」


これまでの彼からは感じ取れない程落ち着いた声で合図を出す。

彼が先程放ち始めた静かなオーラは、まるで嵐の前の静けさのようにすら感じた。



深く息を吸ってから、放つ。


「うおおおおおおおおお!!」


これまでのどの魔法よりも、威力が高い。

その魔法が、、、二人の間を通る!


微かに逸れた音の外で、直ぐに喜びの表情を浮かべるアイクと。分かっていたかのように笑みを浮かべるミナト。


「……」


声を出し切ったから息を吸ったのに、再び叫ぶオーズ。


「よっっしゃああああああああああ!」


歓喜の叫び。

彼の強く握られたガッツポーズと、満面の笑みを見れば祝福したくなるのは当然であろう。


アイクは全力で走って行き言葉を掛ける。


「凄い!凄かったよオーズ君!威力も今まで一番だったんじゃない!?もうほんとに凄いよ!」


自分の事の様に喜んでいる姿は、もはや才能とすら思えた。


(ま、一回まぐれじゃ駄目だから何回もしなきゃなんだけど……今はちょっとだけそっとしとくか)


少しだけ、喜びを噛み締める時間が流れる。




期限まで、あと三日!

思ったよりもこの話長引いちゃいました。

次回でちゃんと終わらせます。

しばしお待ちを。


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