第六十話 尊敬出来る人を見つけられるのも幸運だよね
この思いが生まれ始めたのはこの前の聖魔祭。
皆の活躍は目覚ましくて。
優勝は出来なくとも爪痕位は残してやるってつもりだった。
でもその考え方が甘かったんだ、きっと。
今年の第四は強くて、個人戦の高順位の半数ほどを獲得するレベルで。
普段同じ学校に通って同じ授業を受けている人達の活躍。
嬉しくもあったけど、僕は悔しくも思ってしまった。
クロム君の活躍を見た時、無意識の内に言い訳をしてて。
だって彼は一般家庭の出身じゃないからって。
でも歴史に残る偉業すら成し遂げたルチアさんは僕と同じ平民。
その時も無意識に言い訳を探して、剣と魔法は違うからってまた逃げた。
この二人は別格としても、戦績は僕と大差無いはずのフレアさんも。持ち味である回避力は充分通用した。
僕とは違って。
極め付けはミナト。
一般家庭出身で、同じ剣士。
クロム君やルチアさんみたいな圧倒的な力や魔力などを持っている訳でもないのに、学年の頂点に立った。
今度は言い訳も出来なかった。
でもそれ自体は良かったと思う、ここから成長して追い付けばいいって思えたから。
迷惑を承知でミナトにもお願いをして。
放課後の特訓以外でもこっそり自主練を始めたり。
それでも僕は戦いの場に立つ事すら出来なくて。
毎日のように特訓に付き合ってくれるミナトに申し訳なくて。
駄目だと分かっているのに自分の必要性を訴えたりもした。
僕は結局自分の事ばかり考えている。
皆の活躍に嫉妬して、自分の努力が間違ってなかったと証明したくて。
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「クソ、、もっと……もっと!」
自身の思いを吐き出し、感情をむき出しにする。
「僕がもっと強かったら、、あの時だって役に立ててたかもしれない!」
「……」
この時ミナトは、強烈に人の心というものを感じていた。
あまりの強烈さに羨望すら抱くほど。
そこまでの感情を抱かせてくれた相手に出来る事は…。
解いていた構えを再びとり、告げる。
「打ってこい」
それだけ言って。
結局ミナトにとって今できる最大限がこれなのだ。
だがこの一言がアイクには必要だったのかもしれない。
感情をむき出しにして剣を振るう。
何の工夫もない雑な剣。
だが確かに重みを感じる剣でもあった。
叫ぶように剣を打ち込む。
思いが乗せられた剣を受け、その思いを感じるミナト。
(大丈夫。伝わって来てるから…)
悔しさが、やるせなさが。相手の熱い思いがひしひしと伝わってくる。
{あぁ……本当に、、僕は何をやってるんだ。
ここまで来て更にミナトに頼って……!}
ただでさえ負い目を感じているアイク。
悔しさと自責の念でどうしようもなこくなって、剣を打ち込むことしか出来ない。
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「はぁ…はぁ…」
あれから数十分後。
一切の休憩を挟まず、何一つ言葉を発さずただ剣を交えた。
流石に体力の限界が来たのかアイクの動きが止まる。
ミナトも肩で息をしていたので、ここでようやく言葉を使う。
「休むか」
またそれだけを言って、その場に座り込む。
この言葉を聞いた後一瞬だけ間を空けてからアイクも座り込む。
少し息を整える時間を置けば、今度は言葉による対話が始まる。
「ちょっとはスッキリしたか?」
「……スッキリどころかぐったりだよ」
そう言うアイクの顔は、先程よりは明るくなってきていた。
「……焦る必要なんて無い、、と俺は思ってる。実際特訓の成果は出てるよ、前よりもずっと打ち合うのが大変になった」
「はは、だったらいいんだけどね……」
直接的な言葉を使ってもまだ不安に思っているらしく、やはり目線は下がったまま。
どうすればいいだろう。
ミナトが思っている事はさっきの言葉に集約されている。
本心だけを語ったつもりだが、まだ思いが届いていない様子。
そこでもう一度考えた。
彼にどうなって欲しいのか。
目の前の友人に、一体どう思ってほしいのかを。
考えた末、なら出来る事は一つか、と結論を出し。
言葉にする。
「アイク、聞いてくれ」
(ただ思ってる事を言うだけでいい。それ以外は何も言わなくていい)
少し声色が真剣になった一言で、こちらに視線を向けるアイクに告げる。
「今から言う事は全て本音だ。信じてくれ」
「……うん」
軽い前置きを置いてから本題へ。
「俺はお前の事を凄い人間だと思ってる。
人に対して正直に教えを乞える奴は少ない、それが同級生なら尚更だしな」
(思ってる事を、、そのまま伝えるだけでいい)
自分に言い聞かせながら言葉を続ける。
「更に謙虚で、誠実な男だ。そんな奴は中々居ない」
誰に対しても素直で、いつまでも謙虚で居続ける。
果たしてそんな事が出来る人間がどれだけいるだろうか。
度々ミナトはアイクにとある二人の人物の顔を重ねていた。
その二人とはかつての仲間であるアレウスと、かつての弟子であるミスラ。
懐かしい顔を思い出しても、今話しているのは目の前に居る相手。
その相手がやはり自分から見て特別な存在であると再び思い知る。
「俺はお前を一人の人間として尊敬している」
(本当はこの言葉だけで良かったのかもしれない)
言ってから、ふと考える。
(もしかしたら剣を交える必要も、理由を話す必要すら無かったかもしれない。
それ位この言葉は本心で、本物だ)
そこまでの思いを込めた言葉。
「……言いたい事はこれだけ、俺にはアイクをどうこうする権利もそうするつもりもないしな」
立ち直っていつも通りだとか、より一層精進するだとかはもう気にしていなかった。
ただ言わなきゃと思った事をそのまま伝えるだけ。
アイクがこれからどう過ごすかはアイク自身が決める。
そこにこちらの決定権は何一つ無い。
だから後はもう行く末を見守るだけ。
「……そっか、、」
{ここまで言ってくれたんだ、僕も応えなきゃな……}
一呼吸置いてから言葉を返す。
「やっぱり悔しかった、あの時」
「……ああ」
「もっと強くなりたい」
「なら鍛錬し続けなきゃな」
「これからも特訓付き合ってくれる?」
「勿論」
ただの学生の会話。
日常に溢れているごく普通の光景。
{これで良かった。
悔しいなら乗り越えればいい、ちょっと時間は掛かるかもだけど……頼りになる人も居てくれるし}
スッキリしたような顔をしている彼を見て、ミナトは思う。
(流石の心の強さだな。
俺はもっと時間掛かったのに、、やっぱ凄ぇ奴だ)
互いが互いに心の強さを認め合う。
一人はただただひたむきに、真っ直ぐ進んだ。
一人はここまで長い道のりを歩んで来た。
過程や目標地点、そもそも舞台すら違うかもしれない二人。
この二人を引き合わせたのは、両者の心の強さ。
諦めず進み続ける事が出来る強靭な精神故。
例えその心の強さが絶望を運んで来たとしても。
進み続けるしかない。
本編では触れなかったものを一つご紹介。
アイクが気にしていた事の一つについて。
ルチアの怪我、というものがあります。
あの事件の全貌は一応生徒にも通達されています。
その時の証言に、「ルチアが負傷したのはミナトが来る直前」というものがありました。
これを聞いた時アイクは、あの時自分が言い訳をせず指示に従っていればミナトが先に到着してルチアが怪我をすることは無かったのではないか、と考えてしまいました。
自分が余計な事をしてしまったせいで怪我を負わせてしまったのでは、と考えましたが事実を言えばこれは間違いです。
数分の事が数時間にも感じる事がある位、実践の場では時間間隔が崩れます。
なのでもし仮にミナトが会話などせず全速力で向かったとしても、到着時にルチアは既に負傷していました。
なのでアイクが自分を責める必要はないです!元気に生きてくれ!




