第五十八話 問題はまだまだある
今日は最後にちょっとしたお知らせがあります
「にしても本当にクロムを送ってよかったんですか?もしかしたら犠牲者が一人増えてた可能性だってありましたよ」
ミナトがそろそろ帰ろうとした時、もう一度聞く。
先程の説明ではやはり納得しきれなかった部分もあったのだろう。
そりゃあ結局は勘、としか言っていない時点で説明不足だが。
「勿論こっちと相手の実力を冷静に分析した結果いけると判断したんだよ」
「具体的にどうやって相手の実力を図ったんですか?」
(相手はあの転移魔法を使っていたんだ、ならかなりの人数かかなりの手練れ魔法使いだった可能性が高い。……つーかあいつよく考えたらホントに何だったんだ?転移なんて普通使えるもんじゃない。それ以外の魔法も結構使えてたし、一体どうやって……)
稀に実用性のない魔法でも極める者が居る。
しかし大抵それらの人物はその魔法に全てを費やしているので戦闘力は低かったり、一点特化過ぎたり。
だがトロフィムはそれ以外の魔法も中々のレベルで扱うことが出来ていた。
彼の人となりも含めてやはり謎の多い人物……とミナトが考え込んでいるとミケーレがさっきの質問を返す。
「まぁ一番は転移魔法の反応だな」
「例えば術式が荒いとか、反応が残りすぎていたとかですか?」
「大体そうだ。実は私は魔眼持ちでね、魔法の解析も得意なんだよ」
魔眼、と聞いてピーンと来る。
(そういや魔眼持ちだって噂聞いた事あったな)
「お前ら二人が組んでも倒せない様な相手なら、あそこまで術式は荒くないだろう。どこに飛んだかも分かりやすかったしな、あれ位なら問題ないと思った。
それに、もし二人揃っても勝てなかったら騎士団が行っても並の団員なら勝てないよ。それこそ今の王都なら私以外で勝てる奴はこの間の人斬り位じゃないか?」
発言だけ聞けば自信満々の調子乗り野郎かとも思うが、それはちゃんと冷静に実力を判断しているからこそのものだから。誰も言い返せる奴は居ない。
ミナトもまぁ確かに、、と矛盾や間違いは無いと思ったがそれでも言いたい事はあった。
「二人揃えばって、、、あいつが来る前に俺が負けてた可能性もあったでしょ」
「でもお前は明らかに格上だった相手にも耐えてみせた、っていう実績もあるだろ?」
「そう……ですね」
話せば話すほどちゃんと考えた上での判断だと思い知らされる。
その場で観測できた情報と、これまでの実績。
この二つが揃っているならもう何も言えることは無い。
別に何やってんだー、って文句を言いたかった訳でもないからね。
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あの後は直ぐに学校を出た。
元々今日学校に来ていたのは、事件の再度の取り調べや現場検証なんかを手伝いに来ていたので、あまり長居する理由もない。
流石に校内に侵入者が出た上に、生徒が誘拐されていたとなれば中々の問題となる。
だから学校側は二度とこんなことが起こらぬよう徹底した対策を練らなければならない。
なので数日の間は授業は無く、自宅待機が命じられていて本来ならミナトもこの後は真っすぐ家に帰らなければならないのだが……。
どうやら寄り道をして帰るらしい。
少しずつ人目の少ない場所まで歩いて行き、着いたのは小さな酒場。
まだ昼間という事もあってかお客さんもおらず、微妙に薄暗いためなんだか秘密基地の様な雰囲気。
普通学生が酒場なんて来るとこではないが生憎彼は普通の学生ではない。
店に入れば一直線にマスターの所まで行き、カウンター越しに会話を始める。
「お久しぶりです」
「久しぶりだな、直接会ったのは二十年位前か?」
「ええ、覚えて貰っていたとは光栄ですな」
声色も表情も落ち着いており、いつもよりも随分と大人っぽい様子。
一言二言挨拶を交わせば向こうから本題に入る。
「それで本日はどの様な案件で。先日の誘拐事件に関してですか?」
「いやそっちはいい、俺の方で調べておく。調べて欲しいのは魔族の動向と、人斬り事件の犯人…ライコウと名乗った人物に関してだ」
「承知しました。何か注意事項などございますか」
「優先するのは魔族の方だ、奴等集団で動いている。大事になるかもしれねぇからな。人斬りに関しちゃ道中で一応調べておく程度で良い」
会話は淡々と進む。
必要以上の言葉はなく、二人の間に良くも悪くも信頼以上の感情がない事が良く分かるものだった。
「悪いが別件を調べてる奴も魔族の方を優先するよう伝えてくれ、一部の緊急事案は除いてだ」
「承知しました、通達しておきます。他には何かございませんか」
(呪いは正直もうこれ以上の資料は期待してないしな、、他は特に…あ)
何もないと言いかけたその時、ふと頭に過ぎる。
これまでのミナトなら出てこなかったはずのそれを、言うべきなのかどうか。
少しの思考の末出した言葉は……。
「……これはついでで良い案件だが、、、もしうちの学校に危害を加えようとしてる連中が居たら教えてくれ」
自分でも本当に言って良かったのかともう一度悩むミナトとは反対に。
これを聞いたマスターは「承知しました」、とだけ言ってそれ以上はもう何も言わなかった。
驚きもせず、特に間も空けずそう返す相手を見て、そう言えばこういう奴だったと思い出したミナトは頼むぞとだけ言って店を出る。
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(まぁ早急に手を打たないといけないやつは大丈夫だろう、後は……)
その時思い浮かべるのは、やはりあの時の悔しさとほんの少しだけ怒りの混ざったあの顔だった。
(学校始まったら、話するかぁ)
別に大層な事じゃありません。
ちょっとだけこのシリーズの更新が止まる、って事を今日はお知らせします。
期間はだいたい一週間、もしかしたらちょっとだけ伸びるかもしれません。
理由は急遽別の作品を書きたくなったからです。
出来る限り直ぐこっちも更新したいと思ってるので、しばしお待ちを。




