第五話 人間ってよく分かんないよね
「それでどうだ、学校には慣れてきたか?」
「ぼちぼちですけどね」
あれから二週間ほど経った。
ミナトは監視役としての報告に来ていた。
毎回生徒指導室に行くのは色々とマズかったので、今はまた別の空き教室に通っている。
「今日はお前に頼みたい事がある」
「頼みたい事…ですか」
「ルチアに関する事なんだがな。実はよく寮を消灯時間後に抜け出してるみたいなんだよ」
「それを止めて欲しいと言うんですか?俺に?」
「いや、私が頼みたい事は寮を抜け出して何をしているのか見てきてほしいんだよ」
「?えっと、、それは流石に先生の仕事なのでは?」
「私は潜伏が苦手でね。ほら君は得意だろう?」
(それで今日の授業かくれんぼやったのかよ…)
「とにかく頼むよ。何をしていたのか私に言ってくれればそれ以外は何もしなくていい」
(あの人かぁ…)
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あれは最初の魔法実技の授業。
生徒の得意魔法を知る為と言って、一番得意な攻撃魔法を撃っていくという内容だった。
(魔法はいまいちなんだよなぁ。っと!)
順番が回ってきたミナトもまだ得意な火属性魔法を放つが、威力はまぁ普通といった具合だった。
(皆中々良い魔法撃つな。お、次はあいつか)
ルチアの順番が回ってきたとき、何人かの生徒が身構えている様子を見せていた。
ミナトはそうする理由が分からなかったが次の瞬間には理解した。
精々ボッ、という音が鳴る程度の自分の魔法に対して彼女の放った魔法は桁違いの威力を見せた。
ドッカーン!なんて安っぽい音じゃ表せない轟音が響いた。
「あいつだろ?入試で爆発みたいなのしたやつ」
「マジ?あの音何かの事故かと思ってた…」
(これは…学生の域を超えてるどころの話じゃねぇな)
間違いなく世界でもトップクラスの威力を誇る魔法を放った彼女に話しかけていく人物は一人だけだった。
「ルチアさん凄いね!さっきの魔法、術式いじってたよね?どこ…「そういうのいいから」とだけ言って彼女は通り過ぎて行った。
最後まで言葉を言わせてもらうことすら出来なかった。
(えーマジで?あれかな、女魔法使いは皆最初クール対応なのかな)
クラス内で自己紹介をした時にも、めんどくさそうにしていた事をミナトは思い出していた。
後は、、昔の仲間の事も思い出していたようだったが。
「…」
通り過ぎた後、彼女がミナトに対して何か視線を向けていた事など、知る由も無く。
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(あの後何回か話しかけてみたけど、全部駄目だったしさ。ていうかこれ本当に大丈夫なの?)
結局頼みは引き受けたが、思うところはやはりあるようだ。
(一応俺も生徒なんだけどな。消灯時間後に抜け出さないかを見張るっていいの?
後これだと女子寮覗いてるみたいだし)
監視役に関しては、完全にミケーレの独断であり。
他の教員には秘密で行っているので、もしも今ばれてしまうと両者ともかなりマズいのだ。
(!動いた)
本当に抜け出してきた彼女を見失わないように行動を開始する。
(動き方を見ると目的地があるみたいだな)
探知に引っかからぬよう魔力を隠しながら、人間自体の気配も隠しつつの追跡。
(やっぱ探知魔法もガッツリ使ってるな。あの人魔力引っ込めるの苦手みたいだし。
それで存在ばれて結局何をしてたのかは分からずじまいと)
そのまま彼女を追っていくと、王都すら抜け出していった。
(おいおい結構ガッツリ抜け出してんじゃねぇか。どこまで行くんだ?)
などと思っていた所、近くの森でようやく彼女は止まった。
その後周囲に人がいないことを確認してから彼女はおもむろに何かを取り出した。
一瞬何かマズい取引でもしているのかと思ったミナトだったが、その不安は一瞬で取り払われた。
彼女は魔導書と杖をそれぞれ手に持ち、魔法を撃ち始めた。
(ただ抜け出して魔法練習してるだけだったか。よかった…)
と安心したところ足元にあった枝を踏んでしまい、存在がバレた。
「誰だ!」
バッとこちらを振り向く彼女に、ミナトは潔く姿を現した
「悪かった。俺だ」
手を上げ、害意がない事を精一杯表した。
「なんだお前か…」
先程までの警戒心は無いようだが、呆れている様子だった。
深いため息をついた後、彼女は事情を聞いてきた。
「どうせあの先生が寄越してきたんだろ?抜け出すの辞めろって」
「あー、まぁ先生に言われてきたのはそうだ」
「次は自分で直接来れば?って言っといて」
「…」
「女子寮覗きのストーカーって言ってやってもいいんだよ」
「ちょ、それはマジで勘弁」
返答を渋っていたミナトに脅しを掛けるがやはりまだ何かを考えているようだった。
ミナトが考えていたのは先生の言葉。
(何をしてるのかを報告してほしい、それ以外は何もしなくてもいい…)
「…特に危ない事はしてませんでしたって、先生には言っとくよ」
「はぁ?何それ。前から思ってたけど私に喧嘩売ってんの?」
「前から、、って?」
「最初に話しかけてきた時からだよ!あんたの方が…」
出かけていた言葉を何か飲み込んだように見えた。
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最初の魔法の授業の時。
あいつの魔法を見て、、驚いてしまった。
(何あれ、、いったいどうなってんの?)
魔法というのは自身の魔力を魔法の構築術式に通す事で、発動させる事が出来る。
だが構築術式という物は、別に一から自分で組み立てる必要はない。
何となくでも術式は組まれる、魔法は「コツ」さえ掴めば感覚で放つことが出来る。
だが構築術式を理解することが出来れば、既に覚えている魔法を改良する事も出来るし、新しい魔法も生み出せられるようになる。
しかし魔法の術式とは難解なものであり、魔法学園でも授業で三年間習う事になるが、自分で術式に改良を加えられる程理解する生徒はほとんど居ない。
だから同学年にそんな事が出来る人間なんて、まさか自分以外にいるとは思わなかった。
それどころか、あいつは一から全ての構築術式を組み上げていた。
(噓でしょ?あんなことが出来るなんて、、今世界に後一人いるかどうか。
私でも全部一からなんてあと何年掛かるか…)
先生や他の連中は気付いてなかったみたいだけど、私にはあいつの異常性が分かった。
なのにあんな風に言ってくるあいつが、気に入らなかった。
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{これじゃ私が馬鹿みたい}
暫く黙った後、舌打ちをしてからこちらに向かってくるルチアに、ミナトは必死に謝った。
「ごめんルチアさん、何か俺がしてたなら…「うるさい」
またも言葉を遮られてしまった。
「もういい。帰る」
「え?ちょっとルチアさん?」
「ねぇ」
「は、はい!」
「それ、辞めて。その敬語」
「敬語?」
「もし次同じこと言わせたら丸焦げか氷漬けね」
「は…っわ、分かった!」
(な、何だったの?)
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「それで、結果を聞こうか」
後日、ミナトは先生に昨日の出来事を説明した。
「ルチアはただ魔法の練習をしていただけでした。寮の中でポンポン撃つ訳にもいかないので、一応本人なりの気遣い…みたいなものだと思います」
「やっぱりそんなもんだったか」
「…それで、どうするんですか?この後。放置って訳ではないんでしょ」
「まぁそれについてはこっちに任せてくれ。今回は少し悪い事させて済まなかったな」
「これくらいだったら別に。それではまた」
後日ルチアには先生の方から特別課題が言い渡されていた。
内容はどうやら魔法関連の何かだったらしいが、それ以来ルチアが寮を抜け出すことは無かった。
それから、寮の敷地内に魔法や剣の鍛錬が出来る施設が今度建てられるらしい。
完成するのは結局当分先になってしまうが、それの話はまた後程。
今回は寮についての説明だよ!
第四魔法学園は王都にあるけど、勿論王都の外からも生徒は来るので、そういう生徒らの為に学園側は寮を用意しています。
寮に住むために掛かるお金は格安です。そもそも学校に通う為に掛かるお金自体が基本的にめちゃ安です。
なので貧困な家庭出身でも、実力さえあれば入学することが出来ますし。
僅かに掛かるお金さえも払えない程厳しい場合は免除されたりもするらしいです。
これに関しては魔法学園創設者の「誰でも安全に学び、育つことが出来る学び舎」という考えの名残だそうです。
あ、あと因みにですが。ミナトの初日呼び出しに関しては「寮じゃなくて一人暮らしをするみたいだけ本当に大丈夫?」みたいな話をしたと周囲には言ってあります。以上!