第五十六話 現実は甘くないけど偶に良いとこ見せる。だからタチ悪い
ミナトとトロフィムの戦闘は苦しい展開が続いていた。
単純な戦闘能力ならこの間戦ったライコウの方が上だが、厄介度ではこちらの方が数段上で。
その主な理由がこの人質戦法である。
向こうが腕を伸ばすだけでミナトは動かざるを得ない。
例えそれがブラフだとしても、動かなければ本当に撃つだけ。
魔法術式にもかなりの理解があるようで、魔法を放つ速度は中々のものであり。
威力も充分である為もし当たれば更に負傷者が増える。
{クソ!俺がもっと強かったら、、こんな足を引っ張るような事には……!}
怪我を負っているルチアを守っていた彼も現状を歯がゆく思っており。
何度か捨て身で動けない二人だけでも逃がしてやれないかとも考えたが、もし仮に成功しても捨て身ならば自分が怪我を負って動けなくなるだけだと判断。
ミナトもそれを理解していて、更に相手はこれを見越して戦っているところまで分かっているので怒りが止まることは無く。
(この野郎、、)
もし仮に今回のルチアの様な負傷者が居なくともフラジオを保険で置いておくことが出来る。
現在そのフラジオは精神操作系の魔法に掛けられており、解除自体は出来るがそれをする暇がないという状況。
「人質作戦とは大人げないなぁ、真剣勝負してくれよ」
「んーそれも面白そうなんだけどねぇ、、今は出来ないかな」
{転移魔法の方も進めないとだからあんまり余裕ないんだよね~}
「知ってたよ、言ってみただけだ」
(転移が後どの位で発動するのかが分からない以上、逃げ回ってるだけじゃ駄目だ。
どうにかして阻止するしかなぇなら方法は一つ……)
外からの救援をもたもたと待っている暇が無く、相手の魔法を阻止する為には。
(こいつを倒す、それ以外にない!)
しかしそうしようにも、現状何とかフラジオとルチア達を守る事で精一杯。
打開策を講じなければ本格的にマズい状況。
「ねぇ」
必死にその方法を考えているミナトに、トロフィムは語りかける。
「君は特異点についてどう考える?」
(は?いきなり、、いや会話の隙を狙えるかも…)
一見無意味に感じた行動も、もしかすると現在打破に繋がるかと思い再び会話に応じる。
今回は戦闘をしながらであるが。
「情報が少ないから良く分かってねぇけど、面白いとは思う。伸びしろが高い事は良い」
「うんうん、そうだよね。じゃあ仕組みはどうなってると思う?どうして霧を浴びたからってこうなったんだろうね」
「……知らない。そもそも俺はそこの理由には大して興味は無い、あるのはどんな風にあいつらが成長していくかだけだ」
その言葉を聞いたトロフィムは、少し治まっていたはずの興奮が再度溢れ始める。
「実はね、ちょっと調べてみたらさ。特異点って体に作用してる事が分かったんだよ」
「…は?」
(何故今それを言った?俺に教えて損する事はあっても得する事はない筈……)
困惑するミナトを差し置き、どこか楽しそうに男は語る。
「フラジオ君は体の関節部分に作用したんだろう、通常の人間では有り得ない程の柔軟性だったよ。
他の部分は普通だったんだよね、柔軟性だけが異常だったんだ」
この説明に、少しの違和感を覚える。
「おいちょっと待て」
柔軟性が高いのは直ぐに確かめられる。だが他の部分が問題だった。
一体どうやって他の部分が普通だと分かったのだろう、どうやって確かめたのか。
「お前本当にフラジオに何しやがった、そんでこの後俺達をどうするつもりだった」
怒りを滲ませながらそう問う。
そのミナトとは対照的に嬉々としたような表情で話すトロフィム。
「体を覗かせて貰ったり、魔法で解析したりちょっとした実験をしただけだよ。大丈夫死にはしないさ。上手くいけば後遺症もなく解放してあげるよ」
「上手くいけばだと?じゃあもしそうならなかったら…」
「うーん勿論そうならないよう全力を尽くすけど、もし上手くいかなかったら何かしら後遺症はあるかもね」
一連の会話は、まるで親と子の会話の様であった。
叱る為に問い詰める親と、それに弁明する息子。
当然場はその様な空気ではないが、トロフィムの異常さがこの様に思わせるのかもしれない。
一応悪い事をしている自覚はある。だけどそれは仕方のない事だと思っている様な。
どこか感情の一部が欠落している様にも感じるその男に、もはや呆れすら覚えるミナトだったがきちんと怒りの感情も持っていた。
「…そうか、お前はやはりここで倒さなくてはならない人間だ」
「私はここで倒されるつもりは無いけど、その挑戦は受けようかな」
{転移はまだもう少しかかるけど、ここが外から見つかるまでには発動できる。それまで少しこの子と戦っておこうかな}
しかし、怒りを覚えた程度でどうにか出来るほど今は甘い状況では無い。
剣術・魔法どちらも高水準で扱える上に人質戦法。
何とか隙をついて攻撃仕掛けるも……。
(今!)
魔法攻撃の隙を縫って接近、向こうが動けないフラジオの方に手を向け魔法を撃とうとするもこちらが先に魔法を撃つ事でそれを防ぐ。
「やっぱり君魔法めちゃくちゃ早いね!」
「うるせぇっ!」
魔法を撃たせない為に至近距離に持ち込む。
しかし予め用意していた魔道具を取り出し剣の打ち合いになる前にそれを発動。
効果は単純な魔法を一発放つ程度だったが、これでまた距離を取られる。
(クソっ、やっぱ決定だがねぇ。時間稼ぎだけしてればいい訳じゃなくなったんだ、どうにかして後一歩詰められれば)
その後は似たような事の繰り返し。
基本的には動けない二組に魔法を放とうとする所を寸前で止める。そして隙が出来れば距離を縮める。
どうにも出来ないまま時間だけが流れる。
{よし、このままなら転移も完了する。向こうに着けばフルで力を使えるしミナト君もどうにかして……}
ミナトも現状を変えられる手が思いつけない中、突如として情況は一変する。
トロフィムが勝ちを確信しだした頃。
天井からとんでもない爆発音が鳴る。
「何だ!?」
この場の全員が驚いている中、その爆発がもう一度起きた時天井が崩壊しある人物が姿を現す。
「お前、、何でここに」
「……」
相変わらずの無表情で地下室に入って来て、一言も発さず。
ただ相手を見つめる。
まだ彼の後姿を見たことが無かったミナト、始めて見たのはこの時だった。
聖魔祭準優勝者、現代の怪物とも呼ばれる彼。
クロム・ドンナー、一組誘拐事件の場に到着。




