第五十三話 ターゲットは○○
「…よし!」
(体の調子は全然良い、これなら今日の剣術も問題ないな)
いつもの朝の日課をこなして、体の状態を確認する。
昨日は偶々体を動かす授業がなかったが、今日は最初から剣術の実践授業。
一番好きな授業を見学という本人にとっては最悪のルートは回避。
その事に喜びを覚えながら自宅に戻り、学校へ向かう準備を済ませる。
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教室にはいつも早いうちに着いておく、これも彼のルーティーンだ。
暫くは本でも読みながら席に座っていれば徐々に人もやって来て教室が騒がしくなってくる。
「おはよーミナト!」
「おう、今日はいつもよりちょっと早いんじゃないか?」
いつも教室に入れば真っ先にミナトの元に向かうアイク。
「実はあんまり寝れなくてね……って言うかミナトあれ知ってる?」
「あれ?」
突然深刻そうな顔になった友人の話を聞く。
「まぁ丁度寮から出たタイミングだったし、しょうがないのかな」
「何かあったのか?」
「フラジオがね、昨日学校が終わってから行方不明なんだよ」
突然出てきたワードにミナトも動揺を隠せず。
「行方不明?どういう事だよ」
動揺するミナトに、ちゃんと一から話すね、と説明を始めるアイク。
「最初は珍しく門限過ぎても帰ってこないなー、位だったんだけど。次第に寮母さんとかがどこかに連絡飛ばしたり、あんまり寮に来ない先生とかもこっちに来るようになってきて…。
で、流石に妙だったから聞いてみたらフラジオが見つからないって」
「…なるほど」
(確かにちょうどこの前あんな事もあったし学校側が対処を急ぐのも当然か……)
先日自分の身に起こったことを考えれば、普段門限を守ってきちんと帰る生徒がいつまで経っても見つからなかったら焦るだろうと考える。
「それで今日は学校もちょっと騒がしいのか」
一晩経っても見つからないので教員達も必死になるだろうし、生徒間でも話題になるのも当然。
それから二人で本当に無事なのかどうかとか、このレベルの騒ぎだと授業をするかどうかも怪しいだとを話していると、突然教室の一部で大きな声が上がり始める。
「何々、どうしたんだろ」
普段よりも騒がしい教室だったのにそれらを搔き消せるほどの騒ぎだった。
時刻は八時半。もう直ぐしたらミケーレがきて朝のHRとなるのがいつもの流れ。
ミナトは最初、先生が来て今日の授業の事を知らせに来たけど、その内容が中々衝撃的なものだったから皆が騒いでいるのかとでも思ったのだが。
流石に様子がおかしいと思い、騒ぎの方に目を向けるとそりゃこうなるかと納得せざるを得ない人物が。
扉付近に出来た集団を通り抜けて教壇近くまでやって来たのは、夕べから見つかっていなかったフラジオだった。
クラスメイト達はどこに居たのかだとか、先生を読んだ方が良いんじゃないかなどと騒いでいたが、ミナトは一人違和感に気付いていた。
「……」
さっきまで近くに居たアイクもフラジオの姿が見えてからは即座に駆け寄っていたが、ミナトとは別の違和感に気付く。
クラスの殆どが彼の周りで何かを話しているというのに、彼だけが何も話していなかった。
普段の彼なら何も無くても一人言葉を発していたはずなのに、この状況で彼は終始無言のまま。
(何だあれ、魔道具だろうけどちょっと……っ!)
その瞬間違和感の正体に気付いたミナトが叫ぶ。
「全員そこから離れろー!!」
声だけが教室に響く。
あまり大声を出す事のないミナトが叫んだことと、鬼気迫る声と表情に皆驚き固まってしまった。
「ちぃ!」
叫んでから即座に隣に置いてあった刀を手に取り、戦闘態勢。
それとほぼ同時に教室天井から魔法陣が展開される。
すると展開された魔法陣から人の頭が出てくる。
まるで天井から人が生えてくるかのように謎の男は徐々に姿を現す。
その男がまだ床に足が着く前にミナトが斬りかかる。
すると準備していたかのように向こうも剣を取り出し、それを防御。
「おやおや血気盛んだねぇミナト君」
(なんだこいつ!でも明らかに侵入者だ、戦闘は許可されるはず)
教室に現れた瞬間に斬りかかったはずだが攻撃は防がれる。
空中でぶつかった両者が降りてきたところで、この場の全員が事態を把握。
詳しくは分からないがとにかく分かるのはこの男が敵であるという事。
「せ、先生呼んで来い!」
「皆武器持て!抵抗するぞ!」
行動は違えど全員がパニックになっている状況で、場面は直ぐに変わろうとする。
「ここじゃゆっくり出来ないし、皆をご招待しようか」
そう言うと謎の男は再び魔法を発動。
今度は教室の床全体に魔法陣が浮かび上がる。
(クソっ!)
発動の阻止が間に合わないと踏んだミナトは、人の居ない教室後方の扉の窓に向かって魔法を放つ。
次の瞬間、一年一組から人が消える。
さっきまであれ程騒がしかったはずの教室は恐れるほど静かであり。
割れた窓ガラスが一枚、散らばっているだけであった。
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「!」
教室全体が強い光に包まれた後、目を空ければそこには知らない空間が広がっていた。
(転移魔法か、、見える範囲に人は居ない…)
突然未知の場所に飛ばされるも、まずは状況分析を始める。
(これは明らかにこのクラスを狙った誘拐事件だ。
そして相手は転移魔法を使い、あの奇襲を防ぐ程の男…)
これがこのクラス…いや、第四魔法学園に降りかかり続ける不幸の始まり。
事件・事故、幾度もの窮地が今後彼等にやってくる。その最初の試練が今であった。
今回は転移魔法についてだよ!
最初に言っておくと、この魔法は殆ど使われていません。というか使えないし使い道もありません。
理由は一つで、難しすぎるから。
まず発動する為には膨大な魔力量が必要であり、その上術式を一から覚えなければ使えずその術式も超難解。
その高い壁を越えても、ほんの僅かな距離を移動できるだけ。
しかも発動一回で魔力はゴッソリ持って行かれるため連続使用も出来ず。
研究を進めた結果辿り着いた結論は、「人間じゃ使うの無理」というものでした。
じゃあ何故この男が使ったのか、使えたのかと言うのはまた本編で……。
今回は以上!




