第五十一話 激闘…!
(こいつ…化け物め!)
得意の近接勝負に持ち込んだものの、押され続けるミナト。
圧倒的速度から繰り出される連撃を防ぐので手一杯。
安易に反撃などしようものなら一瞬で致命傷を負う程の状況。
しかしそんな中でも少しずつ相手を分析して隙を作りに行く。
(ここ!)
と攻撃を仕掛けようとした時、右足から強烈な蹴りが飛んでくる。
それを何とか左手で防ぐも軽く吹っ飛ばされ、更にはダメージで少し痺れている始末。
ミナトが一瞬怯んだタイミングを見逃すはずもなく追撃しに飛んでくる。
またしても怒涛の連撃がミナトを襲う。
(マズい、一旦体勢を!)
相手の速攻に完全にリズムが崩されているので一度距離を取ろうと動こうとする。
しかし離れる事すら簡単な相手ではなく、気を見計らう。
少し後方に下がり、相手が追撃しに重めの一撃を繰り出すタイミングで今度は大きく後退。
(よし、今度はこっちのペースで組み立て、て…っ!)
ようやく距離と取れたと思ったのも束の間、一呼吸も置く間もなく相手は目の前まで迫っていた。
(速すぎんだろ!何だ今の速度!)
少しは時間が稼げたと思っていた所に急襲。
一向にリズムを立て直せず、終始相手のペースに飲まれていた。
(こいつ初速ならアイクよりも速い!それに…)
「くっ!」
今度は攻撃を完璧に防いだはずが後方まで吹っ飛ばされ、建物に激突。
軽く数十メートルは飛んで行ったはずだが、またしても一呼吸置く間もなく追撃がやって来る。
先程は躱せなかった攻撃だが、今度は警戒していたため建物にぶつかった瞬間から躱す準備をしており、ギリギリで民家の屋根に飛んで回避。
(パワーはクロムと同等か、、いや魔力抜きの力ならこいつの方が上か)
流石に今の攻撃を躱されるとは思ってなかったのか、向こうも一度足を止めこちらを見つめてくる。
ようやく間が出来たため呼吸を整えて、相手の情報を整理。
(アイクよりも速い初速、クロムにも負けないパワー。そんで達人級の剣技か…やべぇな)
考えれば考えるほどとんでもない実力を持つ相手にミナトももはや呆れているようで。
どうしたものか、と考えていると向こうも屋根の上にやってきた。
「…貴様…名は」
とだけ尋ねてくる。
「ミナトだ。そっちは?」
「……今の俺には持ち合わせる名など無い…だがそうだな…」
そうすると自身の刀を見てからこう答える。
「ライコウ、、と名乗っておこう…」
(ライコウ?偽名にしても妙だな)
向こうから名を聞いてきたはずだが自身は本名を名乗らないらしく、若干の違和感と不満を抱いたミナトは会話を続ける。
「こっちはちゃんと名乗ったんだ、ならあんたもそうするべきだろ。そっちから聞いてきたんだしさ」
ライコウはしばらく間をおいてから答える。
「お前の言っている事は正しい……しかし名乗れる名前が無いのは事実。だからせめてもの敬意として、、ここから本気で戦う事を誓おう…」
そう言って再び戦闘態勢に入る。
四の五の言ってる場合でもないかとミナトも構える。
(俺が相手に勝ってるのは剣術と戦闘経験、後は…)
もう一度情報を整理して対策を練る。
しかし悠長に考え込む時間は無いので、なるべく手短に。
話は終わりだ、と言わんばかりにライコウがこちらに接近。
瞬き一つの間で寸前まで迫ってくる相手にミナトが講じた策は…。
技を先に振る、というものだった。
{既に振り被っている?だがそんなもの……}
角度から見て狙いは左手首だと考えたライコウはそこをカバー出来るよう攻撃を振るいに行く。
しかし実際に攻撃が来たのは、左足であった。
読みは外したはずだが攻撃は避けられてしまう。
足元の攻撃を飛んで回避したところに、ミナトは魔法を撃つ。
「っ!」
それも躱されたが、魔法を撃つとほぼ同時に後ろに下がっていたミナト。
何かをぶつぶつと呟いている。
{独り言?いやそれよりもさっきの魔法は……}
スイッチでも入ったのか、一人でに話し続けている様子にライコウも奇妙に感じていた。
「想像よりも速かったな、あと少しだけ早めに攻撃は降ろう。それと魔法を撃ってから下がるのももう少し早くした方が良いかじゃなきゃ次からは追い付かれる。それと……」
奇妙に感じてもそれを攻撃を辞める理由にはならないと、再び接近するライコウ。
またしても相手が来るよりも先に振り被って攻撃モーションに入っているミナト。
{今度は縦方向か…いや!}
それを見て相手も次の攻撃を予測するが、何かを察知し一旦先程までの考えを放棄。
予測を捨てたのは正解だったのか、今回は縦方向の攻撃ではなく右肩への攻撃を繰り出していた。
{やはりか……}
またしても攻撃は防がれるも、三回ほど続けて攻撃を繰り出した後また後退。
退いた後、また独り言が始まる。
先程からミナトがしている事は所謂決め打ち。
圧倒的なスピードの差により近距離での打ち合いは不利だと悟り、ならばどうするかと考えた結果が。
先に攻撃を打っておく事で速さを補う作戦、ということだった。
本来ならば相手に攻撃を予測されるだけだが、同じモーションから幾つもの攻撃に繋げられるミナトの絶技ならばこの作戦も有効となる。
圧倒的な身体能力の差に技術と長年の経験で対抗する。
これがミナトのスタイルであるが、この作戦を支えているのはこれ以外にもう一つ…。
{こいつ…魔法の出が恐ろしく早い}
普段魔法は得意じゃないと言っているが、それは威力と魔力量での話であり。
発射速度と消費魔力量の少なさならばこの魔法は一級品。
異常に早いこの魔法によりさっきから行っている後退がスムーズに行えているのだ。
(少しでも長く打ち合えば負ける、、だったら打って逃げてを繰り返してやればいい。その内に新たな弱点を見つけて行けば勝ち筋はある!)
そう考えていたミナトだったが、勿論それを容易く行えるような相手でもなく…。
相手が動くよりも先に攻撃を振り始める事でスピードの差を補おうとしていたが、早くもこの作戦に対策してきていた。
フェイントとして今度は速度を落として接近。
先に攻撃を振って飛び込んできた相手に当てるはずだったが、タイミングをずらされた事で全てにずれが生じる。
勿論それに対応出来ないミナトでもないが、一瞬のずれがこの場では致命的。
速度を落としたことで余裕を持ってこちらの攻撃を受けるライコウ。
(防がれた!今のはマズい防がれ方だ、ここは一旦…!)
流れが良くないと思い、その流れを切る為に魔法を撃って距離を取ろうとするも、それを更に追撃する…と言った形になり。
逃げながら応戦するミナトとそれを追撃するライコウ。
接近の速度に変化をつける事で決め打ちにリスクを作る動き、それに対応して逆に溜めを作り技の威力を上げる。
一進一退の攻防であったが、状況としては終始ライコウが有利であった。
そんな最中。
(これは……!)
何かに気付くミナト。
一瞬の躊躇いもあったようだが、仕方がないかと自身を納得させる。
(後少し、、少しだけ耐えるんだ)
それから暫く何かを待ちながら必死に戦い続けたミナトだったが、遂に均衡が崩れた。
後ろに下がった時にほんの少しだけ足の着き方が良くなかった、それだけだった。
ギリギリの戦いでは些細な差で勝敗が別れる。
これまでより一瞬だけ動きが遅れた結果、渾身の一撃を受ける。
(しまっ…!)
なんとか刀で受ける事には成功したが、その衝撃により再び建物に激突。
しかしも今回は衝撃が強すぎたため建物の壁をぶち破っており、瓦礫の中に埋もれてしまっている。
その瓦礫の中から出てきたミナトは流石に戦えるような状態ではなく、立つだけで精一杯だった。
「終わりだ」
ライコウはそう告げていて、辺りには先程までの激戦に介入できなかった騎士団が集まっていた。
これ位の状況ならば逃げられるだろうと取り囲まれている本人も考えていて、団員達も覚悟を決めている様子だった。
だがこの状況でミナト一人だけが、笑っていた。
「……何がおかしい」
「ん?あぁおかしくなんてないさ。ただ…」
もう一度ライコウの方を見て言葉を続ける。
「やっぱりお前潜伏は得意でも探知はそこまで得意じゃねぇな?」
は?と意味が分からない様子だったが、次の瞬間ライコウもようやく気が付く。
とんでもない速度でこちらに向かってくる人物に。
あっという間に目の前までやって来た彼女は、走ってきたためかまだ揺れている長い髪を靡かせながら言う。
「悪い、遅くなったな」
「いいえ、ベストタイミングですよ。先生」
生徒のピンチと聞き颯爽と現れたのは、第四魔法学園一年一組担任ミケーレ・ステラ。
今回は名乗りについてだよ!
この世界では、自身が認めた相手には戦ってる最中でも名前を聞いたりする風習(?)みたいなものがあります。
それは元々ヤマト族の文化だったため、ヤマト族の中では常識レベルの事であり。
ミナトが突然名前を聞かれても平然と答えたのもそれが普通だからって訳です。
因みに今回の話ではライコウ、と偽名を使っていましたが本来これは割とガチで失礼な事で。本当に相手に敬意があるのかどうか疑わしいレベルの問題です。
今回は以上!




