第四十七話 全力で
(黒髪、袴、刀、そしてこの殺気。間違いない)
遂に人斬りの事件の犯人と接触したミナト。
流石に戦闘は避けられない、と刀に手を伸ばす。
「こっちにも色々事情があってな、大人しく捕まってくれるとありがたいんだが…」
沈黙を続ける男は、少し顔をこちらに向けその横顔を見せる。
(来るか…?)
警戒するミナトだったが、相手が突然口を開く。
「子供か…お前と戦うつもりはない。この場から去れ…手出しはしない」
どうやら戦う気ではない様だが、じゃあ帰らせてもらいますね、と出来る状況でもなく。
「…こんな格好してるけど一応長く生きててな、、それにこっちには退けない理由もあるんだ」
そう言って完全に戦闘態勢に入る。
相手がどう思っているかなんて関係ない、とにかく目の前の相手を捕まえる。
ミナトの頭にはそれしかなかった。
その様子を見て男も鍔に親指を掛け、両者の戦闘が始まる…となって所で騎士団がこちらを発見する。
「居たぞー!人斬りだ!」
「囲め囲め!」
この状況を見て、不利だと考えたのか興が冷めたのかは分からないが、男は逃走を図る。
まだ完成しきっていない包囲網を潜り抜けて行く。
(おいおい幾ら何でもこの状況で簡単に逃げられるかよ!)
ミナトも逃がさせまいと即座に追跡する。
が、直ぐにそれを辞めてしまった。
理由はシンプルで、追いつけないから。
相手は建物を障害物として使い巧みに逃げて行ったが、それだけなら追いつくことも出来た。
だが追いつけなかった理由もまたシンプルなものであり、速度が足りなかったから。
それだけである。
純粋な運動能力の差。どれだけ工夫を凝らして必死に追いかけようが、基礎能力に差が開きすぎている。
最初に一歩で遅れた時点でもう追いつけなくなっていて、それを即座に理解してしまった。
騎士団の団員達は懸命に追いかけていたが、捕まえる事は出来ないだろうと思いミナトはその場に座り込んでため息をつく。
「あいつ…俺よりも強かったなぁ…」
そう一人言葉を漏らす。
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あの男が逃亡した後、ミナトは直ぐに騎士団による事情聴取を受けた。
一連の流れを丁寧に説明すると、変に長引く事なく寮に帰れるように。
どうやら更に事件について調べていくと、複数犯である可能性が一気に減っていったらしい。
理由は幾つかあるみたいだけど、別にそこを詳しく聞きたかった訳でもないので聞くことは無く。
大事だったのはそこではなく、複数犯説が弱くなった事でミナトへの疑いがかなり晴れてきている所。
それに今回の件で相対している場面を見ていた団員も居たので、もうそう遠くない内に寮から出られるかもしれないとの事。
向こうは一応まだ様子を見たいらしく、ミナトも別に寮生活事態にそこまで不満がある訳でもないので別に急がなくてもいいと。
それよりも犯人逮捕の方に尽力してほしいと言ったので、寮生活はまだもう少し続く。
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(あいつはとんでもねぇ奴だった。結局戦うことは無かったけどそれだけは分かる。
何の対策も無しに挑んだら負けかねねぇ、、でもスタイルも何も分かってないのにどうやって対策を…?)
「?」
(幾つか飛び道具なんかも持っとくか…後は緊急用の逃走経路も決めとかなきゃな)
「ど、どしたの?」
(こっちを子供だと思ってたからな、もしかしたら手加減してくれるかも…なんてことはねぇか。こっちもそれは望んでないし)
「おーい、聞こえてる?」
(つーかそもそも別に正面から戦う必要もないし、援軍を待つってのも手な訳で…)
「ミ、ミナトさーん?ちょっとー」
(いやいやいやいや、最初から援護に期待するってのもなぁ…あいつとは一対一で戦ってみたいし)
周りの事も気にせず思考に没頭するミナト。
その様子を見て何度か呼び掛けてみるが何の返事も無かったため、アイクがポンポンと肩を叩く。
「うおっ!」
これでようやく気が付いたらしく、割とガチで驚いていた。
「うおっ!じゃないよ、さっきから何回も声かけてたのに全然気付いてくれないんだから」
「そうだったか?それは悪かった、すまんすまん」
(あっぶねー、いつもの癖で考えすぎてた)
ここは寮の食堂。
ご飯を貰って席に着いたまでは良かったものの、それから食べることも忘れて考えっぱなしだった。
「何か周りの人達もちょっと怖がってたし、前から出てるその癖気にした方がいいと思うよ」
そう言われて周りを見てみれば確かに周囲に居た生徒が若干引いている様子だった。
ミナトは気付いていなかったが、実際割と険しい顔で考え込んでいたので周りの反応がそうなるのも無理はない。
「どうかしたの?何か今日はいつもより険しそうな顔してたけど」
「…」
(先生曰く事件の事は一部の関係者しか知らないらしいし、流石にアイクを巻き込む訳にもなぁ……ってそう言えば)
沈黙を続けるミナトだったが、思い出した様に話始める。
「俺さ、皆の事いまいち知らないんだよな」
「!?」
真顔でそう話し始める様子を見て困惑するアイク。
さっきまで手を付けていなかったご飯も食べ始めているが、一体何を考えているのか分からないようで。
「そ、それはどういう…?」
「いやさ、一応同じ学校に通ってるんだしもうちょっと知っといた方が良いかなぁって」
そう聞いたアイクはまだ不思議そうな顔をしていたが、ミナトは至って真剣である。
ただ知ろうとする理由はただ仲良くなりたいから、とかではない。
これも呪い関連の事だ。
(占いでは第四魔法学園に呪いを解く鍵がある、って言ってたからな。もしかしたら鍵はこっちにあるかもしれないし、どんな些細な事でも見逃すわけにはいかない!)
せっかく自宅に帰れたのにそれを遅らせた理由もこれである。
寮に居ればもしかした何か分かるかもと思ったから。
現状呪いに関しては手掛かりが殆どゼロであり、この学園に来てからも全く進展は無かった。
だから積極的にチャンスを掴むためにどんな事でもやろう!という精神。
「アイクって話すの上手いし、結構交友関係も広いんじゃ?」
「え?うーんまぁ確かにクラスの人となら殆ど全員話したしある程度は…」
「本当か!?」
恐ろしい速度で食いつく。
「う、うん。そうだね?」
あまりの勢いに思わず疑問形になってしまう。
ここまでミナトが食いつく話題というのも珍しいので無理もないが…。
「頼む、教えてくれ!このとーり!」
手を合わせて頭を下げる。
{本当にどうしたんだろうミナト。まぁでも皆に興味を持つことは良い事だよね!せっかく頼ってくれたんだし、期待に応えなくちゃ!}
「分かった!僕が知ってる範囲なら色々話すよ、まずはねぇ…」
こうしてミナトのクラスメイトを知ろう作戦が始まる。
呪い、人斬り。更には魔族まで。
考える事は山積みであるが、今出来ることを全力で。
このスタンスのミナトはとにかく今出来る事をその時に頑張る。
色々と殺伐とした事も多くなってきているが、今は少し、楽しそうにしている。




