第三十七話 咄嗟の判断が勝敗を分けるの、、好き
アフィスはアレウスが作った魔法だ。
最初は自分の名前とかけて作った技名に色々言ったりしたけど、結局は俺も気に入っちゃって。
あいつが初めてアフィスを使ったときはまだメンバーが揃ってなかった時で、もう少しで全滅しそうっていう時に突然使い始めた。
本人曰く剣だけじゃなくて体にも魔法を付与できたらいいのに、という発想から密かに練習していたようで、成功したのはあの時が初めてだったと。
その後もこの魔法を使い続けて、次第にアレウスを象徴するものになっていった。
旅の後半には戦う魔族も皆アフィスを知ってて、でも通用しなくなっていくかも、何て事は一度も考えたことは無かった。
だってあいつは常に進化させ続けてきたから。
弱点がバレていても次に戦う時までには克服してたり、別の部分で補ったり。
進化させ続けるだけじゃなくて、使う方を工夫したりもしていた。
俺はこの世の誰よりアフィスを見てきた自信がある。
ずっと俺の隣で戦い続けていたあいつ。
今俺の視界に映っている少年と重なる部分がある。
そりゃ血が通ってるんだし、って思うだろうけどそうじゃない。
ああやってあの魔法を使って駆け回っている姿は、本当に似ている。
だからこそベルが次に起こす行動について、この場に居る人間の中で俺だけが予想できた。
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『ベル選手の猛攻!!絶えず動き続けて、相手を混乱させています!』
クロムに接近、何度か打ち込み、距離を離す。
先程からのベルの行動は、変わらずこの動作のみ。
時には後ろを突いてみたり、若干動きに緩急をつけているもの、基本は変わらない動き。
一見すると攻めあぐねている様に見えるかもしれないが、これも作戦の内である。
{そう簡単に隙を晒せる相手じゃない、タイミングを間違えれば負けるし、長引けばアフィスが切れて負ける。一瞬を見極めるんだ}
『物凄い攻撃ではありますが、クロム選手これを上手く防いでいます!時には魔法も使いながらベル選手の攻撃を跳ね除けていく!!』
会場に居る殆どの人間がベルの動きの意図を理解できていないが、その中で確信をもって次の行動を予測している男が一人。
(地面から雷を流して痺れさせるつもりか…あれをやるには剣を直接地面に刺さなきゃだし、これまでの様子から見て射程距離もかなり短そうだな。
今は隙を作ろうとしているんだろうが果たしてクロム相手にそれが出来るかどうか…。
そもそもこれは相手を仕留める実戦じゃなくてバリアを割ったら勝ちの試合だ。
下手に痺れさせようとするよりも直接攻撃した方が有効な場合もある。その直接攻撃が難しいから狙いを切り替えたんだろうけど…)
そう、これはあくまで実践ではなく試合である。
何があろうと先にバリアが割れた方の負け。
{マズいな、もう直ぐアフィスが切れる。その前に何とかしないと…}
何度も粘り強く隙が出来るまで攻撃を続けるも、その隙が生まれない。
少しの焦りがベルに積もっていく。小さな小さな焦りが。
{何か使える技、戦法。今まで教わってきた、些細な事でも思い出せ!}
その焦りを抱えたままクロムに接近。
攻撃を繰り出すも、やはり有効打は出ず。
本当にマズいと思ったその瞬間、一つの閃き。
閃きと言うには単純なものであるが、今の目的を達成するのには適しているもの。
ベルは咄嗟に、右足で蹴りを繰り出した。
特に何の変哲もないただの蹴り。崩れた姿勢から突然足を振るう。
アフィスで強化されてるとは言え、本来クロム相手に有効になるものではない蹴り。
事実その蹴りは躱される。
だが、突拍子の無いように見えたその行動によって。
クロムに一瞬の隙が生まれる。
{今しかない!}
その隙を見逃さなかったベルが、地面に剣を突き刺す。
「っ!」
この時大会が始まって以来一切表情を動かさなかったクロムの、その鉄の仮面が崩れた。
アフィスによって纏われていた雷が地面を伝い、クロムに流れる。
痺れによって一瞬かもしれないが動きが止まる。
{入った!このまま…!}
止めを刺そうとした瞬間、ベルは一つ悟った。
それは目の前に広がる光景が、もう自分ではどうしようもないものだと分かったから。
クロムの手元から放たれている火属性魔法。
最初の一撃と違い今度は魔法、避ける以外の方法などない。
しかしもう避けれる程の位置ではない。
{あぁ…ここまでか}
次の瞬間、炎がベルを包んだ。
当然バリアは破損。
試合の勝者はクロムとなった。
「し、、試合終了!いつの間にか試合が終わってしまいました!最後一体何が起こったのか分かりませんが、とにかく分かる事は決勝戦に進むのはクロム選手!決勝戦はミナト選手対クロム選手の対決だという事!!
そしてこの試合が本っ当に素晴らしいものであったという事!』
実況が言葉を発するまで、会場は静まり返っていた。
最後の攻防が何だったのか理解できなかったから、そして理解できたものはそれに見入ってしまっていたから。
この試合を見ていた強者達は、この戦いがどれ程のものであったかが理解していた。
ベルが一矢報いる為に決行した作戦、そして咄嗟の起点。
それを全てではないが、一部を読み取り対策をとったクロム。
この試合を見て何を感じたのか。
そこが今の境界線であり、彼らの現在の実力。
{あいつらはどこまで分かったかな。と言うよりどこまで分かろうとするか、と言った方が良いかもしれんな。
頑張れよ、私の生徒達}
これからの彼らに期待を抱く者。
{…あいつもかよ。魔法だけなら負けないけど、、、最後のは…}
正しく理解した上で、張り合おうとする者。
{僕はまだあそこには辿り着けない。あの人達みたいにはまだ…でもいつか絶対に…!}
自身との差を感じながらも、追いつこうとする者。
「…」
(決勝の相手はお前か、クロム。ここまで上がってきてくれたのはありがたい。
お前が居たから俺はこの大会に出たんだしな。…まぁ戦いたかった奴もいるけど)
同じ舞台に立ち、ライバルとして戦う者。
聖魔祭一年生の部、個人戦トーナメント決勝戦、ミナトVSクロム。
始まりは、もうじき終わりを迎える。




