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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
174/175

第百六十八話 バースデーにはサプライズしてハッピーになってもらおう

朝。

まだ校舎に人は少ない時間帯から、ミナトは登校している。

落ち着けて集中出来る場所としてここで朝一のニュース記事を見たり。魔族関連等の問題処理についてじっくり考えたりとする際に都合が良いのだ。


だからまだ誰もいない教室に今日も一番乗り……と思っていたのだが。


(誰か居る?と言うよりこれ…)


明らかな違和感を覚えつつ、教室の扉を開けるとそこに居た人物。正確には人物達に驚く。


「こんな早くから皆何やってんの」


確認する限りクラスほぼ全員が見える。

何人かは集まって机の上で何かを作っているし。

また別では壁やら窓を見て、時折指を指しながらあーだこーだ言い合いっていたりと。


学園祭の時にも近い空気間が漂っている光景だ、


「お!来たねミナト。つか平常運転でこの早さなのマジだったのね…」


クラスメイトの一人が彼に挨拶をしている間に、特に仲の良い一部メンバーが寄って行く。


「で、これ一体何やってるの?」


「ふふふ、これはね。今日という日の為に皆が揃って準備しているところさ」


フラジオが高らかに言っていると、教室の扉が再び開かれる。

入って来たのはルチアだ。


「ルチアさんもおはよー!って事で、全員揃ったかな」


一応挨拶に対して。ん、とだけ返して自分の席へと歩いて行く。


「あのルチアまで来る用って本当に何だ?また聞かされてないだけで今日特別な授業でもあるのか?」


まだ事態を掴めていないミナトに対して、オーズからの説明が入る。


「そんな畏まった話じゃないよ、ただ今日はある人にとって特別な日なのさ」


「ある人?」


「そう。まぁ教室をざっと見渡してみて気付く事はない?」


そう言われ、いつもより早い時間に全員が集まっている教室を見渡して……とここで気が付く。


「待て、さっき全員って言ったな?アイクはどうした」


「それだよそれ!もうほぼ答え出てるよ!」


「……?」


ある人にとって特別な日、とまで言われているのに気付かないのは鈍感か?と思うかもしれないが。

彼には気付かない理由…事情もあるにはあるのでそこは後回しに。

結局答えはトロールが伝える事になった。


「誕生日なんだよ、あいつの」


「ああ!」


ここでようやく合点がいった様子。


「普段は寮でちょっとしたパーティーをやったりするだけなんだけど……アイクはこの前の活躍もあるし、皆世話になってきてるからな」


「今回は先生にも許可を取って教室に飾りを着けて全員で祝おうとなったんだ」


「にしてもよく話が進んでたな。それこそ寮でもアイクが居るだろし、本当に全員集まってるのも驚きだ」


某魔法使い少女をチラ見しながら。

チッ、と舌打ちが聞こえたが気にしない振りをして会話を続ける。


「実は君に陽動の役割を担って貰ってたんだよ?」


「え?」


「ほら昨日も二人で足早に教室から出て行ってたでしょ?帰りも遅くなるし、絶好の機会だったよ」


「あー……確かに普段直ぐに帰るような奴等もまだ残ってたなよくよく思い出してみると」


特段おかしな光景でもなかったから気にしてなかったが、確かに思い返せばそんな事もあったとなる。

人間案外気付かないもんだと思いながら、ミナトは計画の内容を聞き出す。


「まぁ分かった、で?こっからはどういう流れなんだ」


「流れって言ってもそんな大層な事はしないさ。

飾り付けた教室で一斉に祝って驚いて貰ったら後は普通に授業を受ける。帰ったら寮でちょっとしたパーティーをするくらいだよ」


「その寮でやるパーティーってのが、普段やってるっていうやつか……。んでなんでアイクの時はここまで皆張り切ってるんだ?」


最大の疑問はそこだ。

確かにクラスでも人気の高い人物ではあるが、全員が全員わざわざ朝早く起きて迄祝おうと思う程好いているとも思えない。

それにルチアやソニアのように、こういった行事に特別前向きでない生徒まで漏れなく居るのも気になるところ。他の生徒ならまだしもルチアは仮に同調圧力等があったとしても従わないタイプなので空気を読んで皆が集まっているのでもなさそうなのがまた気になるポイント。


「そりゃさっきも言ったけど、この前……課外授業での活躍があったからな」


その疑問に答えたのはオーズ。


「話は聞いてるだろうけど本当にあの時頼りになったんだよ。

形式上の学級代表じゃなくてさ、土壇場で指揮をとってクラスを纏めあげたんだ」


続いてトロール。


「希望が見出せず皆恐怖と絶望に心を支配されそうになってた中で、誰よりも先に希望を示してみせた」


最後にフラジオが一言。


「あの場に居た誰も出来なかった事を成してクラスを救ったんだ」


その会話を一部聞いていた他のクラスメイト達も、本当に同じ気持ちらしい。

彼らの顔を見たミナトが一目でそう分かる程全員の意見が合致しているようだ。


「あれからまだ一週間も経っていない中、そんな人物が誕生日ともなれば皆祝いたいものだよ」


「……そう、、だな」


(確かに旅をしてた時も誕生日だけは祝ってたな……)


クラスを導いたリーダーに、厳しくも誠心誠意成長を促してきた弟子に対してではなく。

一人の友人として。

彼にもアイクを祝う理由は充分ある。


「よし!俺も何か手伝おう、出来る事はないか?」


「ほんと?じゃあこっち手伝ってくれー!」


どうやら飾り付けの人手が足りていないらしく、そちらに呼ばれる。


「今行くよ!」


「待って」


「?」


呼ばれた方に行こうとする直前、フラジオに引き止められ。顔だけ振り返り話を聞く。


「アイク君が来ないかだけ一応探知お願いしても…いいかな?」


思っていたより現実的?というか打算的、言いようによっては都合の良い話に。若干の薄笑いを浮かべながら答えを返す。


「まぁいいけど……なんか変わったな」


「使える手は使った方が良いとこの前気付いたんだよ。特に探知なんてのは思っていたより重要度の高いものだったしね」


「おうおう好きに使え。学校に来たら報告するよ」


「お願いするよ」


アイクは真面目で勤勉だが、特別朝が強い強い訳ではなく。

出来る限り寝ていたいタイプで普段の登校もあまり早くに行く方ではなく、寧ろ遅い部類なので。

皆もいつもより少し早く動くだけで時間は簡単に作る事が出来る。

因みにミナトに声が掛からなかったのは、聞かさない方が自然で悟られなさそうだからというのと。言わなくても早くに来るのが分かっていたから。





こうして始まったアイクの誕生日サプライズ計画。

準備をしている最中ミナトは、数人に今回のサプライズについての話を聞いている。

聞いた内容はシンプルで参加した理由と、正直面倒に思ったりはしていないのか。というもの。


帰って来た答えは様々だったが、概ね皆アイクへの感謝から動いているのだと。


日頃から積み重ねてきた人徳も勿論あるにはあるが。先日の課外授業が決定的な理由だというのが一番多かった。


(流石の人の良さだな。ただ単にコミュニケーション能力が高いとか、リーダーシップがあるとかじゃなくて。本人の人となりが素晴らしいからこその周囲の評価だ。

本当、お前は自分で思ってるより凄い奴だよ、アイク……)


と、色々話を聞いたり心の中で考えたりしながら準備を進めていると……。








「そろそろだぞ」


ミナトの小さな声に、皆が静かに息を呑み込む。


いつもと違い華やかに飾り付けられた教室の中で、各々が配置につきその時を待つ。


コツコツ。

足音が近付いてくるにつれ、本日の主役とその足止めに向かっていたオーズとトロールの声が聞こえてくる。


そして、教室の扉が開かれると同時に姿を現す。


「皆おはよー……?」


自分の知っている教室と違う光景だと認識した次の瞬間。


「「「「「アイク誕生日おめでとーーー!!!」」」」」


隠れていたところから一斉に姿を現し、二十一名の生徒の声と共にクラッカーの音が響き渡る。


「え!?何!な、、え?」


困惑やら驚きやらが強く、反応がいまいち乗り切っていないアイクに対し。

一緒に廊下を歩いて来てさっきも後ろからクラッカーを飛ばしたトロールが一言。


「お前の誕生日を祝う為に皆集まったんだ」


「嘘!ほ、ほんとに?」


まだ信じられない、と言った様子を見て一部からはヤジが飛び始める。

やれ反応が悪いだの。もっと驚くか喜ぶかしろだのと。


そんな様子をみかねたように、教室の扉の一番近くで待機していたミナトが言葉を掛ける。


「こういう時は取り敢えず素直になるのが良いらしいぞ?」


微妙に分かりそうで分からなそうな言葉だったが、流石師弟。バッチリ伝わったのか。


「皆……皆ありがとーー!!」


大きな笑みと声で喜びを表現し、納得がいったのかクラスの皆も更に大盛り上がり。

何かしら叫んでいたり追加でクラッカーを鳴らす人物が出てきたりとてんやわんやの教室内。

普段は真面目に授業を受ける場所でハメを外せるギャップが楽しいのか、廊下から教室を覗きに来る他クラスの生徒が来始める始末。


「先生に許可取ってるから大丈夫なんだよな?」


「ああ。HRだってやってないだろうからこれだけ騒いでも大丈夫だ」


一応心配になりトロールに耳打ちして確認をとる。


(ほんと愛されてるよ、アイク)


流れで教室の仲間で流されクラスメイト達に囲まれていたアイクを見て、ミナトもどことなく嬉しそうな表情だ。


「お前は行かなくていいのか?オーズはもう行ってるみたいだけど」


教壇近くで出来ている人だかりを見ながら、扉付近で話すミナトとトロール。


「あそこまで囲まれてるとちょっとな。別に今しか祝えない訳じゃない、また後でゆっくり話すさ」


「分かんないぞ?今日は一日あんな調子かも」


「それはないと思うな」


意見の正解不正解はともかく、一瞬でないと言い切った事に疑問を持ち。

人だかりの方から隣に居るトロールの方に視線を向ける。


「いやまぁ確かに一日中は考え辛いけど、お前がそうとまで言い切るとは珍しいな。なんか理由でもあるのか?」


言ってしまえば雑談の最中の一言に対して突然正論を投げ掛けたようなもの。

別に冗談を言うタイプではないにしろ、あえてそれを咎めたり空気を読まない訳でもないトロールがこうも言い切るとうい事に対しミナトは違和感を覚える。


「分かるさ。寧ろお前が本気で気付いてない事の方が珍しいんじゃないか?どうやら人間関係に関しては普段の察しの良さはあまり働かないらしいな」


「なんだ?やけに今日は乗り気というかなんというか、ちょっと攻撃的だな」


「それはすまない。何も不快にさせたかった訳じゃないんだ、ただ思っていたより鈍くて少しな……」


ムカつくとかそういう感情は一切ないが、珍しい言動に驚いているだけだ。

寧ろ普段見れない一面を見れたこと自体は喜ばしいと思っている程。


「先に言っとくが、皆思ってるよりもお前に嫉妬してるぞ」


「ん?」


ただ気になっているのだ。


トロールの意味深な発言と、先の出来事が分かっていると言う風な態度が。


それを今日一日でミナトは理解していく事となる。

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