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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
172/175

第百六十六話 影響を与え合うような関係性が理想だと思うんだ

昼休み、食堂。


「で?結局最後は体力も魔力もなくなって気絶、と」


「……はい」


個人面談の後、正確にはその間の休み時間にミナトからアイクに向けての説教が行われていた。


「最後まで諦めずに立ち向かう度胸は良い。ただ実際に向かって行ってどうする、結局助けられなかったら自分どころか後ろに居る皆すら危なかっただろ?

普段のお前なら全員で逃げる算段を立てる位はしてた筈だ」


「返す言葉もない……」


「挑む度胸も、最後まで戦い抜く根性も大いに素晴らしい。ただ冷静さを失うな最後まで」


食事をしながらもズバズバと告げていく。


そもそも戦いを挑んだ無謀さから始まりそこから細部に至るまで。

あらゆる駄目出しがアイクの心をブスブスと刺すように飛び交っている。


「だが……ソニアさんを助ける為に魔力による加速を使った判断は良かったな。よく咄嗟に判断したものだ」


「っっ!そ、そうかな…!」


{喜んでる}


{めっちゃ嬉しそう}


テーブルを二人と共に囲んでいるトロールとオーズは、アイクの歓喜に満ちた一瞬の笑顔を見逃さなかった。


「消耗し過ぎて後の動きが悪くなったのは感心しないがな」


「う……だよね」


「魔力による身体強化は強力だが消耗が激しい。使いどころの練習もこれからはしていくとするか」


「お願いします…」


「元から魔力量が多い訳じゃないなら基本は素の体力を伸ばす方に注力していきたいが……」


「……どうしたの?」


明らかに続きのありそうなところで言葉を止めるミナト。


その頭の中に過ぎった考えは、先の遠征で偶然戦闘となったライコウの事についてだった。


(どう考えても限界を超えた動きだった……確かに生命力を削って魔力不足を補ったり出来るとは言うが、それにも限度がある筈。あいつは最後どうやって……)


生物の限界そのものを超えたような。

少なくとも数百年の時を生きるミナトですら理解の出来ない現象を思い出し。

つい考え込みすぎて黙り込む。


「えっと、、本当に大丈夫?」


「!すまんな、少し考え事をしていただけだ。気にしないでくれ」


(ライコウについてはまた後でだな。それにもし奴について考えるなら、どうやってあんな動きをしたのかよりも。何故あそこまで歪んだのかを考えるべきだし。

今はそれよりも皆の成長に繋がる事をなにか……)







その後は軽い会話を交わした後、全員が食べ終えたので席を立ち教室へと戻って行く。


「いやーあん時のアイクはマジ速かったぞ。俺はあんま見えなかったけど、一瞬で移動してて普通に見失ったし」


「俺は丁度魔法を防いでいたから分からないが、皆あれからそれずっと言ってるな」


「うぅー…あの時だけね?結局その後は鈍くなっちゃったし」


最中、話題となったのはアイクの例の疾走。

ソニアを寸でのところで助けた時の神がかり的な場面の時だ。


「話しではあの先生とも同じ位とか聞いてたけど、結局その後格の違いを見せつけられたんだって?」


「そうだよ!そもそも過大評価なんだって……あの人と比べられるのは流石にまだ烏滸がましすぎるよ」


「まーあん時の先生はな。思い知らされたよ、まだ次元の違う存在だって」


アイクの走りを見た生徒達は、あのミケーレとも並ぶんじゃないかと一時は感じたものの。その後現れた本人の次元の違う動きに圧倒され。

並ぶという評価は結局定着する事は無かった。

それでも一瞬そう思ってしまう程のレベルであった事は確かなのだが。


「まぁでも、あながち同じ位速く見えたってのは間違ってないんじゃないか?」


「どういう事?」


しかしここでミナトがある持論を述べる。


「勿論推測でしかないし、と言うより俺はそのどっちも見てないから本当に分かんないけどさ。

多分先生って本気出す事少ないと思うんだよ。余程の事態じゃなきゃ本気を出すまでもなく片が付くし」


以前からずっと強さについては疑ってこなかったが、未だに底の見えない彼女についてミナトは度々考えていた。


一体彼女はどこまでの存在なのかと。


「で、今回は本当にマズいと思ったから本気出したんじゃないか?だからこれまで俺達に見せてたスピードとは本当に同じ位だったんじゃないかなって思うんだ」


「……まぁそれは、、確かに言われてみれば?」


「本当に推測だぞ?でももし俺の意見が合ってるなら、お前の速度はもう入学時とは比べ物にならない……ん?」


仮説を立てたと同時に、頑張った弟子を褒めようとした時。ふと気が付く。


「アイク、ちょっとじっとしててくれないか?」


「え?いいけど、急にどうしたの」


「「?」」


一緒に歩いているトロールとオーズも足を止め、アイクをじいっと見つめるミナトの次の言葉を待った。


「お前……背伸びたな」


思っていたよりも普通の言葉に二人は肩を抜かしたが、言われた本人はとても嬉しそうな表情を浮かべ。


「本当!?僕、背伸びてる?」


「正確には分かんないけど、初めてあった時よりかは確実に」


「やったー!!」


はしゃぐアイクを他所に、トロールがミナトに声を掛ける。


「よく分かったな、全然気が付かなったぞ」


「ん?まぁ目は良い方だからな。それに……」


「それに?」


「……お前と違って目線が近いから分かりやすいんだよ」


学年でも最高身長を誇る人物を前に、顔を背けながら呟く。


「つっても俺も気付かなかったし、本当に目良いんだな」


そこに身長の近いオーズが口を挟む。


「間合いを図りまくってるうちに高さも分かるようになったのかも」


「お前の場合おふざけが入ってるのかガチなのか分かり辛ぇな……」


「…はは」


珍しく冗談めかした事を言うミナトだったが、本当は気付いている。

何故アイクの成長に自分だけが気付けたのかを。


(俺はお前らと違って、背は伸びねぇからな……)


呪いの影響もあってかどうかは微妙なところであるが身長がずっと止まっているのは事実としてあり。

平均よりも低い背は彼にとって若干のコンプレックスでもあるのだが。

今回の場合は寂しさも少し含まれている。


皆多かれ少なかれ成長はしているから中々気付きにくい部分もあるのだろうし。ミナトからすれば数ヶ月前の出来事などつい昨日の事レベルで思い出せる。

だから背の比較も出来たのだ、目が良いのも一応あるだろうけれど。


(…ちょっと待てよ。

他の皆も同様にアイクの成長は著しい、特に速度面に関しては幾ら言っても伸び率は以上だ。

特異点は確か身体に例の霧が作用してその部分の能力を通常では有り得ない程のレベルにまで伸ばす、って仮説があったな)


そこからふと、ミナトはまた新たな事に思考が繋がる。


(もし特異点が身体に深く繋がっているのなら、体の成長に合わせてその影響が…効果が強くなっていく事もあるとしたら?)


純粋な成長にプラスして特異点の成長が上乗せされているのなら。

もしそうだとすれば、アイクの異常な速度アップにも説明がある程度つく。


(特異点の種類にもよるだろうが、成長期真っ只中の皆はここから更に加速度的に成長が速くなっていく可能性も……っはは)


実際そうであるかどうかは置いておくにしても、皆の成長速度は尋常ではない。


特異点にしろそうでないにしろ、末恐ろしいと言える程に。


(皆が俺を超えていく日もそう遠くないってか?面白れぇ、面白いじゃねぇか)


いつかと思っていた日が、想定していたよりもずっと早く訪れるかもしれない。

だとしたらそれは彼にとって僥倖だ。


(俺も幾ら歳をとったからて、成長を止める気は無い。より強くなった皆と競い合って行けば、俺もまだまだ強くなれる……!)


ならばもっと早く強くなってもらい、そして自分と競い合ってほしい。

皆の成長を期待する気持ちと自身が強くなりたいという願いは両立する。

湧き上がってくる彼の武人魂とでも言うべき部分が、一気に高揚感を掻き立て。廊下でずっと止まったまま突然楽しそうな顔を浮かべ始めるミナトは。


端から見れば少し奇妙にも見えるかもしれないが実際。とても純粋に楽しんでいるのだと分かる顔をしていた。


「……アイク」


テンション上がりまくりのところ名前を呼ばれ、そのまま呼ばれた方へ振り返ると。


「今日から特訓はもう一段階ギアを上げる。放課後までに覚悟決めとけよ」


新手の死刑宣告だろうか。

これにはトロールとオーズも突然の発言にドン引いていたし、アイクも喜びに満ちた顔がみるみる青ざめていく。


「……お願い、、します!」


「「!?」」


いきなりの発言によってテンションの差がとんでもない筈なのに、それに応える様子を見て二人は更に驚愕。

最早この人物達は自分達と同じ時間の流れで生きているのかと疑いたくなる程の変わり身の早さと。

尊敬どころか畏怖すら抱いてしまいそうになる程のストイックさを目の当たりに。


{アイク……お前無事に帰って来いよ}


{流石だな。今日は帰る前学校に寄って行こう、動けなかったときの為に}


心の中でそれぞれ無事を祈りながらも、同時に自身のやる気も湧き上がり始めていた。

同級生として、友として、高め合う相手として、負けない為に。

そしてその熱が伝播しているのはこの二人だけではない……。


少しずつ、クラス全員の熱は強くなっていき。


明らかに進化し新たなレベルへと至ったアイクを見たのをきっかけとし、熱は更に強く。

皆の心を変えてゆく。





だが彼らはまだ知らない。

自分達が成した戦いの成果が、どれだけ大きなことであるのか。


知らずの内に踏み込んではいけない領域へと踏み込んでしまっていた事を。

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