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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
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第百六十五話 戻って来た

「……とまぁ、大体こんなところだな」


課外授業で何があったのか説明を受けたミナトは、複雑そうな顔をしながらため息を吐いていた。


ざっくりとした説明で。

授業中なんやかんやあってクラス全員が同じ洞窟に避難すると、なんとビックリそこにはホワイトワイバーンが。

外にも魔物がうじゃうじゃ居るので安易に出ることも出来ない状況となった結果。アイクの発案により中でワイバーンと戦う事になり。

ルチアを中心とした作戦で健闘したが、最後の最後で一歩及ばず止めを刺しきれなかったところを。実は近くで様子を伺っていたミケーレが駆けつけて事態に決着を着けた。


ミナトが受けたのはおおよそこんな感じの説明だった。


「その……近くで様子を伺っていたって言うのは?話だと結界のせいで外からだと中の様子はわからないんじゃありませんでしたっけ」


一通り頭の整理を付けた後、どうしても気になる部分だけを聞く事にし。

最初に投げ掛けた質問がこれ。


「他の先生達がずーっと止まってるもんだから、何かあったのかなーって私がちょっと前に行ってみれば。結界が張ってあるのを気付いてさ、それを解析、解除してもらって外から探知出来るようにしてたんだ。

いざと言う時駆け付けられるようにな」


(ルチアや他の先生方すら気付かなかった結界を見破る、か……例の魔眼の能力なんだろうけどやっぱ流石だな)


「……随分リスクの高い事をしたんですね」


「過保護にしててもそれはまた問題だからな。それに、実力を信頼していたから見守る方向性にしたんだよ」


「他の先生から結構反発あったんじゃないですか?」


「そりゃあったさ。でも、私ならホワイトワイバーン位一瞬で止めれる。って言ったら黙ってくれた」


「いつもの力押しって訳ですか」


本来と意味違うけど。

と内心思いながら言葉は止めずに言っておく。


権力ではなく実績のある実力で通しているので、一応ミナト的にはギリギリセーフらしい。


「……まぁ、まぁ分かりました。もっと細かい事は当人達に聞きますから。わざわざ説明ありがとうございました」


「私達の仲だろ?これ位はしなきゃいけない関係だよ」


言い終わった後直ぐ、じゃあこの話は終わりだから次の話だな。と一瞬で切り替え。

ある手紙を取り出し机の上に置くミケーレ。

それを見て、本当に強引な人だな…と思いつつその中身を確認しようとすると、送り主の記載を見て中身を察する。


「成程……だから早々に話題を切り替えたと」


世界武術連合組合。

課外授業直前に届いたその手紙は、今年に開催される大規模な大会への招待状。


中身を開ける前から気付いていながら一応確認し一言。


「俺は出ませんよ」


「話しが速いなほんと」


招待の文言が記載されている部分を見て早々に告げる。


「天武決定戦、でしたっけ。大会の名前」


「そんなに興味ないのか」


「興味がないって訳ではないんですけど、、、一生縁のないものだと思ってたので…」


「つまりないんだな。まぁいいと思うぞ?お前表舞台に出るのあんま好きじゃなさそうだしな」


不老の事を考えると、あまり人前で顔を晒し過ぎる訳にはいかない。

世界を旅している道中でもちょくちょく顔を隠す装備を付けたりしていたのに、わざわざ大規模な大会に出るなんて意味が分からない。

だから出場する、なんてこれまで微塵も考えた事がなかったのだ


「聖魔祭も私が言ったから出た部分もあるだろうからな。今回は無理にとは言わん」


「助かります、返事は学校経由になりますよね?その時はまたお願いします」


「構わんが、もう少し考えるフリでもしたらどうだ?他の先生とかの前では今のやらない方がいいぞ」


「分かってますよ。それを分かってる上で言ってる事も含めて」


「社交辞令ってのは必要だ。お前にそれが身に付いてるのは分かってるが、一応通しておく必要があるんだよ。私は先生だからな。立場ってやつさ」


互いに互いの事を信頼してるが故にいつも会話のテンポはすこぶる良い。

今だって、返事がなんて帰って来るかを分かっていたから成立する会話をしている。


「あ、そうだ……一応聞いておきたいんですけど」


そんな中、今思いついた風のミナトがある事を口にする。


「どうした?」


「この招待状、正確には招待枠って誰かに譲れたりするんでしょうか?」


「……考えたな」


幾ら出るかどうかは自由とは言え、この招待はあまり断るものではない。

特に今回は例年とは違い上級生ではなく下級生に話しが来たのだ。

それは恐らくクロムやルチア、ベル等話題性のある生徒達が多くいた年に覇者となったミナトは。さぞ呼びたい人物だろう。


少なからず集客を期待してのものであった可能性は拭いきれない。

だから単に断るだけでは向こうの思惑が敵わないどころか、出場拒否ともなれば面子とやらがよろしくないのだ。が……。


「誰に渡すつもりだ?」


大方予想はついていながら一応確認をとるミケーレ。


「アイクですね」


「だろうな」


本来であればクロムに白羽の矢が立つ場面なのだろうが、ミナトは相手の面子など何も気にしてはいない。


「招待枠を譲渡出来るかどうかは後で確認する。前例があるのかすら分からんからな、今ここでは判断できん」


「お願いします」


別にアイクが悪いって事は何一つないのだが、もし本当に向こうが話題性を気にしているのなら。

正直適任は他に居るというだけだ。

そもそも学生に期待するものでもないと思うのだが……運営とやらも色々大変らしい。


と、また話が一つ終わったところで。


「じゃあお願いされたついでに一つ、質問に答えてはくれないかね」


今度は彼女の方から質問が飛んでくる。

面倒な事じゃなければいいな、と思いつつミナトはこくりと頷く。


「プライバシーもあるから詳しくは聞かんが…アイクとは、、何だ?どういう関係なんだ?」


一見するとちょっとマズい質問な気もするが、本人に一切他意はないのでセーフにしておこう。

ミナトもそれ程隠す事でもないと判断し直ぐに返答を返す。


「実は以前弟子入りを志願されまして。なので今は師弟、ってやつですね」


「弟子か…良い相手に巡り合えたな」


「……俺はそんな良い師にはなれませんよ」


「おいおい、私はどっちの事も言ったんだ。お前も良い弟子を持ったし、アイクも良い師匠を選んだ」


「良い弟子ってのはまぁ確かですね」


「固いなぁ。お前は時々固い」


「昔、鉄みたいに溶かして叩いてもこいつは変わらない。って言われた事あるので」


「随分尖った事言う奴もいたもんだ」


「正直ルチアの方が全然マシな位尖ってた奴でしたよ」


「……今日はえらく喋ってくれるな」


その発言で、確かにと気付く。


いつも会話が弾まないとか、必要のない言葉は交わさないとかではない。

だがここまで気軽な感じで話したり。

特に珍しいのは昔の話を持ち出した点。


「……確かにそうかもしれませんね」


別に特段上機嫌な訳でもないし、今の会話がめちゃめちゃ楽しかったとかでもないのに。何故いつもより言葉が出てくるのか。


理由は直ぐには分からず、一度黙って考え込んでみる。


(あんまり昔の話はこれまでしてこなかったのにな。こんな無意識に出たのは初めてかも)


旅仲間であったエルに言われた一言。溶かして叩いて…のくだりだ。


誰かを励ます為であったり、理由があれば昔の話を多少ぼかしたりしながら話す事はあっても。

無意識レベルでスッと出たりはこれまでにはなく。

意図的に昔の話を出さないようにしていたのにも関わらず、何故今出たのか。


しかし意外な事に、少し考えこめば理由はなんとなく浮かんで来た。


(無茶な事したな……あいつら)


無茶だ、危険だ、無謀だ、辞めておけ。

かつての旅の中で幾度となく言われてきたこの言葉。

昔は、そんな事言われてもやるしかないんだよ!位の気概で聞かなかったりしていたが。今となっては。


ホワイトワイバーンと戦ったと話を聞いた時は、本当にどれだけ危険な事を……と。

若者の無茶を諭す側に。


変わった自分に嫌になった訳でも、かと言って彼らの無茶を肯定することも出来ないが。


命を懸けて冒険をしたという事に対し、嬉しく思ってしまう自分も居たのだ。


だから無意識の内に気が乗って。

昔の事を思い出して、その時の話が出てきたのだろう。


(ったく)


やや困ったようにしながらも、確かに笑みを浮かべるミナトを見て。彼女が最後だと一言。


「お前があいつらに何を言うのかは知らんが。どうやら課外授業の話はあえてしなかったそうだぞ?」


「…そうですか」


「褒めるも叱るも私達教師の仕事だ。だからお前は好きに、思うように言葉を掛けてやったらいい。

立場なんてないんだしな」


_________________________________________________________


少し長かった個人面談が終わり、皆が各々ペアを組み剣術の打ち合いを行っている場所に着く。


その中で次に面談へ呼ばれている人物の元まで歩み寄る。そしてその人物こそ……。


「アイク、次お前だぞ」


「!」


声を掛けられて一瞬肩をビクっとさせミナトの方を向くアイク。


恐らく怒られると思っているのだろう。

課外授業の件は最初ミケーレから話してもらおうとクラスで決めていたのだ。

これはある種の逃げの選択でもあったのだが、結果はどうだろう。


危険な戦いを挑んだとか、その挙句倒せなかったとか。

グルグルと頭の中で指摘を受ける図を想像するアイクだったが。


言われた言葉は通り過ぎざまに一言だけ。


「聞いたぞ。頑張ったな、アイク」


ポンと肩に手を置き、本当にそれだけ言って通り過ぎて行き。

元々アイクとペアを組んでいたトロールの所まですたすたと歩いて行き。普通に会話をする。

一瞬。

呆気ないとも言える程の短い時間。


たった一言だった。


それでも、嬉しかった。


静かに笑みを浮かべると同時に、零れそうになる涙を堪えながら面談室まで向かう。







「えらくあっさりだったな」


アイクが遠くなっていくのを見届けてから、トロールが一言。


「言いたい事も言うべき事も山ほどある。今はそう時間のある時じゃなかったから、あれでいいんだよ」


信頼関係がキチンと築かれている事は知っているので、それ以上追求する事はせず。

さっさと始めるか。と剣と盾を構え始める。


「最近相手してもらってなかったからな。俺の成長も見てもらおうか」


「お前の方も聞いたぞ?盾の扱い上達してるらしいじゃないか。どれ、ここは一つお互い全力で打ち合おうじゃないか」


「……お手柔らかに頼む」


その後ボッコボコにされながら指導を受けるトロールであった。





期間にすれば決して長くない時間であったが、離れていたここ数日。

ミナトの方もクラスの方も濃い時を過ごしたのもあってか。

いつもの日常に戻った事に、少しの安堵を覚えながらミナトは覚えていた。


ライコウや魔族に対しての不安を胸の片隅に抱えたまま。

天武決定戦についてですが、ミナト達の予想は当たっており。大会の運営はある事に頭を悩ませています。

赤字だとか、人気がなくなってきているという訳でもないのですが。

この国だけで言っても。


ミケーレ→大会の規定で出場可能になる最少年齢の十五歳で出て、いきなり優勝してそれっきり。

ガブリエル→騎士団の業務が忙しすぎてそれどころじゃない。

ラビリス→一度だけ出場したがその時優勝したっきり。因みに出たのは二十歳の頃。

アンジェロ→そもそも出た事がない。知人の話しでは「興味がない」とバッサリ言っていたそう。


的な感じなので、真の強者は出ない大会だとも一部で揶揄されたりしているのです。

決してレベルが低い訳ではありませんし、毎年盛り上がりも見せているので。

一部で流れている噂を払拭したいと思っているのは事実ですが。

それだけなので別にミナトが向こうの面子を気にしなくても問題はないのです。

今回は以上!

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