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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
165/175

第百五十九話 そう言えば……

「何か、来る」


ソニアがそう呟いた直後。

洞窟の入り口前で集まっていた皆の耳に聞こえてきたのは、爆発音だった。


「!?」


森の方から突如として聞こえてくる轟音に、誰もがその音の主が誰か気が付いたが、

同時に、そこまでの音を轟かせる理由……つまりは、厄介な敵が居るのだと分かったのだ。

気を少し抜いていた人達も、今の音で戦闘に備える姿勢になり。

一体何が起きているのか。と音のした方に意識を向けていると……。


「!!なんかめっちゃ居るー!良かったー!」


森から飛び出してきて第一声に男子生徒がそう叫ぶ。


次々と走ってくる生徒達は皆、先程の自分達の様に何かに追われていたかの様子で。

ぜいぜい息をしながらこちらの方まで向かってくる。


「ど、どうしたの?もしかしてゴブリンが?」


「ゴブリンもそうだけど、ハイオークが三体位纏めて襲って来てさ……」


「ハイオークが三体!?それで逃げてきたのか……」


状況を聞いてみると、少しは事情も分かって来たが。


先程の爆発音の主の姿がまだ見えていない事に気が付く。


「そう言えばルチアさんは?さっきの音もそうだけど、もしかして戦ったりしてないよね?」


「そうだ!俺達を逃がす為に時間稼いでくれてんだ!撤退を援護してやってくんねぇかな」


情けなぇけど俺じゃ力不足でさ……と付け加え。

アイクやトロールと言った、このクラスの主力人物に頼み込む。


「任せて。

方角が分かってれば場所は問題にならない、僕が先に現場に向かうから皆も続いて来てほしい」


「頼んだぞアイク。遅れるが俺達も行くから、無理はすんなよ」


簡単に打ち合わせだけ終えると、アイクは猛スピードで駆けて行く。


「俺達も遅れる訳にはいかねぇ、急いで編成済ませるぞ」


「君は行くべきだ、トロール君。その盾は守る為にあるんだろう?」


「勿論」


「フレアさんはここに残って欲しいかな、ここを任せたい」


「分かった!」


「後は僕も向かおう、アイク君程じゃないが機動力には自信もあるしね」


「決まりだな、急ぐぞ」


「無論だね!悪いけど僕も先に行かせてもらうから、あんまり遅れないでねー!」


「なっ!……しょうがねぇか、じゃあ後任せたぞ」


森の中での機動力に優れたフラジオと、大盾を持つトロールとでは移動速度に差があるのは仕方のない事。

後発組の彼らでさえタイミングはズレたが急いでルチアの援護へと向かう。


____________________________________________


{居たルチアさん!やっぱ距離は離れてない、、、けど}


「流石に無茶し過ぎじゃない!?大丈夫?」


森の中に入ったアイクは、彼の俊足関係なく近い距離に居たルチアを発見。


したのだが。

彼女が一人で相手にしている数の多さに驚愕。


話しに聞いていたハイオーク三体とゴブリンの大群。

それらを同時に相手取っているのはもう……流石としか言いようがない。

幾ら逃げ回りながらとは言え学生の枠どころか、魔法使いとしての実力が頭抜けすぎている。


とは言え状況は芳しくなく、苦しそうである事は事実なので早急に援護に入る。


{倒す事が目標じゃない、あくまでルチアさんを逃がす事。皆の元まで撤退、且つなるべく敵を撒く事}


どこを目指すかだけ頭の中で確認してから、戦いに参戦。


先ずは狙ったのは、ある意味彼女にとって最も脅威の存在であるゴブリン。

近くに居る個体を纏めて仕留めに掛かる。


「!お前…」


「説明は後でね!まだ増援来るからもうちょっとだけ耐えて!」


切り込んで行ったタイミングでルチアもアイクの存在を認識。


色々と驚きはしたが、今は目の前の状況をどうにかするのが先だと判断し即刻切り替え。

増援が来て、更にまだ増えるのだと言うのなら、今何をするのが最善か。


「広範囲魔法を使う、時間が欲しい」


「分かった任せて」


短い言葉だけ交わし、作戦は決した。


撤退の為には敵の大きな隙が必要となる。

その隙を作る魔法事態はあるが、撃てる状況になった。

しかし前衛が居る今なら狙うことも出来る。と判断。

直ぐにという訳ではないが、狙いを共有してタイミングを見計う。


素早く発動できる魔法で隙を伺いつつ、アイクが徐々に数を減らす。


{多分増援が来るのはそう遠くない、短い時間だけならなんとか耐えられる!}


ルチアの能力は本物だ。

一人でもこの状況で生き延びていた点でも証明されている。

ならば、自分さえ役割をこなせれば切り抜けられない道理はない。


後は自分の働きに掛かっている。という場面がアイクの心に更なる火を灯す要因となり。

さっきの洞窟付近での攻防戦の時より動きのキレが増す。


{こいつ……!そんなら…}


アイクが敵陣に踏み込んで行き、横並びになっているゴブリン達に一閃を喰らわした後。


「下がれ!」


なんだか以前にも聞いた事のあるような言葉が聞こえ、アイクは咄嗟に後方へとステップを踏み戻る。


次の瞬間、見えたのは炎の爆発とその付近を漂う雷のような光。


「ちょ、ちょっと!?前も言ったけどもうちょっと早く言葉くれない?今は相手魔物だからバレるとかないよね!?」


「うっせぇな避けれたんなら良いだろうが。ほらさっさと逃げるぞ」


「逃げるって……ん?動きが……ねぇあれってどんな魔法なの?」


不満を漏らしつつも言われた通り退いていると、敵の妙な動きに気が付く。


「ただの爆発じゃないよね?ダメージによる直立でもないだろうし……」


魔法を受けた魔物達が、こちらを追ってこずにその場でピクピクと震えている。

それもダメージによって動けない。とは違う様子で気になって聞いてみると。


ニヤッとしながら答えるルチア。


「聖魔祭でも使ったやつだよ、当たったら相手が痺れるようになってる」


「あの三属性の!通りで強力な……でもさ、前見た時はもっと範囲が小さかったと思うんだけど」


「今回は威力と範囲重視で使ったからな、調整出来るんだよそん位」


数体のみならず、相手全体に当たる程の範囲に広がった魔法に疑問を持てば。

答えは直ぐに教えてくれた。

やっぱり魔法については意外と話をしてくれる……と思ったところに、一言追加される。


「あの野郎には負ける訳にいかねぇし」


あの野郎、が誰を指しているのかは聞かずとも容易に分かった。


{やっぱ意識してるんだな……}


二人の仲は相変わらず、と思い始めた頃。彼女は更に言葉を付け足す。


「お前にもだ」


「……ん?」


「弟子か何かは知らんが、お前にも負けるつもりはねぇ。覚えときな」


{ぼ、僕もロックオンされてるのかーー!}


「あっはは……それは怖い」





予想外の言葉に驚きつつも、足を動かし続けていると。

さほど距離を動いていない所で次いで追って来ていたフラジオとトロールと合流。


「やっぱり規格外だね……でも取り敢えずは皆の元まで後退。方針はまた落ち着いてから決めよう」


アイクからの話を聞き、合流したフラジオがそう話を進め皆も納得。

取り敢えずは洞窟の方に戻って……と思い始めたところで、遂に彼らに襲い来る新たな試練がその牙をむき始める。

最初に気付いたのはオーズの雄叫びだった。


{!今の声、確実に戦闘になってる……しかもオーズ君が魔法を使うって事は結構な相手か?}


口には出さなかったが四人共ども思考は一致し、少し足を速める。


そんな時、先頭を走っていたアイクの元に飛び込んでくる一頭の獣。


フォルストヴォルフである。


「っ!と……」


横からの奇襲を受けたが、なんとか防御には成功。

足を止め両者は睨み合う。


{僕一人なら危ないし、時間もかかるだろうけど今は……}


流石に無視できる相手出ないので倒す事になるが、相手はかなり強い。

初心者の登竜門として数えられる、中級モンスターの代表格で。これを倒せるかどうかが大きな指標となる程メジャーで、厄介な相手だ。


だが今彼の周りに居るのは、並の人物ではない。


向かってくる相手に合わせて前に出たアイクがぶつかっている間に。

上からフラジオが飛び降りながら攻撃を仕掛ける。


その攻撃自体は躱され一度距離を離そうと動かれるが、離さないとばかりにアイクが追撃。

狼らしく爪と牙で双剣と攻防を繰り広げている間に。

残り二人も動いていた。


「俺が出る!」


トロールからの短い言葉で意図を読み取り、アイクは入れ替わるように後方へ移動。

自由になった相手を逃さないように盾を持っていない方の手で握っている剣を振るい、注意を引き付ける。

その後の反撃は盾で防ぎ、見事に武器の特性を活かす動きを発揮。


最後は、盾役が敵を引き付けている間に準備していた魔法使いが勝負を決める。

ルチアが放つ風魔法がフォルストヴォルフを引き裂き。

戦いは決着。


全員が役割をこなし、スムーズに勝利を収めた。


「ビックリした……でも皆のお陰で助かったよ、ありがとうね」


「いい、困った時はお互い様だ。それより今気にしなきゃいけないのは……」


「うん。オーズ君の声したよね」


皆言葉にはしなかったがそれぞれ気付いていた。

恐らく今自分達はあまり良くない状況下にある事を。


自分達とは、クラス全体の事であり。

即ち今居る二十一人で協力しなければならない事態の可能性があると。

勘の良い者は現時点で、なにか嫌な予感を抱きつつ。


四人は洞窟の方まで急いで走った。







距離が離れていなかった為時間は大して掛からなかったが、そこで見た光景は。

数分まで間で自分達が見ていたものと大きく異なっていた。


種類問わず多様な魔物連中がうじゃうじゃと居り、洞窟入り口付近でそれに抵抗している皆の姿が見える。


「ル、ルチアさ…」


アイクが名前を呼ぶ前、既に彼女は魔法の発動準備に掛かっており。

これを見て一歩遅れたと判断し悔しい思いもありながら、今自分に何が出来るのかを高速で考える。


{ルチアさんが発動するのは多分広範囲系の魔法!ならそうなった時気を付けなきゃならないのは……}


入り口付近で応戦しているクラスメイト達に魔法に巻き込まれないようにする必要があると考え。

交戦中の魔物からの撤退を支援するのが役割だと決め、即座に駆け出す。


トロールは役割がハッキリしている分動き出すのも早かった。彼女が魔法の準備に入ったと見るや、発動までのガードの動きに移っていた。


最後のフラジオはと言うと、アイクとトロールの動きを見て自分の役割を決定。

新手の魔物の接近を警戒する役回りにつく。


「皆もっと奥に!巻き込まれる!」


流石のスピードで入り口付近まで駆け込んだアイクがそう発しながら、交戦中だった魔物を一瞬で切り裂く。


「わ、わりぃ助かった」


「全然!多分そろそろ飛んでくるから皆は下がってて!」


助けられたような形になったところを感謝されはしたが、当の本人にその言葉を気にする余裕は無かった。


自分なら多少避難が遅れても避けられるだろうと踏み最後まで皆の撤退を助ける動きで。

洞窟に魔物達が入らないような位置取り。


時間で表せた本当に短い時間であったが、当人達にとっては重厚だったこの間に。彼女の魔法の準備が終わる。


{二属性同時発動……}


目の前に居る魔物達は数も種類も豊富。

空に飛ぶものも、四足歩行も二足歩行も。森に出現する魔物のオンパレードと言っていい面子。


それらに彼女が放つは二属性同時発動魔法。


{ヴィントフラム!}


宙に上側、宙に浮いている奴や一部の巨大連中に当たる位置には辺り一帯に広がる程の炎を。

地面に居る奴等にはさっきフォルストヴォルフにも喰らわした風の刃を。

しかもどちらの魔法も単体で一級品のところを、二つも同時に使うこの彼女。


若干十五歳にして世界最高峰の魔法を放ってみせた。


「うわすっご……じゃない、走るよ!」


圧巻の光景に一瞬遅れてしまったが、彼女が作ってくれた隙を逃さないよう皆洞窟へと駆けこむ。


「テラ君入り口を!」


洞窟に入るや否や、フラジオがクラスメイトの名を呼び指示を出す。

テラと呼ばれた彼はその意図に気付き、入口へ素早く移動すると即座に魔法を発動。

岩を隆起させ入り口を完全に塞いでしまう。


「はぁ……なんとかなった……」


走りっぱなしだったアイクや、孤軍奮闘の活躍をしていたルチアを始めとした四人だけでなく。

他のクラスメイト等も息を吐く。


皆経緯は違えど、元々は魔物の軍勢に追われていたり。そこに飛び込んで行ったりと忙しなく動いていたのだ。

ここらで一休みしなければ体力も持たない。


「ん?そう言えば入り口塞いだのに案外暗くないね」


アイクが一言そう言うと、ふふんと得意げな男が一人名乗り出る。


「俺とか一部の奴等が火出してるからな」


「おお!ありがとう!助かるよ」


「あっはは、そうだろうそうだろう!と自慢げに言いたいところなんだが……実際この洞窟不思議と暗くないんだよな」


「?」


「いやさ。ほら上の方とか分かり易いけど、入り口塞いで光が入ってない筈なのに、視認性は悪くないだろ?」


「言われてみれば確かに……」


一部の迷宮やダンジョンと言われるような場所は、光源がなくとも何故か暗すぎないという現象があったりする。

要因は長い年月を掛けてその場所全体に魔力が染みわたって行った事で僅かに発光する現象がどうのこうの……みたいな話なのだが。

如何せんここに居る彼らはまだ学生、実際にそんな場所に行った事がある者が居ないのでそれと同じ現象なのかどうかが分からない。


{ミナトなら分かったりするのかな……っと、今考えてもしょうがないな。また今度聞いてみよ。

それより今はやるべき事がある}


そう思いアイクはある人物の元へ足を運ぶ。


「フラジオ君、この後について相談なんだけど……」


「僕で良いのかい?勿論尽力するけれど」


「お願い。

取り敢えず洞窟内部の安全確保が第一だと思うんだけどどうかな」


「だろうね、既にトロール君がソニア君に探知をお願いしているところみたいだよ」


「行動が速い……また出遅れちゃったな」


アイクが動くよりも先に手を回していたトロールに関心を抱きつつ、その探知をしていると言う彼女と共にいる二人の元へフラジオと向かう。


「トロール君、ソニアさん。探知してたんでしょ?どうだった?」


そう聞くと、二人はあまり良くはない表情を浮かべていた。

ソニアは元々良い顔をしている場面が少ないとかは今の話しじゃない。


「それなんだがな……」


「……探知が上手くいかない。地形とかじゃなくて、別の問題」


「別の問題?場所とかでもなく探知が上手くいかない要因なんて……」


少し頭を回せば、考え付くのは皆同じところだろう。


「結…界?」


「以外に考えられないね。魔法の事だし彼女にも意見を聞いておこうか」


魔法の彼女。となればルチアしかいない、とばかり一斉にその彼女の方へと視線を飛ばす。

それに気付いた彼女は、少し面倒くさがりながらこちらに歩いて来てくれた。


「結界の事か?」


「流石話が早い」


「舐めんな。でもそうだな……情けない話だけど結界はあまり詳しくない、だから解析とか解除とかは出来ないと思って」


魔法の事について彼女がここまであっさり無理だと認めるのは、少々珍しくも見えるが。

彼女と一緒にこちらに来ていたフレアは皆とは違う意見の様子。


{案外出来ない事は出来ないって言うもんね}


そうなったら対抗心を燃やし始めるだけで。が付け加えられるのだが。


この話は一旦置いておいて、現状。

探知が出来ない、恐らくその原因となっている結界の存在は確認できているが。解析・解除は出来そうにない。

今居る十九人ではこの洞窟の明るさの原因や結界等々、どうにか出来る人物は居ない。


「というか結界ってさ、そんな話先生してたっけ」


フラッと話に入って来たオーズの一言で、場が凍り付く。


{そうだ……そうだよ!結界が張ってある?一体誰がどんな目的でこの結界を?どう考えても自然じゃない!}


確かに、山での戦闘に疲弊した冒険者等が。

休息の為ここを拠点とし、その際に身の安全の為結界を張る。という話なら理解出来なくもない。

ただし結界の効果時間はそこまで長くはない。持続性に特化したものでない限り。


それに妙なのは、内部での探知が妨害されているという点。


{あり得るか?外からは分かる、でも内部で?侵入者を感知するじゃなくて、わざわざ……}


妙にタイミングの良い魔物達の集結。

何故か張られている洞窟の結界。

原因不明の明るさ。


「ここは……一体……」

最近投稿頻度を犠牲に文字数増やしてるんですけど……どうですか?

前までの方が見やすかったりします?

自分的には、もうちょい書くスピードは上げたいけど。文字数増やした今の方が話し作りやすいってのがあるんですよね。

まぁでも文字数は各話毎にバラついたりすると思います。こんな事言って次回はこの半分とかになるかもしれませんし。

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