百五十四話 ハッキリ
更新お待たせ致しました
今日からまた頑張って描いていきますので、日々の些細な楽しみの一つとして読んでもらえると幸いです
今回ミナトが連れてきた二人は、それぞれ異なる役割がある。
一人。コードネーム「ロウ」の役割は火力要員。
ミナトに一番不足している要素を補う為に呼ばれ。組織内でも最高のパワーを持っており、直接戦闘に特化した人物。
もう一人、コードネーム「ダン」は万能型の能力。
魔法による攻撃・支援・索敵から、剣術まで扱う。所謂魔法剣士であるが、その汎用性の高さは世界を見渡しても早々居ない程。
戦闘になれば主にミナトが戦い、二人はそれぞれの長所を活かしてそのサポートするのが今回の編成の作戦。
(俺が自由に呼べる中では間違いなく最高のメンバーだ。これ以上となると本当に先生とかオリハルコン級のあの人とか以外には思いつかないレベルのな……)
人材に不足は無い。
後は自分がどこまでやれるかと、相手がどれ程居るのか、どれ程強いのか。
つまり事前に出来る事はもう終わり、後は現場でどうなるかのみ。
事前の下見で分かった事は、今回突入する敵拠点は洞窟型。つまりは地下であるという事。
そしてメインとなる入口以外の…別の出入り口が無いかどうかについては調べても分からなかった。
抜け道を探す魔法でもあればいいのだが、そんな便利な魔法は存在しない。
なのでこの際抜け道はあったとしても仕方ない。出来る限り敵は逃さないが、逃げられてしまったらしょうがないとする事に。
(入口に見張りは無し、、、やはり侵入・逆探知の結界か)
外の見張りが居ないのでここまで来ると相手の思惑も分かる。
小細工は効かない、真正面から突っ切るしか方法は無い。
ハンドサインで二人に突撃の合図を出し、同時に洞窟内に侵入を開始。
中に入った際の感覚でやはり結界の存在を確認。恐らく敵もこちらに気付いている体で進んで行く。
内部は外から見た通りで、もとからあった洞窟の形を少し整えたような構造をしており。
明らかに後から置いた物も発見した為拠点であった事は確定。
しかし妙なのは、侵入してから数分未だ誰とも接触していない事。
ミナトやダンも探知を試みたが、案の定結界の効果か探知は阻害され上手くいかず。
今はとにかく最奥部を目指して疾走中。
幸い道は分かりやすかったのでスムーズに走り続け。
遂に大きな扉を発見。
決してただの洞窟には似合わない大扉を開けると、そこから見える景色は……。
第一印象を述べれば、ガランとしている。
(殆どの奴等は拠点を変えたか……で、残り組はあいつらと)
数十どころか、百人二百人と入りそうな広い空間。
奥には玉座のような椅子が目立つように置かれているが、座っている者は居ない。
だだっ広い空間だと言うのに、今見えるのは五人だけである。
「お、ようやく来たな」
その内一人、比較的人間に近い見た目をしている魔族の者が最初に口を開いた。
「待ってたよ、あんたらだろ?こっちの拠点ちょくちょく潰してたのさ」
「…そうだ。ここも同じ様に潰させに貰いに来た」
他の四人も最初は散らばっていたが、徐々に集まっていき。
視線や表情からも敵意丸出しなのが容易に分かる。
それを見てダンとロウも再び武器を強く握りしめ、戦闘に備える。
「先に聞いておくが、数週間前ここに俺達の仲間が来たはずだ。
返せとは言わん、遺体がどこにあるのかだけでも教えてくれないか」
気を引き締めた顔をしているが、ミナトはまだ少し余裕のありそうな表情だった。
「あー……消し炭になったからもう残っちゃいねぇな。
でもでも、塵になった訳だからあんたらの靴の底にでも付いてるんじゃないか?そこら中に散らばっただろうし」
魔族にしては軽い口調をしているが、内容は本当に癇に障るものだ。
この言葉を機に、ミナトも様子が変わる。
より正確に言うならば、隠すのを。取り繕うのを辞めたと言った方が正しいだろう。
一応教えてもらう立場なので口調を気を付けていたが、もうそうする必要はない。
「……お前らじゃ塵も残らねぇから、踏んづけてやる事も出来ないか。せめて生きてるうちに少しでも仲間の恨みを晴らさせてもらうよ」
彼らは部下であり同胞だ。
あんな言い方をされればミナトでなくとも激怒するだろう。
先頭で彼が切り込んで行った瞬間、後ろの二人も続くように動き始める。
状況は三対五。
あまり良いとは言えないが、関係は無かった。
向かって正面に居るのは恐らく集団のリーダー的な役割であろう人型魔族。
纏っている魔力から見てもトップで間違いはないだろう。
ならば対処すべきはそれ以外である。
正面に速射性に優れた炎魔法を放ち足止め。
刹那右に切り返してそちらの二名を相手取る構え。
一瞬で剣戟を繰り出し相手の防御を崩す、その瞬間叫ぶは味方の名。
「ロウ!」
その一言のみで指示を出し、背後に着いて来ていたロウが飛び出すように前に踏み出し。
巨大な肉体と大剣から繰り出す豪快な一振りで防御の崩れた敵二人に致命傷を与え。
後は確実且つ迅速に仕留める為ミナトが追撃し、二名撃破。
残りの三名はダンが魔法で引き付けており。
風魔法を一発放って援護を阻止し、その後は距離を取りながら邪魔にならぬよう立ち回っていたのだ。
瞬く間に二人片付けたミナトが次に狙うは、五名いた時に最も左に位置していた者。
少し離れていた距離を力強い踏み込みで一瞬にして詰め、刀を振るおうとするも。
隣に居た獣の様なタイプの魔族に阻止され。
囲まれればマズいと判断し、大きく後退し二人と合流。
「あの人型は生かしておきたい、先に他を片付ける」
ササっと目標を伝えて、意識はあちらに集中させる。
(一番左の奴は支援型か?近接じゃなさそうだ。んで隣の獣野郎が真逆の近接特化。
トップはおおよそ典型的なバランス型ってとこかな)
僅かな攻防であったが、その中でも相手の能力を分析。
近接での反応が鈍かった者、鋭かった者。
全体的な動きが良く、魔力量から見てこれまでのパターンに照らし合わせる。
そうすれば予想位は出来る……らしい。
(最初の二人は不意だったとは言えいまいちだったな……もしかしてロクな奴を残しちゃいない感じか。
んで、多分この戦闘は向こうで監視されてんだろ?はぁ……)
状況から更に色々と考察を立てたが、考えるだけで嫌になる。
それに考えた事が当たっていたとしても出来る事は何もない。
魔法による遠隔監視は現状、カウンター魔法のようなものが存在せず。
ただ一方的に見られるしかない。
唯一どうにかする方法は。監視魔法は誰かに付けておくものなので、その付けられている人物を早急に仕留める他ないのだ。
安全圏から魔族共に見られているという事が心底気に食わないミナトは、早急に戦いを終わらせに掛かる。
「ダンの魔法と同時に仕掛ける、ロウはさっきと同じ様に頼む」
先ず仕留めに掛かるのは支援型の左端……ではなく、その隣。
指示の通り魔法が放たれた瞬間再び攻め込む二人。
ミナトは左端を潰そうと動くが、再度それを防ごうと動く隣の獣型。
それが作戦であった。
飛び出してきた奴の対処にはロウが動く。
向こうが繰り出された攻撃を防ぐ事には成功するも、自分以外を守る余裕は無い。
だがそうはさせないと行動を開始したのはトップの魔族。
魔法による援護を飛ばそうとしたが、ここで再びダンの援護が入りそれを阻止。
邪魔をする者が居なくなったためミナトはそのまま刀を抜き居合一閃。
魔法使いを近距離で仕留めるのは容易である。
これで残るは二人。
数的不利は一瞬でなくなり、このまま勝利……となれば良かったのだが。
当然そう上手くいく程魔族と言う種族は甘くない。
「……使えねぇ」
小さくぼやいた後、名乗りを上げ始める。
「俺の名はボリック。そこらの有象無象とは訳が違う……それを今からお前らに、、見せてやるよ!」
魔法を発動させ、直後魔力量が急激に増大する。
禍々しい魔力のオーラが見え、様相も人間に近かった者が一気に魔族へと変わっていく。
(自己強化系魔法、効果はそこそこ高そうだけどこれは……)
急変する相手の様子を見て一つ考察を立てる。
「他とは違うって、お前ら皆して同じ事言ってるぞ?
俺は違うだとか、一緒にするなとか。笑えるよな、違うって言いながら言ってる内容同じなんてよ」
「……」
挑発を掛けてみるが、返事は返ってこず。
息を荒げてこちらを睨みつけるのみ。
この様子を見てミナトは、やはりという様子。
(精神もしくは知能に多大な影響を与える代わりに、魔力を強化するタイプだな。
確かに強化倍率はかなり高い。本来ならかなりの苦戦を強いられる相手だろうが、残念ながらそうはならない)
飛躍的な能力の向上を見せたボリックだったが、ミナトからは半ば呆れのような感想しか出てこなかった。
最早余裕すら感じ始める理由、それはどちらも簡単な事だ。
魔力向上による身体能力の強化は実際彼にとって致命的な事である。
どれだけ戦闘で圧倒する事が出来たとしても、攻撃力が足りず仕留めきれない可能性が出てくるからだ。
だとしても今はそれ程脅威ではない。
何故なら今の彼には足りない火力を補ってくれる者が居る。
それに、知性が高く隙の少ない相手ならまだしも。
今の相手は知性などまるでない本能の塊。正に獣の様な思考回路をしているだろう。
ミナトからすれば、そんな相手は脅威でもなんでもない。
例えどれ程の魔力を纏って、高い攻撃力と防御力があったとしても。
頭を使わない相手など恐れるに足らない。
勿論祟り神のような例外はいるかもしれないが、こいつはそんな例外枠ではない。
(正直これならうちのクラスメイトの方がよっぽど警戒するよ)
先程から凄まじい速度と威力で攻撃を繰り出してきてはいるが、全て防いでいる。
速度はあるのに振りが大きく軌道が読みやすい。
攻撃がワンパターンであり、どれだけ威力が高かろうと横から少し弾いてやるだけで簡単に防げる。
まるで師匠が初めて剣を握る素人の弟子に稽古をつけているかのような光景にすら見える現状。
「はぁ……もういい、終わらせよう」
良かったと言えば良かったのだが、内心でミナトは思っていた。
もっと強い相手が居てほしかったと。
そうだったなら、ここで強力な敵を潰せておいたのに。
この程度では自分が出張らなくてもさほど脅威にはならない。
普段あまり戦いに参加できない分少ない機会で貢献しようとしたのに。
ハッキリ言えば、ガッカリしていた。
「ロウ、やれ」
攻撃をベストのタイミングで弾き返し、完全に無防備となった状態にさせたところへ。
再びロウが飛び出し強烈な一撃を叩きこむ。
大量の血が噴き出し、獣の様なうめき声が響き渡る。
戦いの決着が近いのは言うまでもないだろう。