第百五十三話 不安、疑念
今回行われる課外授業では、リーダー制から一クラス二十名を四班に分ける方法に変更。
この一組での主な組み分けは。
一班にアイク、オーズ。二班にルチア。三班にフレア、フラジオ。四班にトロール。
を主力として各班に振り分け、後はその主力メンバーの足りない所を補える人材をそれぞれ入れていく。
アイクには魔法、とりわけ大人数相手に有効な魔法を使える者を。
攻撃全般を一人で担えるが前衛が欲しいルチアには前に立てる者を。
逆に攻撃を苦手とするフレアの班には多角的な攻撃が出来る者を。
盾役として守りが出来るトロールの班には後衛の魔法使いを。
このクラス最高射程の最後衛魔法使いのソニアもトロールの班だ。
後は各班でどの様に目標地点まで進んで行くかの作戦を決める。
戦闘は積極的に行うのか、可能な限り避けるのか。
避ける避けないは関係なくただ前へ進み続けるのか。
その話し合いがそれぞれで行われている中、教員達も準備の為に忙しなく足を動かしていた。
「よし、では私も最後の見回りに行ってきます」
「頼んですみませんねミケーレ先生」
「うちのクラスの事ですし、私がやらなければならないんですよ」
担任である彼女も、生徒達の授業開始前に直前の見回りに出向く。
もしも想定していないレベルの魔物が居た場合に備えての行動であり。
彼女程の俊足ならば本当に直前も直前に行う事が出来るし、対魔物の索敵は得意なので見逃す事もない。
何より自分自身で行くのが一番不安が少ないので向かおうとしたところ……。
「あ!いたいたミケーレ先生、お手紙が届いてるって学校から伝達が」
「伝達?」
なにやら重要そうなものなのか、届けに来た教師もかなり急いで彼女を探してきたようだ。
「えぇ、快速のハヤブサまで使って渡してきましてね」
学校が保有している伝達用の使い魔たちの中でもトップクラスの速さを誇るハヤブサ。
使われる事態はかなり急を要する話がある時だけで。
そんなものが遣わされてきた時点で見ない訳には行かない。
{それは見なければならないが、、生徒達が出発して私達後進が出るまでの間にでも問題は無かろう。
本当に急を要するならわざわざ手紙にして中を伏せる理由もないだろうし}
しかし今は他にやるべき事があると思い、一旦中身を見るのは遅らせようと思っていると。
「!気になさってるのは最後の直前見回りの事ですね?それなら私が行っておくので大丈夫ですよ。
それに、この手紙の宛先見たらミケーレ先生でもビックリしちゃうと思いますよ?」
ハヤブサの事もそうだし、持ってきた者の反応から見ても。
かなり大事の用らしく。
「……分かりました、そこまで言うならお願いしちゃいましょうかね」
結局見回りはその先生に頼んで、どんな大事なのかと思いながら渡された手紙を読む事に。
{宛先は、、、!}
手紙の裏、送り主を見てあの言いようや学校側が伝達を急がせた訳は直ぐに分かった。
要件はなんだと急いで中身を確認。
{世界武術連合組合……ミナトに目を付けたか、、流石に伝えなきゃならない案件だ}
流派、武器、あらゆる垣根を超えたそれぞれが結集し作られた世界最大の武術組織、それが世界武術連合組合。
世界全域に伝わる超王道剣術流派から、知る人ぞ知る秘伝の古武術。
槍、弓、徒手空拳まで基本的に兵器を覗いた全ての武器の流派を集め。
その指導者を生み出したり、戦いに身を置く者全てのレベルを向上させる為の活動を最優先としており。
とにかくその名は世界の至る所に通っていて、現状国家を除いた組織の中で最も巨大な派閥である。
{招待状、、今度組合が主催する世界最高の武術家を決める大会の招待枠としてミナトを……ね}
そんな巨大派閥が開催する年に一度の大会は、聖魔祭と同等の規模を誇り。
歳や性別関係なく参加資格は誰にでもあり、推薦枠や招待枠以外の人物達は予選を先に突破し。
本戦はかなり大きな会場で開かれる。
この世界レベルの大会に、聖魔祭優勝者として招待されたのがミナト。
例年声を掛けられるのは上級生達ばかりなので、一年生が呼ばれるのは異例の事態だ。
{確かにこの宛先からならハヤブサも寄越してくるか……けど今外に出てるから何も出来ないし。
第一呼ばれた本人のミナトが居ない以上ここまで急がなくても。って言いたい気持ちもあるが、言ってもしょうがないか。
開始までまだ時間あるしあいつらに発破でもかけておくか}
今こんなものを見ても驚きはするが特に出来ることはない。
やっぱり見るのは後でもよかったな、とは思いつつ。
もうしょうがないので空いた時間にクラス全体の指揮を上げれそうな言葉でもかけようとし。
彼等の方に向かい始める。
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「見回り、問題無しです。始められます」
教員らの最終見回りも完了し、二度目となる課外授業が始まる。
「よし、では開始の合図を出す」
信号弾を上空に放ち、バラバラのスタート地点に居る全員に開始を知らせ。
その直後に反応が一斉に動き出すのを感知。
全員がスタートを切った事を確認する。
{頑張れよ、お前ら…!}
一斉に動き出した一組は、順調に目標地点へと進んで行っていた。
各班それぞれ主力として配置されたメンバーが指示を出したりしながら。
時には意見を出し合って全員で方針を決めたりと、上手く協力して。
思惑通りちゃんと互いに足りない部分を補い合う関係を築いて次々と進撃。
{周り、よく見ろ!自分だけに意識向けるな!}
必死にそう言い聞かせながら班に声を掛けるアイク。
ミナト程スムーズでも的確でもないが、確実に有効な指示を出す事を意識してそれを成功させていた。
「……!アイク後ろ!」
「っ!?」
{接近!気付かなかった…でも次は絶対こんな事には!}
時折周囲に意識が向きすぎて自分の方を疎かにしてしまうような場面もあったが。
それでも問題なく対処し。
次の改善点として即座に反省、更にどうすれば改善できるのかもその場で考え。
魔物を倒しきっても直ぐさま次に思考を向ける姿勢。
きっとアイクにとってこの課外授業も素晴らしい経験の場になるであろう事は。
彼の顔を見れば明らかだった。
上手くいかなくて悔しそうでもあるし、油断できない状況だから真剣な表情ではあるが。
なんだか楽しそうにも見える。
成長を、強くなれる実感を得ているような。
そんな顔をしている。
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一方、時は少し流れ。
夜。
下見を終え、本格的に相手拠点に突撃するミナト。
(準備は尽くした。今頃あいつらの課外授業も無事終わってるだろう、心配する事はない)
残してきた皆の事ももう気にしなくていい、と頭を整理していく。
(俺に足りない一発の火力も、補える奴が居る。いざと言う時逃げられる奴等だ。
誰も死にはしない、死なせない。
あと勝利に必要なのは俺だ。この二人は強い、俺が役割を全うできればこのメンバーで負ける相手なんてこの世には居ない)
ミナトがそう言い切れるだけのメンバーが今日は傍に居る。
深呼吸をして、意識を研ぎ澄ませていく。
(負ける道理はない、あるのは完全勝利。
生きて全員帰る、敵は逃さない。同胞も連れて帰る、きちんと埋葬してやる。
心残りもない。よし……)
「行くぞお前ら」
「「は」」
この時から胸の中にあった騒めきは、今宵の戦いの事だと彼は思っていた。
しかしそれが今日だけのものではない事を。
まだ見ぬ、まだ知り得る事のない事態への不安を。
勘という彼の人生の重要な指針の一つでもあるものが既に感じ取っていたのだ。
これから始まる戦いが終われば、今心の中に渦巻いている不安を取り払う事が出来るのだと。
彼は信じていた。
今月いっぱい更新は途絶えます。
次回は四月になります。
リアルの事情によりこうする他なくなってしまいました。
しかし約束します、その時は。
これまでよりも確実に物語の書き手として成長し、よりこの世界を上手に皆さんにお見せできるようになると。