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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
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第百五十一話 万が一

初の課外授業を成功させた日の放課後。


今回の授業で実際に行ったミナトの意見をもとに、今後の授業内容の改善に繋げようという会。

会と言っても参加してるのは二人だけ。

意見をもとにすると言った彼と、担任のミケーレのみ。


「今回と同レベルの場所であれば、俺抜きでも問題ないと思います」


「ふむ……だが念には念をというしな。

直前の見回りを更に強化し、後方での付き添いは私が担当しようか」


「それは手厚い……」


主な議題は、ミナトが居ない間に行われる日の事だ。

課外授業で使う場所は予めギルドに申請しており、その日。その時だけは依頼で他の冒険者が行かないようにしてもらっている為。

今更キャンセルとは出来ない。一人生徒が休むから、では理由としてあまりに弱い。


「それにしても随分信用してるみたいだな。普段は過保護な位の癖して」


「ん…スタンスは一貫してます。今回は成長の為に必要なリスクを踏む時間ですし、万が一も起こらないだろうと確信したから言ってるんです」


「万が一か……」


「なんですか今度は、、それが起きない為に貴方自ら防止策として出向くんでしょう?」


「万が一ってのは殆ど予想外の事態の発生を意味してると思うんだ」


少し話の流れが変わる。


それを感じ取りミナトも合わせるように、真剣な顔つきになっていく。


「私達が想定している最悪の事態、つまり最も避けたい事は何か。それは生徒の命が失われる事だ」


「はい、その為の予防策を今考えてるんですからね」


「そうだ。だとすればさっきから言っている万が一の意味は、命が危機に晒されるような事態となる事を指している」


考えられる事態として挙げられるもので言えば、予期せぬ強力な魔物・又は魔族の出現。

戦闘中不意に発生する事故によって致命傷を受ける等だ。


「ここだけでなく、教員会議でもあらゆる事態に備えた話は何度もされた。

考えられる限りのリスクは起こらないだろうし。仮に起こったとしても対処する事が出来るよう、な」


しかし先程挙げた出来事すらも対策事態はしてある。

緊急連絡用の魔道具の装着し、トラブルが起こった際には直ぐ教員に知らせが行くようになってあったり。

腕利きの回復魔法使いを控えさせていたり、教員が後方から着いて行く。なども同様の対応策として用意された。


「だが、我々が最も恐れるべきは予想外の事態。

幾ら盤面上で話を重ねても、これまでの歴史を辿って万全策を喫したとしても。全く未発見の落とし穴がある可能性は否定出来ない。

悔しい事にな」


(流石は精鋭揃いの先生達だ、そこらの上級冒険者にも引けを取らない程考えを練っている)


基本的にリスクと言うのは完全に振り払う事が出来ないのがこの世界だ。

出現する魔物のレベルが幾ら低かろうと、数十年や数百年に一度はレイドボスの様な化け物が出る可能性もあれば。

ふらっと現れた魔族に襲われる可能性もある。


仮に結界を貼ったとしても、前回の祟り神のような例外中の例外が現れたりもするのだ。


(基本的に予想外の事態は防げないから最悪になる。

どれだけ準備をして鍛錬を積んでも理不尽な事は起こり得てしまう。偶然によって人は命を落とす)


なら対策は不可能なのか。

結局運次第で全て決まってしまうのか、理不尽に命が奪われるのを防ぐ事は出来ないのか。


否だ。


「先生」


もし理不尽や例外と言った出来事を語る人物が居たなら、大抵の人物は不憫だなとなるだけだろう。

だが彼は違う。

本当に山ほどの理不尽を相手に戦ってきた男だ。


「俺は万が一が起きないと確信していると言いました」


「ああ、そうだな」


「確かに考えられない事態はあります、防げない理不尽もあります。

ですが絶対不変のものもあります。どんなものが襲い掛かっていても変わらずあり続けるものが。

それは積み重ねて身に付けてきた実力です」


目の前の彼女に語りながら、頭に浮かび上がってくるのは記憶にこびりついて離れない苦い記憶。


(どれだけ強くなって、強力な味方が居たとしても。死ぬときは死ぬ)


守れなかった者。自分の目の前で死んでいった者。

どうすることも出来なかった者。他を圧倒するほどの力があろうと、病に伏してしまった者。


この世の理不尽を挙げだしたらキリがない。


「あいつらは強いです。

もし仮に倒せないような相手に出会ったとしても、切り抜ける事が出来る程の力がある。

どうしようもない状況になった時、生きながらえて耐える根性もある」


それはただの身内びいきでも、根拠のない自信でもない。


クラス丸ごと誘拐された時、王都に大量の魔物が押し寄せて来た時、祟り神がやって来た時も。

全員死ぬ事はなかった。

確かに各々一人で窮地を乗り越えて来た訳じゃない、助けられた者も居る。それでも助けが来るまで生き延びてきた。


聖魔祭では圧倒的人数不利の中、団体戦二位にまで迫り。

先の課外授業でもその時よりもずっと伸びた実力を発揮し軽々と突破してみせた。


「それに、、、万が一の時はあなただって居るじゃないですか。

ならこれ以上すべきなのは心配する事でも悔いる事でもない、まだ出来る事がないか探すだけです。

あいつらを信じた上で」


ミナトがこの学校に来て約半年。

確信をもって言える事が幾つか出来た。


クラスメイト達は、特異点という極めて高い潜在能力を秘めているだけでなく。それに気が付かずとも自身を成長させようと言いう向上心を持っている事。窮地を乗り越える精神力がある事。


教師達は評判に違わぬ実力者たちで、生徒に関心をよくやる尊敬に値する人物達であるという事。


そしてやはり、目の前に居る彼女は最強であるという事。

入学してから剣を合わせた事はないし、本気で戦っているところもまだ見たことはない。

ただそれでも断言出来る。


今世界で最も強い人間は誰かと言われれば、ミケーレ・ステラだと瞬時に答えられる。


「……どうやら私の事もかなり高く買ってくれてるらしいな」


当然だ、一目見ただけで相手の実力を図る事が出来るミナトが長い間ずっと近くで見て来たのだ。

些細な日常動作から溢れるものだけでこれまで何度も認識させれてきた。


それになにも買っているのは実力だけではない。


(正直入学したての頃は分からなかったけど、暫くして気付いたことがある。

この人は俺が思っていたよりずっと先生で。多分周囲が思っているよりもずっと生徒の事を考えている)


「まぁ担任の先生ですからね。

それ位信頼してないとこんな関係続きませんよ」


最初は、特異点の件からも見て。

素質があるからこの代を注目しているのだと思っていた。

それもあるにはあるだろうが、それだけじゃないと分かるのにそれ程時間は掛からなかった。


トロフィムによる一組が誘拐された際、自らではなくクロムを派遣した事。

これも一見すれば生徒の成長の為と言ってリスクある行動を指せている様に見えるが。

彼女が見据えていたのは更に先までだった。


教員室の痕跡から自身の机がよく調べられていたと考察し、ある仮説を立てた。

今後も似たような事が起こる可能性は充分あるのではないかと。


特異点だとかは置いておくとしても、成績優秀でありこの事件を機に更に知名度を上げる事になるであろう生徒らに。

いつ次の毒牙が迫って来るかは分からない。その時自分が確実に守れる保証もない。

そもそも何年後なのかも分からない。


だが今打てる手も存在しているはずだ。

それはさっきミナトも言った、変わらない物を磨かせる事。

今後襲い来るより大きな危険を退ける為にまだリスクを計算出来て、命の保証がまだある方である今という窮地を乗り越える経験値を天秤にかけ。


その結果クロムを向かわせた。


次に起きた事件、王都での魔物との軍勢の戦いの際。

話しを聞いた彼女は乗っていた帰りの馬車を降りて自分の足で王都へ駆け出していた。


到着した時戦いは終結しかけていたが、移動時間に換算すると本来の予定よりも二時間早い帰還だったそう。


(リスクの計算が取れない時この人は自分を動かす。

だからライコウとの戦いでは騎士団でなく自ら助っ人として現れた。

祟り神の時も、聞けばアイクを一瞬で振り切る程の速度で来てくれたらしいし。

この人ほんと……)


「……まぁこんな話しをしててもなんの対策も生まれません。

取り越し苦労だったって思える位のものを目指す為に、具体的な案を練っていきましょう先生」


自分が生徒に気を遣われた事、本来教師が言うような言葉を言われてしまった事。


彼女は人として今後れをとってしまった。


「そうだな。こんな辛気臭い話私達には似合わない。いつだって合理的に、生徒達の為に頭を働かせようじゃないか」


度々彼女は思う時がある。

昔から実力で突出していた分、自分は人として後れをとる事があると。


それは目の前の少年(そうじゃない事は知っているが)にだけじゃなく、昔の同級生であったり。

はたまた尊敬する恩師であったり。

自分は人の運に恵まれていると、そう感じる時があるらしい。














(……そー言えば)


念密な話し合いを終え、帰宅してる最中ミナトの頭にふと過ぎる。


(あの人がちゃんと先生してる事はもう認めてるし、尊敬に値する様な人間なのもこの際自覚しよう。

でも……なんで先生になったんだあの人?)


確かに彼女は立派な教師であるが、一つ引っかかる。


(性格的には向いている向いてない以前に、興味無さそうなタイプに見えるし。

きっかけが何かあったと思うんだけど……あの人って人に影響受けたりするのかな)


心外である、彼女はこれでもかなり影響を受けて育ってきている。

それに人の影響なんて全く受けなさそうだった彼(四百年前)が言える言葉ではない。


(やっぱ担任だったっていうウォーデン先生の影響か?それなら納得できるけど……やっぱり気になるし今度聞いてみるか)


これは後日談であるが、聞いてみたところ。

綺麗にはぐらかされたのだとか。

ミケーレが教師を志したきっかけですが。

絶対に描きます。

約束しておきます、過去回想(番外編になる可能性が高そう)でガッツリ尺使って描きます。

でも少し後の事になりそうなので、気長に待っていてもらえると嬉しいです。

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