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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
156/175

第百五十話 せっかく鍛えたんなら実戦で使わなきゃだよね

今回行われる課題授業で前回と違う部分は幾つかある。


一つ目は、教師陣が班分けをするのではなく。

クラスを統率するリーダーを一人指名し、後は生徒達だけで進めるという事。


二つ目として、前回とは違い今回は魔物の討伐を目的とする訳ではない。

こっちの方が大きな変更点だろう。

前回は魔物との戦闘を目的としていたが、今回は戦うも隠れてやり過ごすも逃げるも自由。


時間内での戦闘、ではなく一定区間を通過する。というルールだ。


指定されたポイントから一斉に進み始め、三㎞先のゴール地点を目指す。

その間をどうやって移動するかは自由であり。

ゆっくり時間を掛けて魔物との戦闘を避けるのも良し、逆に正面から全てを薙ぎ払って突破するのも良し。


今回の授業で使われる場所は森で。

生息する魔物の強さはバラバラであるが、中にはクラスの過半数で掛からなければ負ける程のモノもいる。


行動の自由さやクラス二十人を一人で指揮する。と言う点からこのリーダーの役目は大きい。

そしてこの癖の強いこのクラスを纏める者として選ばれたのは……。


(やっぱ俺か)


ミナトであった。


(そもそも昨日話した感じ的にそうだろうとは思ってたけど、本当に波乱無かったな)


課外授業の説明をする際、ミケーレがリーダーとして彼を指名した時。

誰がとは言わないが約一名反対意見を出したりしそうな者も居たりしたが。

結局誰一人文句も何も言わず。


まぁ、だろうな。みたいな反応で。


その事に驚いていたのがミナト本人のみだったところからも、自己評価と周囲の評価の差が表れている。


______________________________________


という経緯で今絶賛課外授業が行われている。


全体の指揮を執る彼が選んだ作戦は、基本的に遭遇した魔物との全面戦闘であった。


クラスは主に四つの部隊に分け。

先頭に位置する部隊は、当然ながら求められるのは戦闘能力と機動力。

機動力が求められる理由は単純で、もし他部隊の協力が必要な程強力な魔物とかち合った時。撤退する為であったり、そもそも先頭を走るのだから足は速い方が良い。

等の理由から選ばれ。


先頭部隊の主力にはアイク、そしてフレアを配置。

言わずもがなの超スピードとクラス内有数の実力を兼ね備えたアイクに、持ち前の動体視力や戦場を見渡して状況判断の出来るバランス能力の高さから斥候系の役割に向いているフレア。


右翼部隊には高火力の権化とも言えるルチアを置き。

逆の左翼には威力は少し落ちるものの同じく広範囲魔法が得意なオーズを。

こうする事で両側どちらにも高火力要因を配置し、戦闘をスムーズに進める作戦。


そして自身は中央に置き、普段は全体に指示を出しつつ。

いざと言う時はどの方角にも素早く援護に向かえるよう備える。

超遠距離魔法でどこへでも支援を飛ばせられるソニアも同様の配置だ。


最後に、この陣形の要にして唯一の遊撃手的な役回りを担っている。

フラジオの存在は絶対に欠かせないだろう。


「ミナト君!左翼部隊多数の魔物と交戦中!ちょっと時間掛かるかも」


「そうか…ここから二人向かわせる、ソニアは今から言う位置に支援魔法を。フラジオも援護に向かって、頃合いを見て伝達の役割に戻ってくれ!」


「イエッサーボス!」


手で小粋な合図をしながら言われた通りに動いていく。


(なんだよその言葉とさっきのポーズ……やっぱ優秀なんだけど癖がどうしても強いんだよなぁ。

別にいいけどさ)


合宿時、個人練習としてフラジオは山の中をひたすら立体的に動く訓練をさせられていた。

枝や蔦を使ったり、得意の柔軟性を活かしたぬるっとした動きは。

森のような立体的な場所で予想外の機動力を発揮している。


事実その能力を買われ、素早い動きで全体を周って状況を逐一ミナトに報告。

そして彼自身一見すると変人にしか見えないが、頭はかなり切れる。


正に今回のような状況で多大な活躍を残す事が出来る能力だ。


「ここから十時の方角百メートル先に頼む!」


「はいはい……」


{ほんと毎度思うけど、どうなってるの探知精度。お陰で楽でいいけど}


ミナトの広範囲探知はソニアの遠距離魔法と相性が良い。

彼女自身も探知は得意だが、広範囲を索敵する場合は彼に軍配が上がるだけで。

おおよその方角が分かればそこから探知範囲を絞り込んで正確な支援が可能になる。


(よし、右翼も魔物とかち合ってたみたいだけどあいつが瞬殺したみたいだし。

先頭部隊も問題は無さそうだな、、、左翼の遅れもそこまで問題にはならないだろうからこのまま行くか)


今回課外授業で選ばれたこの森は、魔物の数がかなり多く。

ギルドの任務でどうしてもという理由がなければあまり近付きたくないスポットだ。

お陰でこの広くて魔物も居る課外授業としては絶好の場所が貸し切り状態。


生息する敵の強さも事前に把握済みなのでリスクは低いし。

万が一に備えて少し離れたところに着いて来ている教師も居る。


安全性もあり、本当に経験を積むための授業としては満点の場所だ。


______________________________________


その後も特に問題は無いまま目標地点へ到着し。

最初の課外授業は無事成功に終わる。


「んー、、疲れたー!」


「慣れない事したから俺もちょっと変な疲れ方だな…」


「そうだったの?結構ハマってたと思うけど」


「ハマってたって、俺が指示出し役に?本気かよそれ」


帰りの馬車に乗るまでの間、暫しの休憩時間。

アイクと雑談を交わす。


「うん、歴戦の猛者みたいに見えた」


「歴戦の猛者って……」


ここまで大人数に指示を出す戦闘は実際初めてなのだが。

それでもかなり様になって見えたし。

問題ないどころか十二分の活躍だったと言える内容だった。


「僕もアイク君に同意見かな」


いまいち言われた事にしっくり来ていないミナトに後押しを掛けるよう現れたのはフラジオ。


「今日は助かったよ、結構難しい指示も出したのによく動いてくれて。本当にご苦労だったけど……お前もそっち派なのな」


「まぁね!さっきの歴戦の猛者と言う表現も合ってると思うけど、僕には歴戦の猛者を正確に模倣しているようにも見えたかな」


「!」


「歴戦の猛者を、、模倣?やっぱり独特な視点持ってるよねフラジオ君て……僕には思いつきもしないよそんな考え」


「最近登場少なかったし影も薄かったから、積極的にアピールしていかないとなんだよ!」


「登場?何言ってるのほんとに……」


相変わらず掴みどころのないと言うか、独特な感性のフラジオだが。

さっきの言い分はミナトに図星。どころか本人すら気付いていない事を言い当てる程鋭かった。


(模倣……か。

確かに戦況を見渡す時は、あいつの事を意識してる節あったな昔から……)


勇者パーティーの弓使いにして、戦闘での指示出しを行っていた人物。

レイモン。


広い周辺視野能力と冷静かつ的確な指示を出せる頭脳を持ち。

パーティーメンバー以外と共闘するような状況であっても。

即席の大人数で組む事になった時すら正確な指示を飛ばし、多くの戦いを勝利に導いて来た。


(俺にとっての司令塔はあいつで、そう言えば昔にはどうやって戦っている最中にそこまで考えを回せるのかって。聞いた事もあったな)


指示を出さないにしても、戦況を素早く読み取る能力は必要だ。

そうなった際にミナトはいつもその時の教えや、これまでの戦いを思い出して。

彼が居ない時でもレイモンならどうするかを導き出し判断を下す等。


戦闘中での頭の使い方は今でも無意識のうちに彼を参考にしていたのだ。


「……確かにその表現が合ってるかもな」


「え、本当に?凄」


「ふふん!君の事を見ているのはアイク君やフレア君だけじゃないのさ!」


「!?」


またしてもよく分からない決めポーズを決めながらそう語るフラジオの言葉に。

ビクっと反応した者が約一名。


その要因の言葉、というより名前こそ反応した人物で……。


「?どうかしたのか」


「へ!?いや別に、なんでもないよ……」


少し離れたところで話を偶々聞いてしまったフレアは、自身の名が出された事に。

というよりあの話の流れで名前を出された事にドキっとしてしまったのだ。


{ビ、ビックリした……フラジオ君ほんと読めないって言うか驚かせて来るって言うか……}


ミナトをよく見ている人物としてアイクが挙がるのは不思議ではない。

一組どころか、同学年なら誰しもが同じ名を出すと確信出来る程二人の仲は周知だ。

だが対してフレアはと言うと、学園祭での出来事すら知っているアイク以外は。


まぁ話してたりするところ全然見るから、仲は良い方なんじゃない?位の認識だろう。


だからここでアイクと並んで名前を出すと少し不思議に思う生徒も多くないにしろゼロではない。


「ちょっとー、その言い方だと僕とフレアさんがなんか勘違いされそうでしょ。

普通に仲良いだけなんだけど」


フレアがビクっと反応した事に気付いたアイクは。

そこですかさずフォローを入れる。


「おっとそれは済まない。まぁとにかく何が言いたいかって言うと。

思ってるよりも皆君ともっと仲良くなりたいと思ってるって事さ!それじゃ僕は一足先に馬車に乗ってるよ」


またしても指でよく分からないポーズを取りながら去って行く。


「……最後の結論ってちゃんと話を要約してたか?普通に急な話だと思うんだけど…」


「一応本人が伝えたかったことは一貫してたんじゃない?伝わりやすかったかどうかは置いといて……」


それはさておきとして、一つミナトはある事に気付く。


「ところでアイク。……例の修業ちゃんとやってるみたいだな」


「!…成果出てた?」


「ちょっとだけな。でも確実に出てはいる、これからも続けるんだぞ」


例の修業、というのは森羅自天流の修業の事だ。

留学期間中にあったテロリストとの戦いで、アイクは目の前の敵を倒す事に集中し過ぎた結果。

人質の意味を忘れると言う特大ミスをやらかした。


その事を聞いたミナトから。


゛今度から瞑想をする時は、時間の七割は意識を外に向ける瞑想をするように゛


と言われ。


集中力は上がってきているものの、逆にそれで視野が狭まっている事が分かり。

それ以降視野を広げるため第二の瞑想。

意識を外に向ける瞑想を積極的に行ってきた成果が、少し出たのがさっきの場面。

フレアに気が付いた事だ。


確かに戦闘中ではなかったものの、視野やそれを広げるという意識は育ってきている事に変わりない。


「実直さはお前の良い所だ、それを向ける方向をキチンと考えれば更に能力は飛躍的に伸びる。

忘れるな、短所と長所はバラバラな訳じゃない。どこかで繋がっているものだ」


「うん、それと……焦るんじゃないぞ、でしょ?」


「……正解」


その後言われる事を当てる。

普段から話をちゃんと聞いて、彼の性格や今後の方針を理解しているから先読みも出来るもの。


精神的な問題を抱えていた時だったとは言え、ベルに勝った事も事実。

アイクの特訓の成果は確実に出始めていた。

それが師匠の彼だけでなく、周囲の生徒も分かっているという事を本人が知る事になるのは。


案外そう遠くない時かもしれない……。

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