第百四十九話 準備が終わって事が終わればまた次の準備
「ーってな訳だから、今度の大会出てみないか?」
「えぇ……」
留学から戻り、いつも通りの日々に帰って来た今日。
早速話すは先日の件。
困惑気味のアイクを説得するように話していく。
「まぁクロム云々は置いといてもさ、向こうでベルと戦った理由。覚えてるか?」
「…自信の話?」
「正解。なんだけど、他にも理由はある。
例えばもっと俺以外の相手とも戦っていった方が良いとか、実戦に近い状況での経験が欲しいとかもだ」
「うーん、、、出てみようかなとは考えてたし、ミナトが言うなら本当に出てみようかな」
「っし、決まりだな」
(もし断られてたらクロムになんて言われるか分かんなかったし助かったー)
少々かっこつけた事を言っておいてそもそも出場すらしないとなると。
考えるだけで嫌になる程の恥だ。
「……なんでちょっとホッとしてるの?」
「!いやいやまさかまさか、頑張ってほしいなって思ってただけだよ。あ、ほら!次移動教室遅れちゃマズいし行こうぜ」
そしてそんな事を考えていたこと自体あまり知られたくないので誤魔化して。
(じゃあ後は放課後先生のとこ行くだけかな……)
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久方ぶりとなるこの報告会議。
いつも通り扉をノックして、いつもの席に座る。いつも通り向かいの席にミケーレが居る。
長期休暇等で間が開いているにしてももう半年近く行われているのだ。
いつも通り、の感想しか出てこまい。
「で、向こうでの話からだな先ずは」
「分かりました、じゃあ最初に言った方が良さそうなのは……」
そこから留学期間中の話をした。
主な出来事として二つ、英雄否定派によるテロ行為に遭っていた事。ベルの一件。
テロの方は流石に事態が大きかったので、連絡が彼女の方にも届いていたから事前に話は知っていたが。
細かい部分までは知らなかった為度々質問を交えながら聞いていた。
ベルに関しては、特段ミナトから話す事も少ない…というかあまり話せない事も多かった中。
アイクが勝負して勝った事を伝えると流石に少し驚いた様子を見せたりして。
それを見た彼が内心ニヤニヤしていたのは、師匠としての思いがある事が分かる部分だろう。
「あぁ後最後に、頼まれていた学園長への件なんですけど」
そして最後に持ってきた話題は、彼女に最も伝えなければならない事。
「困った時はお互い様、だそうです」
「!……そうか」
「昔何かあった風な言い方でしたけど、もしかして本当に何かあったんですか?」
ミナトは向こうでこの話を聞いた時、よく分からないままで終っていたが。
今の彼女の反応を見ると。ただ善意の言葉だけでは無いと確信が持てた。
「まぁそうだな……大したことじゃないさ。それこそお前も似たような事を何度も経験してるだろうって位のな」
「?…よく分かんないですけど、ちゃんと伝わってるみたいなので大丈夫そうですね。留学期間中の話しはこれで以上です」
話しに一通り区切りが着いた事を確認し、話題を移す。
「それと、個人的な話がもう一つありまして……」
「話?どうした」
「実は数日の間学校を休もうと思っているんです」
「!」
宣言性の欠席連絡。
余程の理由があるのは明白だ。
「……お前の事だ、どうしても外せない用事なんだろ?」
だとしてもここまで素直に受け入れてくれるのはこれまで築いて来た関係値のお陰だろう。
「本当に毎度話が早くて助かります。
こればっかりはどうしても駄目なんです、すいません」
「謝らなくていい。その代わりこっちの要望もまた吞んでもらうから」
「あー……分かりました。前回位の事なら問題ないですし、今回も要望を最初に出したのはこっちですしね」
ギブアンドテイク、とでもいうか。
一つ意見を通して貰う代わりに向こうの意見も一つ呑む。
これもいつも通りの流れだ。
「それで今度は何ですか?悪いですけど剣術大会は日程的に無理そうで…」
「ああ大丈夫だ、それじゃないから。少々急ではあるが明日の授業の事だな」
(授業?しかも明日、って言い方的に継続的なものでもなさそうだし。結構優しめのお願いか?)
一授業単位でのお願い事と言うのはかなり少なく。
ミナトが以前に何度か提案したような、ルールの変更などと言った長期的な話ならまだしも単発というのは珍しい。
「と言ってもやる事は普段と変わらないさ。前々から話してた課外授業についてだ」
「課外授業……留学に行く前からそういえば言ってましたね。実戦の経験を積ませたいとかなんとか」
「そう。だが当然実戦になる分リスクは生まれる。勿論それを経験する為の授業ではあるが、万が一があってはならない。
かと言って我々がガッツリ介入するのも生徒の心情的に安心感が生まれるかもしれないからな」
「それで同じ生徒である俺がフォローに周ればいいと……」
「話が早くて助かる」
課外授業は、初学期からの長期休暇中に行われたあの合宿で行われた実戦演習と似たような内容で。
あの時は祟り神の乱入などによってうやむやになってしまったが。
実践を取り入れたいというのはやはり変わらないので、改めて課外授業として実際に魔物と戦う時間を設けようという訳だ。
だが先程彼女自身が言っていた通り万が一はあってはならない。
しかし同時に守りが徹底し過ぎていると逆に生徒の中で危機感が生まれ辛くなり。本来の目的を達成できないかもしれない。
そこでミナトだ。
確かに実力は頭一つ二つ抜けているが、あくまで同じ生徒の立場であるし。
成長の為に必要なピンチと、本当に危険なラインの見極めもでき。
その点ではある意味教師であるミケーレよりも上手くサポート出来るかもしれない。
「でも、課外授業って一回だけでもないんでしょう?今後もそれは継続ですか?」
「まぁそうなるが……初回はやはり慎重にいきたいところなんだよ。
後は回数を重ねてくる事で油断が生まれ始める時期も気を付けたいところだが。先ずは明日、最初を成功させるのが一番だ」
「分かりました、休むのは三日後から今週いっぱいって予定なので。それでお願いします」
「ああ。理由は聞きはしないが、もし困った事があったら言ってくれよ。これでもお前の担任だからな」
「……本当に困ったら言いますよ」
という具合で話はまとまり。
慣れたこの会も終わりとなる。
(課外授業、今度の肩慣らしには丁度いい機会かもな。
まぁその今度に戦うのが魔物かどうかはさておき、勘は取り戻しておくか)
今回の遠征。
恐らく戦闘になるとすれば魔族、それにかなり強力な者との戦いとなるだろう。
もしそうなれば彼一人では倒せない場合もある。
実力では勝てていたとしても、生物としての。純粋な力が足りなければ倒しきれないという事態になる事は残念ながら十分あり得る。
しかしだ。
その為の選りすぐりの助っ人招集である事も忘れないでほしい。
彼も一人で勝ちたいなんてプライドに拘りはしない。重要なのは勝つ事。
戦って生き延びる事だ。
(明日の授業、俺がガッツリ前に出たら他の皆の為にならないし。あくまでサポートと指示出しに周ろうと思うけど。
多少は自分でもやりたいし、良い塩梅を探っていかないとな……)