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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
153/175

番外編 少し前の彼ら 後編

「ああ、他にも構成員がいるかもしれない。建物は俺が抑えるから外の警戒を頼む」


無事に子供は親の元まで送り届け。

その後諜報員の者達に指示を飛ばし、自身はさっきの建物に戻る。


今真に恐れるべきは奴らの仲間が各地で同じ様な真似を働いている事。

しかし当然ながら広範囲を一人で見回るのは困難である為、人数が必要な仕事は任せ。

あまり人数を必要としない屋内戦には自ら乗り込んで制圧する方針に決め。


大人数戦になりそうな事と、屋内での戦いになる事から今持参している武器では戦い辛いと判断。

よって隠れ家的施設に一度足を運び適している獲物を回収して向かう。


(剣だと万が一の時致命傷になりかねないし、となるとやっぱこいつか)


人が密集していると事故が起きる可能性もある為、殺傷力の低い武器。且つ戦闘力は高い武器が求められる。

その中で彼はトンファーを選択。

一応剣も腰に下げているが使う事は想定していない。





ヤマト族とはまた違う部族に伝わる武器であるトンファーを引っ提げ例の建物に到着。

窓からコッソリ侵入し奇襲……ではなく、偶然迷い込んでしまった子供のふりをして潜入……でもなく。

突入方法は至ってシンプル。


ドアを足で蹴破って正面特攻。


「お邪魔しまーす」


言葉通りの意味で挨拶をし、中に居る男たちの視線が一気に彼に集まる。

いきなりこんな登場をした事で向こうも自分達が喧嘩を売られていると直ぐに分かり。


一人の男が怒りを抑えきれない表情で近付いてくる。


「坊主、ここに何の用だ」


「お前らの仲間が子供を誘拐しようとしてたのを見た。その事について知ってるか」


「あぁ知ってるさ。それで正義の味方気取りでここに来たのか?」


「違ぇよクズが、ただお前らをお縄に付ける為に来たんだ」


そう言うと。

ガキが何言ってんだ、と馬鹿にしてる姿勢丸出しで男達は一斉に笑い始めたが。


「舐めてんじゃねぇぞ」


その後直ぐに殴り掛かってくる。

大袈裟に振り被られた拳よりも素早く突き出したミナトの攻撃は顔面にクリーンヒット。


鼻血をまき散らしながら倒れた男を一瞥してから室内を見渡して一言。


「全員かかって来い」


ここからは向こうも本気。

傍に置いていた自分達の武器を持ちだし一斉に仕掛けてくる。

数で言えば二十はいかない程であろうか、本来なら正面戦闘は避けた方が賢明ではあるが。


子供に手を出す、という行為が彼の逆鱗に触れ。

効率的でなくとも正面衝突を選択。


剣やら斧やらを相手にこちらはトンファーで対抗。


得意の多対一の場面。

ひたすら相手の攻撃を避けながらこっちの攻撃を繰り出し。

一発入れれば即座に次の標的を探し、再び一発。


以降はこれの繰り返しを高速で行う。


言葉にすれば単純だがやっている事は尋常じゃない。

一つ一つの判断速度が有り得ない程速いからこの人数相手を捌けているのだ。


それと今回持ってきた武器。


「おらっ!」


上から振り被った斧の一撃を左手で握っているトンファーで防御。

その後右手に握っている方で反撃を繰り出し、見事なカウンターを決める。


(やっぱ対人戦には便利だなこれ)


特注で作ってもらったこの打撃武器。

一時期は魔物よりも人と戦う事の方が多かった事もある彼が。

職人に依頼して作ってもらった特注品。


後に作られる木刀と似通っている作りで、耐久性は抜群。

金属武器とも互角に殴り合う事が出来る耐久力とミナトでも扱える重量を兼ね備えた。


オーダーメイドの名に相応しい彼愛用の武器。


「逃げれるなんて万に一つも考えるな。せめて一矢報いる為に全力で来い」


______________________________________


その後程なくして建物内の制圧は完了。

一応目が覚めた時暴れないように男達は縄で拘束。


全員分終わると、次は建物内部の調査を開始。

作戦資料や連絡を行っていた書面など。こいつらについての情報を探す。

これはミナトのミスによって生まれた工程でもあるのだが……。


(一人位残しときゃよかったな、情報を聞き出せなかった。ちょっと頭に血が上り過ぎたか、感情のコントロールがやっぱり駄目だ)


と反省しながら色々と探っていると、諜報員の男が一名現着し。


「外部での調査報告をさせていただきます」


彼等に頼んでいた外の警戒の方に関してで。

ここに来たという事は何かしら情報が掴めたのかもしれない。


「話せ」


「はい。

先ず端的に申しますと、挙動や風貌が怪しい者は数名居ましたが。どれも目立った行動はしておらず。

問題は特にありませんでした」


「ふむ……だが引き続き警戒は頼む。ここが堕ちたと知れば何かしらアクションを起こす可能性もあるからな」


(これは呑気に聖魔祭見てる場合じゃないか……)


騎士団に情報を渡して後は任せる手もあるにはあるが

確実なのは自分達で処理する事だと考え、聖魔祭は諦めこれ以上被害者が出ないよう努める事に。


______________________________________


数日後。


ミナトを始めとする諜報員等の影の功績のお陰で。

仲間とみられる男達を次々と確保。


またしても小さな子供を誘拐してようとしている者も居たが、見回りの甲斐あって未然に防ぎ。

被害者がこれ以上増えることはなかった。

それだけが彼らの救いである。


(聖魔祭期間だけでもかなり捕まえられたし、後の警備は普通に騎士団に任せてもいいだろ。

でもこの祭りが終わるまでは警戒しとくか)


捕まえた男達は騎士団に引き渡している。

色々と口実をこねくり回しているようでこちらが怪しまれることはないが。

今後警戒を強めるよう要請は出しておいているらしい。

らしい、というのは。この手の後処理は基本的に諜報部隊の彼らがやってくれているから実際にミナトがやっている訳ではないからだ。


(うし、後数日もう一頑張り)








現在の見回り範囲は、この聖魔祭が開催されている街全域。

特に人通りの少ない箇所には人数を多く割き、逆に人が密集している箇所は人数を減らす。

単純に危険度が高い場所を警戒する配置であり。

最も見張り役が少ないのは聖魔祭の会場付近。


その辺りは騎士団の警備が非常に手厚く、元々安全性が高い為だ。

だから彼らはこれから起こる事に気が付かなかった訳だが……。





会場付近。

丁度これから3年生達の個人戦が始まる頃。


ある男が1人佇んでいた。

引率教師としてこの祭りに来ていたのは、第一魔法学園のニューサ・エレディータ。


試合が始まる前に、少し席を外すと言って会場裏まで来ていたのだ。


「ふぅ……」


この頃はまだ学園長ではなく。

父親がその席に座っていて、現在は教師の一人として経験を積んでいる最中で。

特別な役職や国家最強クラスの実力を持っている訳でもないと言うのに。


聖魔祭などの場に出れば多くの人物が彼の元へ挨拶にやって来る。

その真意には当然気付いているのでそれに嫌気がさし。


こうして外に出てきて一人になっているという訳だ。


{いつか、あの子もこんな思いをするんだろうか……}


先月生まれた自分の息子。

生まれた家系が同じならば、いつか同じ悩みを抱える日も来るだろう。

そう考えれば憂鬱な気分にならざるを得ない。


息子がこんな思いをしなければならないのなら、自分はその為に何かできないだろうか。

未来を憂い考え始めた時だった。


突如として物陰から現れた男三人組。


「っ!」


全員が武装し、完全な奇襲の体勢。


{何者っ……!}


ここまで明らかだと抵抗しても問題ない、とニューサは魔法の発動を準備。

得意の雷魔法で一掃しようとしたところ……。


「かかったなぁ!」


「!?」


{魔法が……!不発?いや違う発動妨害、、、あの魔道具か}


よく見れば飛び出してきた男の中の一人が怪しげな魔力を放っている物を身に付けている。


{お前が魔法を使う事は把握済みだ!当然対策してるぜ!}


「やるぞお前らぁ!」


魔法封じという最高級クラスの魔道具を準備してきた彼らは。

先日からミナト達が追っている者達の一味である。


拠点が潰され、各地で仲間もやられていっていると聞き。

半ば投げやり気味に当初の目的に移行。

本来なら子供を人質に取りながらより確実にニューサを仕留める手筈だったが。

それに失敗。


強引にでも目的だけは達成してやる、という執念がこのような事態に繋がってしまったのだ。


{近接武器は持ってきていない、魔法も使えない。せめて致命傷だけは避けて助けを……}


避け切れないと一瞬のうちに判断すると、目的を生きる事のみに絞り。

命さえあれば腕の一本程度なら無くしてもいいと覚悟を決める。


生まれたばかりの息子の存在が、命を捨てる選択を消していたのは時期的に幸運だっただろう。


そしてその幸運はまたしても続く。


向こうの攻撃が届くまでの僅かの間、彼は誰かが物凄いスピードで迫って来ている事に気付く。

同じ教員や騎士団の者でもなく、見知っている魔力の反応ではない。


誰なのか斬られる前に見ておこうと顔を向けると。

そこに居たのはまだ小さな少女だった。

だがその姿は一瞬で遠くから目の前まで移動し。


「ぐあっ!」


空中で男三人を瞬く間に撃破。


目にもとまらぬ速さとはこういう光景の時に使うのだろう。

移動して来る速さ、剣を鞘から抜き振り被って相手に当てるまでの速度。


電光石火の如く現れた彼女は、なにかため息をついている。


「はぁ……雑魚が道具だけ揃えて、みっともな」


まだ小さく、歳は十を越えた辺りであろう少女は。

決してその外見とは似つかない様な言葉をぶつぶつと吐いて。


「えぇっと、、怪我とか大丈夫そうなので、私先に行きますね。後の事は頼みます、それとなるべく私の事は秘密にしといてください」


「え?あ、ちょっと待っ……て、もう行ってしまった」


助けた人の方にはパパっと一言だけ伝えてまたどこかに行ってしまった。


{今のは第四魔法学園のミケーレさん……本当に規格外の少女だ}


弱冠十二歳にして野蛮な男三人を瞬殺し、名家エレディータ家の人間を助けたと言うのに。

あの態度。


何から何までぶっ飛んでいる。









「あ、居た!もう直ぐ試合お前の番なんだぞ」


「知ってるよ」


「知ってるよって……まぁ変に気負ったりしてなくていいか」


試合が始まる前だと言うのに姿が見えない彼女を探しに来たのは。

まだ若かりしこの男、ガブリエルだった。


「気負う?私がそんな事すると思ってるの?」


「まさか、一応もう二年以上の付き合いなんだ。分かるよそれ位」


「付き合いって言葉なんか嫌なんだけど……」


「はぁ?いーじゃねぇかよ、俺以外と仲良くしてる奴も居ないのによく言うぜ」


「そもそもあんたと仲良くしてるって事自体が、、、ねぇ」


「おいおいおいそこからか?軽いショックかもしんねぇ……」


「はぁ……でも、私の事探しに来てくれたんでしょ。

意味があったかはさておきありがとうとは言っといてあげる」


「!そうだよ、なんで本番前にあんなとこほっつき歩いてたんだよ」


「んー……一人になりたかったって言うのと、後は勘かな」


「勘?」


「そ。あっちに行った方が良さそうだった気がして」


「よく分からねぇけど、、良い事はあったのか?」


「……多分?」


「そんなんでほんとに本番大丈夫なんだろうな……今年こそ獲るんだろ、優勝」


「そこは心配してもらわなくても獲って来るから大丈夫」


「ほーう安定のビックマウスか。もし俺が勝ったりしても文句言うなよ」


「はっ、誰が」


すたすたと会場へ歩きながら話す二人。


歳は少し離れているが、その空気はただの同級生同士の会話にしか見えなく。

今後数々の偉業を成していく彼らの功績の一つに刻まれる事になる聖魔祭。


{今年こそ、、今年こそ私が一番に……!}


五つも歳の離れている者達を実力でねじ伏せ、飛び級入学は正しかったと証明してみせた三年度の個人戦優勝。


当時から高いリーダーシップと優れた支援魔法により、前代未聞の団体戦三連覇に導いた団体戦。


どちらも規格外であるこの二人、そして最後の聖魔祭となる今回。

その裏で思いを馳せるは……。








秘密にしといてくれ、との願い通り。

ニューサは自らが取り押さえた三人だと言い男達を騎士団に引き渡した。


{恐らく私の事は知っていただろうにあの振る舞い、、、あんな人に出会えればベルもきっと……}


立場など気にせず接してくれる人が一人。

傍に居てくれればきっと自分が抱えている様な悩みは軽くなる。

そうなるよう願うと同時に、心にある事を誓う。


{そしてミケーレ・ステラ。もし彼女が困った時、私は君にこの恩を返すよう誓おう。

勿論そんな時が来ないのが一番であるが、もしなってしまった時は必ず}


いつか恩返しをする事を決めながら。

彼もまた聖魔祭の会場へと足を運び始める。










警戒態勢を敷くのは聖魔祭期間中まで。

つまりミナトは結局この盛り上がりを耳にしながらもその場へ行く事はない。


(今頃あいつんとこの子が試合してるかな……どんな剣してるんだろ)


街を周り、周囲の監視をしながら物思いに耽る。


(去年行こうと決めてたら、、聖魔祭も見に行けたかな。

って何考えてんだ俺。出来ない事は考えるな、そう今まで散々あいつにも説いて来てたろうが)


頭の中で邪念、よくない事だと思い振り払おうとするが。

結局考えてしまっている。

後悔してしまっているのだ。


(……いい、そもそも俺が見に行く事自体許されない事だ。それに見に行く理由が理由だ。

俺はあいつの元から消えた、身勝手に。今になってどの面下げて行くんだよ。

それに俺はもう()()()()()を選んだ、後戻りする気も。あっちに行きたいという気持ちももうない)


こうして誰かを守る為に駆け回っても、感謝をされる訳でも。給与が与えられる事もない。

襲われている所を助けでもしたら感謝されるかもしれないが、事前に防げなかったこと自体失敗を意味している今は。

感謝を伝えられていること自体が失敗の証で。嬉しい言葉ではない。


報われる事はないこの道を選んだと言う彼は、とても酷い顔だ。


ニューサやミケーレとは全く違う。

諦めてしまった顔をしている。


抗おう、あっちに行こうという意思を持つこと自体を諦めてしまったような。


そんな顔だった。

今回出てきた敵の作戦はこうです。

先ず子供を人質として扱い、、標的であるニューサを殺害、又は見せしめとして活用し。

そこから各地に潜伏していた仲間達が連動して、あたかも勇者の子がやられた事で世間が不安定になっている。風を装う為に。

暴動を起こしたり、悲劇だと嘆く事で国民に不安を伝播させていったりして。最終的に国を揺るがしていき今の態勢をぶっ壊そう。

というかなり詰めの甘い作戦だったそうです。

思想で言えば英雄否定派にも近いですが、違うところを挙げるとするならば。別に勇者云々に限らず今の国家に対して不満があるだけ。という事ですね。

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