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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
152/175

番外編 少し前の彼ら 前編

時は遡る。


これは十数年前、人知れず世界を救っていた物語……。


と言うには少し大袈裟だが、実際人々の安寧を脅かそうとする者達との記録に残らない事件の話しである。


______________________________________


ミナトが呪いを解く為に世界中を周っていた頃。

とある町であるニュースが聞こえてくる。


「今年も聖魔祭の季節だよ!注目生徒から周辺で評判の宿屋まで載ってるうちの記事いかがですかー!」


時期が近付いてくると毎年どこに居てもこの話はやって来る。


(聖魔祭……ほんと三百年以上欠かさずやるなんて凄いよ全く。あれ?そういや確か今年って)


感心していると次に耳に流れ込んだのはある人物の名前。


「今年の目玉はあいつだろうな」

「まぁ飛び級ってだけで話題性あるのに、あのミスラ?とかなんとかの血筋らしいし」


「大注目は最後の年となっても未だ十二歳!新鋭ミケーレ・ステラ!彼女のコーナーも載ってるよー!」


魔法学園史上初となる飛び級入学者。

若干十歳にして少数精鋭の第四魔法学園に入学し、三年生となった今でも誕生日の関係で歳は十二。


入学だけならまだしも、男女混合の聖魔祭において個人戦で選抜選手として選ばれ。

初年度こそ二回戦敗退であったが次の年となる二年時にはなんと準優勝という快挙を成し遂げる。


五つも歳の離れた男子とも互角以上に戦い抜いた事で。

話題性の為の出場だのコネ入学だのと言った声を実力で黙らせ。

今や世界で最も有名な十代の人物は彼女と言っていい程名声は各地にまで響いている。





(最後に見に行ったのはミスラの時以来か……あいつの息子の試合も興味はあったけど。

そこで見つかったら色々あれだったから行かなかったけど。今ならその心配も無いしな……)


呪いについての調査と言っても、正直世界の至る所を既に周り切った彼は。

もう長い間日々に変化がない。

よって数日程度何もしなくても問題は無いし、取り急ぎ対処すべき他の問題も今はない。


(行ってみようかな久々に。噂の少女がどんなもんか……)


本音を言うと、自身唯一の愛弟子の子供達を見たい気持ちはずっとあった。

少し試合を覗く位ならいいんじゃないかと思っては。いややはり俺に行く権利はない、と自分に言い聞かせ。


結局うだうだ考えてる間に世代は次々と変わり。

気付けば百年近い年月が経った。


そこまで躊躇っていたのに何故今年急に行く気になったのか。

飛び級入学をした少女が気になったのか或いは。


ミスラの面影を見たくなったからなのか。

答えは分からないが一つだけ分かる事はある。

彼の精神は、長い一人旅によってもうすり減り過ぎてしまっているという事だけだ。


______________________________________


数週間後。


聖魔祭開催会場を前に、溢れんばかりの人混みの中で辺りを見渡すミナト。


(凄い人だなほんと……一大イベントって事は知ってたけど、まさかここまでとは)


周囲はどこを見ても人だらけ。

屋台の呼び込みや、親の手を引いて急かす子供、急かされる親に。俺は分かってるぜ風を醸し出したいのだろう静かにほくそ笑んでいるおじさんまで。


老若男女多種多少な人達が集まるこの日。


(ここまで人が居れば、ちょっと見てくれが怪しい奴が何人か居ても不思議じゃないが……。

気を付けるよう言われたし、俺もこんな祭り事で嫌な騒ぎなんで怒って欲しくない。一応警戒だけはしとくか)


折角なので初日の一年生の試合から見物しようとしていたミナトは。

約一週間という彼の中では長めの期間を休日として設ける為。

念の為諜報員達を束ねるリーダー的存在にこの話をしたところ、ある話しを聞かされる。


その話と言うのが。


(何やら周辺で不審人物の目撃が短期間で急増していて、聖魔祭の準備期間に入った途端ピタッと止んだ。ねぇ……)


正直偶然とも言える不審者情報なのだが、一応頭の片隅程度に置いておく事にし。

ぼちぼちと会場周辺を歩き始める。





(ちょっと腹減って来たし、どっか適当な屋台でなんか買うか)


この街に来るまでかなり馬車で長い間移動してきて、人混みに揉まれながら歩き。

そこら中から良い匂いが流れてくるなれば流石に腹も減る。

適当な物で空いた腹を満たそうと辺りを見渡してみると、見えてくるのはずらーっと並ぶ屋台の数々。


そして大量の人達と、裏路地にこっそり抜けていく不審な男が二人。


「……」


森羅自天流の修業の成果か、非常に視野の広い彼は僅かな事でも見落とさない。

今回も見落とさないでよかったのだが正直に言えば、見つけたくなかったものを見つけてしまうのは少し癪だ。


(行くしかないよな……)


ポリポリと頭を掻きながら少し面倒くさそうな表情で男の方へと歩き始める。


さしもの彼でも休みたい日、気を抜いて楽しみたい日くらいあってもいいだろう。

今日が正にそうだったのだが見つけてしまったからには仕方ない。


それにさっき言った通り、こんな日に嫌な騒ぎを起こされる方がよっぽど気分も悪い。





相手に気取られぬようコッソリ二人組の後を追い続け。

辿り着いた場所はある建物。


一見するとただの民家にしか見えないが、コンコンと扉をノックすると。

内側から扉が開き、明けた者と一言二言交わした後に周辺を確認してから入室するという。

もう見るからに明らかな現場を目撃。


(ここまで来ると何かの遊びとかであってほしいレベルで分かり易い……)



その後暫く物陰から建物を見張っていると。

さっき見た男達とはまた別の二人組が出てくる。


何だか間抜けな連中にも見えてきたので、そこまで真剣になる事もないと思い。

建物は一旦放置しておいて出て行った二人を追いかけてみる事に。

本気で警戒しているなら、さっさと諜報員達を呼びつけているところだ。





だがミナトはこの自身の選択を幸運に思う事になった。


最初の内はただ辺りを歩いているだけに見えたが、突然人通りの少ない場所に居た子供を掴み。

人気が殆どない路地裏まで連れ去る光景を目撃。


(!こっちに来て正解だったな)


当然見て見ぬ振りはせず、行使できる実力があるので迷わず取っつかまえに向かう。


連れ込んだ子供の身動きと口を封じる為に拘束を施そうと足を止めた時。


「お前ら、それは越えちゃならねぇラインだ」


「「!」」


背後から少し脅かして戦闘に入る。

だがお世辞にも戦いになるレベルの相手ではない。


「なんだてめぇ!」


力任せに振るわれた拳を軽々避けると、脛を蹴って体勢を崩してから自身よりも体格の大きい男をひょいと投げ飛ばし。

冷静さを失い襲い掛かってくるもう一人も鳩尾に肘打ちを入れてノックアウト。


(子供に手出すんじゃねぇクズ共が)


一瞬にして二人を制圧。


「僕、怪我は?大丈夫?」


「だ、大丈……う、、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


「!?落ち着いて落ち着ていて、大丈夫。悪いおじさん達はもう居なくなったから。ほら!お母さんとお父さん探そう!な?」


怪我は特になかったものの、解放された事で急激に涙が溢れ出てきた子供を必死にあやすターンが今度は始まる。


(まぁ誘拐されそうになりゃこうなるよな、こいつらの後始末は後で頼むとして。せめて親元に届けるまでは責任持つか)


取り敢えずはこの子供を保護者の元まで送り届け。

無様に気絶しているこの二人の処理は後回しに。


(だがいきなり子供を誘拐……その為に人を集めたのか?だがどう見てもこの子は普通の子供だ。

貴族の出でもないようだし身代金交渉をしようとした訳でもないだろうし……。

こうなったらあの建物と中に居る奴等全員調べるのが手っ取り早いか)


最初は成り行きで注意していったが、徐々に話は進んで行く予感が既にしていた。


ただの突発的な誘拐事件とも思えないし、何か別の目的があると考えると人が集まるのにも合点がいく。

建物の規模から見ても合計で十人ほどは余裕で入れそうなので。

さっきの仲間もまだ人数が居るだろう。


聖魔祭開会式が始まった事が分かる声援を微かに耳に入れながら、まだ涙が収まっていない子の手を引いて歩いて行く。

この話ほんとは描くつもりはなかったんですけど。

前回ニューサのセリフで意味深なの入れちゃったのでこれはちゃんと回収しないとな、と。

流石に一話で纏めるのはしんどかったので前・後編に分けようと思います。

あと次章のタイトルもその間に考えときます。

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