表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
150/175

第百四十六話 行方

ミナトとベルの勝負は、かなりの接戦となった。


アフィスを発動させ速度が飛躍的に上昇し。

加えて精神的な枷から解き放たれた為か、攻守にわたり動きの読めない変幻自在さを見せ。


先程の戦いぶりはどこへやら。

本気のミナトとも互角レベルに戦う大健闘。

だったのだが……。


強力な効果を発揮するアフィスは発動時間が短い事が弱点。

効果が切れてからはと言うと。


諦めずに喰らいついて行ったのは良いが。

接戦と言える程白熱した後だったのでミナトも相当テンションが上がっており。

完全にブレーキを忘れ最後までフルスロットル。


結果は……言うまでもないだろう。


光景だけを見ればまるで何かのイジメにも見えるかもしれない。


「……」


「これは……アイクの時より酷いな……」


周囲で見ていた生徒は皆ドン引き。

普段彼と特訓をしている二人でさえこの反応なので、特に第一の生徒からしたら最早軽いトラウマになるのではないだろうか。


そんな状況でも未だ攻めに行っているベルもベルだとは思う。


「…今更かもしれませんが、あの木刀?ってそう言えばなんなんですか」


もうただ見ているのが辛くなってきたのか、アンテレが突然質問を投げ掛ける。


「何が?前うちに来てた時も見てたよね」


「そうなんですけど。改めて考えるとあの強度やっぱりおかしいなって。

ここまで激しい打ち合いをしても大丈夫な木製の物なんて……あれ位だと思いますよ」


「でもアンテレもこの前作ってたでしょ?似たようなやつ」


「あー、、あれは魔法で一時的作った物ですから。全く別物です」


ミナトさん達と合流した後直ぐ、形を維持できなくなったじゃないですか。と付け加え。


「僕のは他の魔法と同時使用するのも難しい位勝手が悪い物ですから」


「え?」


「?」


{同時使用が難しい?でもあの時拘束用にも魔法使ってたような……もしかしてあれ結構危ない橋渡ってたのかな}


大人しめなこの感じで危険な賭けに出ていた事は一旦置いておくとして、話を進めよう。


「まぁいいや。それで、、武器として異常って事を言いたいの?」


「そうですそうです、あんな物どこで手に入れたのかも気になりますし」


ここで、確か……と切り出したのはトロール。


「メインの刀を作る時に一緒に作ってもらったって言ってたな。

以前俺も気になって聞いてみた事があったが、あいつの言い分では……。

最高級の素材に最高クラスの職人の技があればこれ位出来るって話しだったけど…」


正直この光景を見れば、後もう一つ必要なある事に気付く事は容易である。


「……どう考えても達人の腕前があるから、ですか」


「比較対象が居ないから分からんが。あいつ以外が使ったら棒術とかのやつの方が立派な武器になりそうだな」


彼の異常さを再認識している三人。

一方で、ゼノの方はと言うと……。


「わ、笑ってる。ゼノさんが笑ってるよ」

「おいあんま声出すな、聞かれたらやべぇって」


仮にも友人がボッコボコにされている光景を見て静かに微笑んでいる。

普段笑う事の少ない彼を見て、一部の生徒達はそっちに驚きつつも。

大半の生徒はそっちに目がいっておらず。

ずっとベルの姿を見続けている彼らはこう思っていた。


今日ここまで残っていて良かった、と。


中には最初のうち、それこそアフィスを使う前に退出した生徒もいた。

だがそうせず最後まで見続ける選択肢を取った自分は幸運だった。そう言い切れる程。


理由は色々とあるだろうが。

一番はきっと……。


「ベル君、楽しそうだな……」


普段見れない様子を見れた、とか。

明らかに動きがこれまでより良くなっていたから、とか。

それだけじゃない。


一人の少年として勝負に没頭しているベルと、全力で応えるミナト。

楽しそうであったり、一武人としての尊敬であったり。

本当に様々な感想を抱ける光景で、こんなものは人生でそう何度もは無いと断言できる。


追い付けないとしても、彼らのように戦う事が出来なかったとしても。

彼らのように全力を尽くせる人間になりたいと思う事が出来たから。


______________________________________


最終的に、二人の戦いは一時間近くにまで及んでいたんじゃなかろうか。


疲れ果てたベルは、その場にバタンと倒れ込み。


「負けたー」


と凄く満足そうに言っていた。


「にしてもミナト君、君本当に手加減しなかったね最後まで」


「そりゃそうだろ。全力でぶつかってくる相手には相応の態度で応えるのは当然だ」


「っはは、同感。

そう思うとアイク君には悪い事しちゃったし、帰っちゃう前にもう一回位勝負したいかな。

今度は負けたくないし」


「ああ、そうしてやってくれ」


一先ず勝負を終え、雑談に入る二人。


「ありがとね、本当に」


「何言ってんだよ、それ言うのは俺にじゃないだろ。ほら!もう終わったからこっち来いよ」


そう言って呼んだのは、ずっと勝負を見守っていたゼノ。


「ゼノ……」


「……」


すたすたと向かってきたのはいいが、目の前まで来たのにしばらくは喋らず。

少し考えたの後にため息をついてからようやく口を開く。


「……さっき言った通り約束破った事に関してはチャラにしてやる」


それに関して、ベルはまだ本人に謝罪もなにも伝えていない事を思い出す。


「本当にごめん。色々察して言わないでおいてくれたんだよね」


聖魔祭以降、特にエレディータ家として目を向けられるようになったベルは。

以前と同じように自分を抑え込むようになっていた。

学校でも家でもどこに居たとしても気は抜けず、常に取り繕っていないと。どこから話が伝わるのか分からない恐怖がそうさせていたのだ。


「まぁ、、俺もお前に何もしてやれなかったから、もう面倒くさいのはこれで終わりだ」


「うん……ありがとう」


「あ、ずっと俺とやる時もアフィス使わなかった事に関してはまだ怒ってるから。明日からちゃんとやってくれよ」


「勿論!言った事を後悔する位存分に見せてあげるよ。今度こそ約束」


とても良い雰囲気だし、自分が呼んで話させてなんだが……。


(き、気まず……こっそりアイク達の方行こっかな俺も)


なんて考え始めたところで、二人もずっと置き去りにしていたミナトの存在を思い出したらしく。

立ち上がっている最中に目が合ってしまう。


「「あ」」


気まずくて逃げようとしたみたいになっているし、そのままスルーしたりサラッと一言だけ言うならまだしも。

あ。と反応してしまったが故に微妙な空気が流れる。


こうなったら仕方ないか、と先に口を開いたのはミナトの方だった。


「……ベル、何があったかは知らない。けど自分を大切にしてくれる人と、自分自身を蔑ろにしちゃ駄目だ。

もう分かってるとは思うがな」


少し前の彼がこれを言っていたなら、どの口が言っとんじゃ!となったかもしれないが。

フレアとの一件以降なるべく行動を改善してきた今の彼なら説得力も生まれてくる。

現に後ろに居るアイクとフレアも。うんうん、と言った様子だ。


「大丈夫、ちゃんと分かってる。ミナト君も改めて本当にありがとう。

ちょっと吹っ切れたよ」


その顔は、ここに来て初めて会った時とは違い。

爽やかで本心なのだと直ぐに分かるものだった。


「良い特訓相手も居るみたいだし、なんか言ってくる奴が居ても実力で黙らせてやればいいよ。

安心しな、俺とあそこまで戦えたんだ。大抵の奴には負ける事がないって、俺が保証しとく」


「……それは頼もしいな」





こうして、長時間に及んだ突発謎の練習会は幕を閉じる事になる。


(やっぱいまいち似てないけど、姿が重なる部分はあるんだよな。

なら後ここですべきなのは……もう一人の方か)


残りの期間も短くなってきた交換留学だが、やるべき事はまだ残っている。

ミケーレからの頼みでもある、もう一人。

第一魔法学園、現学園長ニューサ・エレディータへの接触。


(あの人も、厄介なもん抱えてそうだし。どうすっかな……)

久々にこの時間に投稿出来ました……。

最近、特に今年に入りペースが不安定になったり。留学編に関しては一ヶ月近く描いているのに話数で言えば十話程という体たらく。

これからはペースも完全にとは行かずとも、少しは前のように戻せそうなので。

今後とも忘却の勇者をお楽しみしておいてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ