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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
149/175

第百四十五話 友

エレディータ家として、ずっと育ってきた。


親も、仕えてくれる人達も。

沢山出会って来た大人や、同年代の子等ですら。

皆ベル・エレディータに接してきて。


それにエレディータとして答えていくのが、自分の役割なのだと幼いながらに分かった。


だからこそ、ゼノとの出会いは衝撃だった。





{素行不良の生徒の取り締まりって、、、風紀委員でもない人に任せる仕事か?まぁやるしかないんだけど}


入学して一ヵ月も経たない頃、先生からある頼み事を任された。

どうやらその生徒は、同い年だろうが先輩だろうが誰とでも喧嘩するらしく。特に先生方にはまともに話す事すら出来ない程反抗するのだとか。


そこで同じ生徒、且つなるべく歳や役職等が変わらない。

要は一般同級生Aのような人物に頼ってみようとなったそうで、こうして自分が駆り出されたのだ。


「それで、君がゼノ君?」


「あ?……生徒会でも風紀委員でもない奴がなんのようだ」


初っ端から喧嘩腰全開。

彼に会うまで結構歩き回ってようやく見つけたというのに、この対応だとため息でもつきたくなる。


「そんなに警戒しないでほしいな、ただ話をしようと……」


{先生に頼まれて、なんて言ったら話を聞いて貰えないだろうし。先ずは様子を見て……}


そういう手順のつもりだったのに。


「ふん」


最後まで言いきる前に、呆れたような反応をされる。


「やっぱお前もか……」


「お前も?どういう事かな」


その後暫くこちらを見たゼノは、またしてもため息をつき呆れた様子で告げる。


「気付いてるか気付いてないかは分からんが、もう染みついちまってるみたいだな。お前のそれ」


「?さっきから話がよく見えないんだけど……何が言いたいの?」


「なんで俺がお前にわざわざ教えてやらなきゃならねーんだよ、面倒事は俺だって避けたいんだ。好きにさせろ」


「あ、ちょっとどこ……んー、、これは厳しそうだな」


結局初めて会った時はあまりきちんとは話せなくて。

この様子じゃもう一度トライしてみたも結果は変わらなそうだし、駄目でした。で報告して終わらせることも出来た。


でも不思議と、彼からは少し他と違う何か……見えているものが違うんじゃないかって気がどうにもして。

まだもう少し交流を図ってみようと思い始めたのは、今となって考えれば本当に良い選択だったと思う。





その後何度も彼を探しては話しかけてみて、その度あしらわれたけど。

それでも興味は尽きなかった。

彼の事を知る事で、何か起きそうな予感がしていたから。


でも一向に話を聞いてくれることはなく。

流石にどうしたものか、と悩み始めた時。ようやく向こうが折れてくれたみたいで。


「いやー嬉しいな、君から誘ってくれるなんてさ」


{と言ってもここか……まぁここなら自主練で済ませられるから、問題にならないだけかもしれないけど}


あまりにしつこく迫った為か、これでハッキリさせる。と言って連れてこられた場所は、寮に隣接されている練習場。


{これで見極めてやる。お前の本性を}


「変な前置きなんて必要ないだろ、さっさと始めようぜ」


無駄な事を嫌っているのか、それとも早く終わらせたかっただけなのか。

とにかく戦う以外に選択肢はなく。


「ルールはさっき言ってた通り、基本なんでもオッケーなんだよね?」


「ああ。だからご自慢の勇者様の魔法でも使ってみな、負けた時の言い訳なんて聞きたくねぇから」


「結構言うね……これでも腕には多少自信があるんだ、少しは楽しんでもらえると思うよ」


そして初めてゼノと戦う事になった。

成り行き上仕方なくだったから、そこまで乗り気な訳でもなかったけど。

この人となら良い勝負になりそうだなと思ってかなり本気を出した。






魔法を主に使う事は知っていたし、相性はこちらが有利だから苦戦はしないと思っていたんだけど……。


「つ、強いねゼノ君……正直ここまでとは思ってなかったよ…」


勝負は白熱し、かなりの接戦を極めていた。


「……そっちこそ、意外と根性あるな」


「意外だって?もし根性がなかったらそもそもああ何度も話しかけには行かないよ」


「……」


確かに、みたいな様子で黙っていたから会話は一度そこで途切れたけど。

以前よりも会話らしい会話になったと言うか、距離が少しは縮まった気がした。


「それで、まだ続ける?」


「当たり前だ。お前まだあの魔法使ってねぇだろ、舐めやがって。

見てろよ」


「……」


最初に質問を投げ掛けたのはこっちだと言うのに、今度は自分が黙ってしまった。

彼に感じた他と違うものが何かを掴みかけてきたから。

あと少しで、この不思議な感覚の正体が分かりそうな気がして。


「……ねぇ、一ついいかな」


だからここで思い切って聞いてみる事にした。


「最初に会った時にさ、僕に何かが染みついてるって言ってたよね。

あれって結局なんだったの?」


核心に迫る質問だった。


初めて会った時、彼は僕の何かを見透かしていた。

それは自分自身ですら分からない何かで。

前はそんなものあるだなんて知らなかったけど、一度存在を知ってしまえば。突き止めておきたい衝動が抑えられなくて。


その感情がここまで自分を突き動かしてきた。


「……じゃあ逆にそっちが先に答えろ。

なんで俺にここまで構う。ハッキリ言っておかしいだろ、何十日もずっと追いかけてくるなんて」


……そう言われたら少し痛い。

確かに執着し過ぎていた節は思い当たる。


「んー、、それこそさっきの質問が気になってたからなんだけど……。

強いて言うなら興味かな、知りたくなったんだ」


「何を?」


「君と、君に出会って知ったまだ自分でも知らないこの気持ちが何なのか。

それを知る為に必要な事だったとは言え、確かにしつこく話しかけたりしたのは悪かったと思ってるよ。ごめん」


ゼノは少し何かを考え込んだ様子で黙っていたけど。

それが、面倒くさいからとかじゃなくて。ちゃんと真剣に考えているからこその間だという事は分かった。


「……少なくとも今のお前に足りない事なら教えてやる」


「!…お願いするよ」


遂に求めていたものを知れると思うと、ワクワクが止まらなかった。


「それはな、本気だよ」


だからこそこの答えは、衝撃的で。

後のゼノとの関係を決定付けたものだと思う。


「お前、最後に本気を出したのいつだ」


「いつって……さっきのも結構本気だったんだけどな」


「いいや違う。なら何故あの魔法を使わない、持っている手札をすべて使いきるのが本気だろ。

しかもお前は現に今俺に勝てている訳ですらないのに、笑わせるぜ」


「……それはえぇっと…」


{アフィスは、、そう簡単に使えるものじゃない。もしあれを使って負けたなんて知れたら……}


それはアレウス様に泥を被せるような行為だ。

昔からそう教わって来た。


「はぁ……俺程度相手にするのに切り札は必要ないとでも言いたいのか?」


「違っ、それは絶対に違う!」


「だったら使えよ」


「……そう簡単に使えるものじゃないんだよあれは」


「なんだ、発動条件が厳しいのか?それとも一対一には向いてねぇのか?いいや違うな。

使えないんじゃない、お前が使わないだけだ。そうだろ」


本当に鋭い奴で、的確に真実を言い当ててくるし。

言葉に容赦がない。

でもそれが僕には必要だったのかもしれない。


図星を突かれて言葉が詰まっているところに、追い打ちがやって来る。


「俺は貴族連中の事が大嫌いなんだよ。

だから当然そのトップ層に居るお前みたいな奴も好きじゃない」


{そ、そんなの……}


「でもお前は他と何か違う気がした、だからここまでしたんだが……どうやら俺の勘違いだったらしいな」


この瞬間、心の中にとてつもない焦りの感情が湧いて来た。

同時にこれまで溜めこんで来た怒りや不満が、抑えきれない程心の制御が効かなくなって。


「結局、お前も血筋に囚われてるような奴だったなんだな…」


呆れた様で、だけども少し悲しそうなゼノの顔を見た時。僕を抑えていた何かが切れる感覚がした。


「……だよ」


「?なんだ」


「貴族が嫌いなんて、僕も一緒だよ!」


「!」


「いっつもいっつも上辺だけ取り繕ってすり寄って来て……あんな奴等もううんざりだよ!

君よりもよっぽどあいつらの性格の悪さ知ってるよ僕の方が!」


「お、おうそうか……」


「あとさ!僕が他の奴らと同じだって?冗談じゃないね、あんな連中と同じにしないでほしいな。

なんなら今ここで証明してあげるよ!言い訳も出てこない位圧倒的に勝ってみせるからさ!」


「ぁあ?」


「お望みのアフィスだって使って、完膚なきまでに勝ってやるから。今のうちに言い訳でも考えといてよね!」


「…ったく、誰に向かって言ってやがる」





そこからは本当にくたくたになるまで戦った。

アフィスなんて直ぐに時間制限が来たし、お互い魔力が無くなった終盤なんかは酷い戦いだったと思う。

意地の張り合い。って言葉が一番しっくりくるかな。


「はぁっ……はぁっ……」


体力も何もかも使い果たして、その場に寝っ転がって荒く息をする。


今までの人生で一番疲れていたけど、ここまで充実感に溢れた気持ちを感じたのも人生で初めてだった。


「どう?これで俺の事、、ちょっとは分かった?」


この勝負の目的はあくまで実力の勝敗を分ける事じゃない。

だからこの質問次第で、さっき意地を張った甲斐があるかどうかが決まる。


「……そうだな、少なくとも本当の一人称が俺だって事は分かったよ」


{出てたのか、、、でも……}


「はは、本当に分かったの?」


そう問いかけると、ゼノはむくりと上半身を起こしてから答えた。


「俺はさっき言った通り貴族連中が嫌いだ。あいつらからは熱意が足りねぇからな。

でもお前にはそれがあった。同じだなんて言ったのは訂正しといてやるよ」


これは彼なりの褒めと謝罪、なのだろう。

不器用でも伝えてくれたことがとても嬉しくて、こっちも同じ様に体を起こして。


「でしょ?」


自分の顔は見えないものだけど、今までに無い位心から笑っている事だけは分かった。


「あと、俺はお前自身の事は認めたとしても、エレディータとしてのお前は嫌いだ」


少し顔を背けながらぽつぽつと言い始める。


「だから……もうくだらねぇ嘘とかつくんじゃねぇぞ。少なくとも俺の前では」


「……じゃあこっちから一個だけお願いがあるんだけどいいかな」


すっごく嬉しい事を言ってくれたけど、まだ一つだけ足りない事がある。

それは……。


「俺自身を認めてくれたならさ、そろそろ呼んでくれていいんじゃない?名前」


そう言うと、ムッと反応し。黙りこくってしまう。


「ほら、ベルって。一回だけ!一回だけだから、ね?」


「はぁ?なんで求められて呼ばなきゃなんねぇんだよ名前なんて。

今じゃなくていいだろ」


こういう普通のじゃれ合いみたいな会話も、思えば初めての経験だった気がする。


{もし友達っていう関係が本当にあるなら、これがそうならいいな}


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「ベル!」


「……ゼノ?」


そんな出会いをした二人が今、何を交わすのか。


「あの時の約束を思い出せ!」


{約束……あ}


「これまでのはチャラにしてやる!その代わり、俺の敵(こいつ)にぶちかましてやれ!」


その瞬間頭に湧き上がるのは、これまでの自身の行動。


嘘を嫌い、自分を取り繕う事はしないでくれと約束をした相手を前に。何度も何度も取り繕い。

本音を隠してきた事。


{ゼノは……優しいな、口実まで言ってくれて。本当に}


ずっと床に膝を着いて動かなかったベルが、ここで立ち上がる。


{それに応えるのが、、友達の役目ってやつなんじゃないのか}


「ごめん、ありがとう。もう自分には負けない」


本人には伝わらない程小さいな声で零し、再びミナトに向き合う。


「……お互い周囲の人には恵まれてるらしいな」


「そうだね、俺も今なら少しそう思えるようになったよ」


聖魔祭以来使ったのは二度。

偶然立ち寄るタイミングで起きた王都防衛戦にて、ギリギリでゼノを救った時の戦闘時と。

先日の対テロリスト制圧戦で発動した時のみ。


受け継がれてきた伝統の奥義とも言える魔法、アフィス。

体の周囲が光を纏っているに輝かせているのが発動している証だ。


「待たせたかな、ここからの俺にはちょっとだけ。期待してもらっていいよ」


その姿が重なるのはやはり……。


(まともに受ける機会は全然なかったな、そういや)


かつての友の事を一瞬思い浮かべ、直ぐに意識は目の前の相手に戻す。


「来い!」

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