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忘却の勇者  作者: くろむ
後生一生編
146/175

第百四十二話 手の届かない事と届く事

騎士団からの取り調べが終わり、引率で来ていた第四の教師の迎えが来てようやく帰る事が出来た一団。


「色々ありましたが、全員無事で事件が解決して何よりです」


寮へ歩きながらそう切り出したのはアンテレ。


「アイク、最後あいつ相手によく持ちこたえてくれたな。

言いたくはないが実力は本物だったし、本当によくやったぞ」


ようやく気楽に話せる時間が来たのでそう言ってミナトは褒めようとするが。


「……結局ミナトやルチアさん…皆が居てくれたからだよ。僕だけじゃ絶対どうにも出来なかった」


少し自信なさげな様子。


「ご謙遜を。

咄嗟のお二人の連携は、流石と言わざるを得ないものでしたよ?」


「そうそう!ルチアさんも結構頼りにしてたしね」


「頼りにしてた訳じゃねぇよ勘違いすんな。使えるものは使うスタンスなんだよ私は」


「まぁ……ちょっとは認めて貰ってた事も知れて嬉しくはあるかな」


「なんで私がお前を褒めたみたになってんだよ……もういいや」


でもなんやかんやで会話はそこそこ弾み。

寧ろ共に窮地を乗り越えた事で皆の仲が縮まったようにも見える。


一瞬気になる表情をしていたアイクも普通にしていて、前々から気にしていたベルもこうしてみるとただ同級生と会話をしているだけで。

特別変にも見えない。

もしかしたら気にし過ぎていただけか?と張り詰めていた気を抜きながら思うミナトだった。


______________________________________


寮に着いた後、今日はもうゆっくりしようと皆がなっていた中。

彼はあまり周囲に悟られぬよう再び街へ繰り出していた。


大通りを暫く進み、そこから何度か曲がりながら歩くこと約十分。


この街にしては少し人通りの少ない所にあるパン屋に入店。

入って店内に自分以外の客が居ない事を確認した後、会計スペースに立っている店員に一言。


「あんぱんは冷えていますか?」


一見意味不明過ぎる質問をしたと思うと。


「冷えていますよ。奥へどうぞ」


普通の接客をするそのままの雰囲気で店員は店の奥へミナトを誘導。


扉だけ開けると。


「担当の者がおりますので、自分はここで失礼します」


あくまでただの店番。を装う為か、一言だけ伝えるとそそくさと表に戻って行った。


(ここは初めて来たけど結構手馴れてんな……つーか改めてこの暗号変だよなやっぱ)


一連の流れを見ていれば当然わかると思うが、ここは普通のパン屋ではない。

王都でミナトが度々訪れている例の酒場同様の諜報員が潜んでいる施設だ。

どうやら彼自身が来るのは初めてでも、他の諜報員達は頻繁に出入りしているのか。案内やその後の行動にかなりの慣れを感じる対応。


(まぁ今はいい、あんまり長居も出来ないからさっさと終わらせよう)


長時間出ていると、どこに行っていたのかと聞かれる可能性がある。

そもそもで言えば動向監視の魔道具がある以上教師連中には筒抜けなのだが……だからこそゆっくりしている暇はないのだ。


「で、報告を聞こうか。一体どうなっている」


なので早速本題に入り聞くのは、恐らくさっき言っていた担当の者。

テーブルを間に挟み向かうように座っている男に報告を求める。


「大変申し訳ございません。実は……」


その後報告を受けたミナトだったが・・・。








「成果報告のみが来ないだと!?」


「も、申し訳ございません!」


「くっ……いい、考える時間をくれ」


これは非常に珍しい場面だ。


メンバーが恐らくであるが任務に失敗したのも、ミナトが彼らの前で感情をここまで露わにする事も。


(人員が揃ったから突入する報告までは来たのにそこから一週間?一週間も掛かる訳がない!

一体どうなっている、仮に幹部クラスの魔族が居たとしても一人位は逃げ切れる程の実力はある)


以前学園祭の時に感じた気配に関しての調査。

他でもないミナトからの要望で万全を期すよう言われていたので、彼らは最大限の事を行った。


諜報員達の中でも間違いなく精鋭だと言えるメンバーを揃え。

入念な下調べをした後に、これから調査対象である魔族の拠点に突入するとの便りを出し。

少なくともこの短い期間で三度も報告を飛ばしている時点でこれまでなら異常な部類。


そこまで慎重を重ね行動していたのに、調査報告は来ず。


突入報告から日数を数えれば一週間の間音沙汰無し。

仮に戦いが長引いたり奇襲の為に攻撃を仕掛けるまで時間が掛かったとしても、そこまで掛かる事はまずない。


「先日こちらから返事を求めたのですが、伝達用の使い魔が書類を渡さないまま帰って来て……」


「……」


例え嵐が起ころうが大陸横断レベルで距離が離れていようが確実に伝達をこなしてきた使い魔だ。

今更そこを疑う事はない。


その使い魔が本来の仕事をせず帰って来た場合考えられる事態は一つだ。


受け取る相手が死亡、していなくとも限りなくそれに近い状態にある時のみ。


(任務の失敗……命を最優先するよう指示は出した、恐らく逃げる事すら出来なかったんだろう)


暫く黙り込むミナトを前に報告をする男も苦い表情をしている。


「…弁明の言葉も出てきません、今回の失態は……」


謝罪の言葉を口にしようとした時、最後まで言わせる事なく流れを奪うように彼は告げる。


「いい、そんな事聞きたくもない。それより新たな伝令を頼む、マスターの方に伝えておいてくれ」


今回の事はもう悔やんだとしてもどうしようもならない。

なら今の自分に打てる手は何か。


考え得る限り最も確実で。少なくとも今心の中を渦巻いている重く濁ったような感情にはならない方法が一つだけある。


「そこには俺が直接向かう、逃げ足に優れた奴を二人だけ同行させたいからその手配も頼む」


「!そ、それは流石に我々の面目も立たないと申しますか…もしあなた様にまで……」


「悪いが拒否は許さない。同行させる者は最悪寄越さなくて結構だ。

ただいざという時の指示はあいつに知らせてあるから、それに従って動いてくれ」


有無を言わさぬ雰囲気でそう伝え。

とにかく自ら乗り込む事だけは絶対らしい。


「っ……分かりました、マスターの方には伝えておきます。

選りすぐりの者を同行させるようにも」


止める事は出来ないと悟ったのか。せめてもと言葉を付け加える。


「すまないな、俺が我儘で。だが助かる」


______________________________________


(とは言ったものの、向かうのは流石に留学から帰ってからになるか)


店を出て寮に帰りながら今後の立ち回りを考え始める。


(距離的に学校は休まないと往復は無理だな……タイミングも先生と相談しないと)


結局帰ってからもやる事は山積みで。

考えるだけでも頭が痛くなってくる量ではあるが、案件が案件だ。

部下の敵討ちも含まれているとなれば。弱音なんて吐く気にもならなかった。


(だったら今出来る事は、、あれだな……)






再度寮まで戻り、留学組が使っているエリア付近まで行くと。


「あ、ミナト!どこ行ってたのあんな事あった後に…」


どうやらこちらを探していたのか、辺りをきょろきょろとしていたアイクと鉢合う。


「これ買いに行ってたんだよ。ほれあんぱん」


「え?あんぱん?あ、ありがと……」


言い訳用に貰って来ていたお土産を渡して誤魔化すと。

視線は別の方へと向けられていた。


どうやら丁度向こうも話が終わったのか、見ていた人物がこちらに気が付き近付いてくる。


「先程ぶりですね、それを買いに出ていたのですか?」


偶然さっき教員との話を終えたベルがそう尋ねてくる。


「まぁな……そうだ、いきなりで悪いんだけどさ。

明日とかって空いてないかな」


「あ、明日ですか?まぁ一応午後からでしたら」


本当にいきなり尋ねるミナト。


「どうしたの?本当にいきなりだし、珍しいじゃんそういう事言うの」


横で聞いていたアイクも少し驚いた様子だったが。


「アイク、お前もその時間来てほしんだが構わないか?」


またまた予想外の着弾。


「そりゃ僕も空いてるけど……本当にどうしたの?」


流石に疑問が無視できない程浮かび上がって来ている。

そして彼の方も別に理由を伏せる気などは無く。


「実はちょっと自主練に付き合ってほしくて、、あそこの練習場集合でいいかな」


二人共色々と聞きたい事がある様子ではあったが、取り敢えず了承し。


これにてミナトによる唐突な練習会が開催される事となる。

あんぱんはかなりマイナーな料理で、そもそものあんこがヤマト族に伝わっている物ですから。

刀の知名度がいまいち高くなかったようにあんこの知名度も高くありません。

因みにですが、後で貰ったパンを食べたアイクは「うちの寮の近所にあんぱんが売ってないか探そうと思う」となるほど気に入ったようです。

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