第百三十九話 未知との出会いの中で
ミナトが手や指の関節を外して手錠から抜け出したのに対し、彼女の方はと言うと……。
完全な力業であった。
「にしてもルチアさん本当もう、、、凄かったね。何から何まで」
「……ふん」
この展示会には一人で来た訳ではない。
共にやって来たのはいつものフレアであるのだが、二人揃っていた事は幸運だっただろう。
更にここの制圧にはもう一名が居た事も大きかった。
偶然この場に居合わせたアイクだ。
「二人がここに来てたのもそうだし、僕が偶々はぐれてるタイミングでここに座らせられてたのも凄い偶然だね…」
「はぐれてる?それってもしかして……」
フレア言いかけたところで、ある存在を思い出したアイクがルチアにある事を頼む。
「実はこっちに手錠の破壊をお願いしたい人がいてさ、お願いできるかな」
「……まぁ良いけど」
そう言われパパっと魔道具を壊すと、驚きながら立ち上がったのは。
アイクと共にミナト等と別行動をとっていたアンテレ。
「三人とも本当にお強いですね……全部助けて貰っちゃって、、ちょっと情けないです」
実際しょうがない場面だったので別に自分の能力不足を嘆く場面でもない。
先ずそもそもで言えば手錠の破壊をしたルチアが一番おかしい。
別の場所で必死に骨を弄くっていた彼と違って、魔力を抑える魔道具に対して。許容量を超える魔力を流す事で破壊。
なんてとんでも手段で突破していたのだ。
勿論だが、そんな事本来出来る芸当ではない。
彼女の持つ魔力量が桁違いなだけ。
その後は隣に居たフレアも自由にし、他の人質の姿でよく見えなかった位置に居たアイクを発見。
魔力は無くとも素で足の速い彼の方からも近寄らせることでこちらも即刻解放。
試作段階だという速射性に優れた新魔法で倒していくルチアと。持ち前のスピードこそあれど、決して得意ではない徒手空拳でなんとか頑張ったアイク。
二人をフォローをしながら場のバランスを保っていたフレアの活躍でこの部屋を制圧。
そして現在に至る。
「これからどうしよっか。直ぐに異変に気付かれるだろうから、って言うかもう気付かれてると思うし。
向こうからやって来られるよりはこっちが先手を取った方が良いかな」
「!だったら、ミナト達があっちの方に居るからそっちに行ってそこから一緒に……っ!?」
今後の動きをどうしようかと話し始めたところ、直ぐに異変に気が付くアイク。
敵襲や増援とも違うそれは……ルチアだ。彼女の表情がある単語を聞いてから急変している。
「もしかして僕今やっちゃった?」
直ぐさま小声でフレアに確認を取る。
「さっきもちょっと暴走しかけてたところあったから多分そうかも……」
{もしかしてあの時怒ってたみたいに見えたのってミナト君の事で?こんな状況でもいつも通りなのは頼もしいけど今はちょっと……}
思い返してみれば、反撃に出る直前。
突然ルチアが怒りの形相をしていた事を思い出す。
その時は冷静になるよう宥め、作戦を一緒に立てたが。原因は分からなかったまま。
「……」
正に今のような顔を先程も浮かべていたのだ。
彼女の思考回路では。
試作中の速度特化の魔法で敵を倒そうかと考えていたところ。速度特化の魔法、からミナトに結び付き。
この魔法を作り出したきっかけも彼に対抗しようとしての事だと思い出す。
そして今この状況で何故彼の事が頭に浮かんだのか。それは自分が出来るか分からないと考えていた時に彼の顔を思い浮かべてしまったから。
つまり無意識の中で、自分には出来ない事もあいつなら出来てしまうんじゃないかと考えているのでは?と何故かなり。
そんな事を考えるなんて情けない!私にだってこの状況をひっくり返す位出来るし!となったようで。
戦いも落ち着いたタイミングで彼の名を聞いてしまった事により、再び怒りが湧いて来たのだとか。
{この状況でルチアさんが冷静じゃなくなるのはマズい、、名前は出さずに誘導する方が良かったかも}
禁句を踏んでしまったと焦るアイクを他所にするかのようにルチアは一言だけ。
「そうだな、あいつも回収していくか」
たった一言だけだったが、その場に居た彼女をよく知る二人にとっては驚き以外の何ものでもなかった。
{ル、ルチアさんがミナトの事で素直に……?こんなピンチ程度で人が変わる事はないはず……もしかして何かあったのかな}
{意外……正直もっと不貞腐れた感じで渋々行く流れになると思ってたのに}
割と散々な言われようだ。
だが先程同様、彼女にも彼女なりの考えがある。
{あいつもイラつくし、私にもイラつく。でも……フレアがあんな顔してたんだ。私だけ感情抑えられないのはダセぇよな}
それはフレアが彼女を落ち着かせようとしていた時の事なのだが……。
後日、彼女が直接本人に伝える機会があるのでまたその時に。
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「よし、この先曲がった所に……!」
アイクが先導してミナト達の居る場所へと向かっている最中。
その間にもやはり多くの捕らえられた人々が見える。
{ごめんなさい、絶対助け出すから。後もう少しだけ待ってて…!}
手錠の破壊自体は出来るが、全員しようとすれば相応の時間が必要になるし。
一般市民の彼らを解放したとしても逆に反抗にあう可能性があるからと、今より扱いが酷くなる可能性もある為。
戦闘が出来る自分たち以外はそのままにしておくしかなかった。
苦い思いを噛み締めながら通っていた時。
「っ!全員ストップ!」
先頭にいるアイクが唐突に告げる。
かなり切羽詰まった様子だ。
止まった要因と、彼が焦っている理由は直ぐに分かった。
「お、君達だよねーさっき派手に暴れてたの」
人質を片手で捕まえながらそう言う男は。これまでの奴等とは確実に違う雰囲気を纏っていて。
「そういうの困るって言うか……まぁ結局俺が全員倒せばいいんだけどさ」
あの人を無傷で助けないと。などは関係なく、純粋な力量の差がただ佇んでいるだけで分かる。
{こいつ……ヤバい。とにかく分かる事は一つだ。強い、間違いなくこの集団で一番。そう断言できる}
アイクと違い息を呑む程ではないにしろ、あのルチアもかなり警戒を示している。
敵の中で最も手強いと直感する程の相手。
ここに来て、実力差が明確に開いている敵に遭遇。